第9話 フォークマス奪還作戦開始

 基地から東へ向かい、そこで俺たちは艦隊と合流した。

 フェニックス、スザク、ガルーダにそれぞれ3隻の軍艦が割り当てられ、第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊を編成する。

 フェニックスが旗艦となる第1艦隊に割り当てられた軍艦は、3隻全てがジャベリン級と呼ばれる長距離攻撃型の軍艦。

 スザクが旗艦の第2艦隊には、レイド級という戦闘艦が1隻、ランド級という揚陸艦が2隻割り当てられている。

 俺の第3艦隊には、レイド級が3隻。

 ま、これで完全に役割が決まったようなもんだな。


 ジャベリン級は、平たい船体に巨大な連装砲を2つ積んだ約180メートルの軍艦。

メインエンジンは2つだ。

 レイド級は150メートル程度で、くさび形の船体に大小さまざまな兵装を積んでいる。

 エンジンは小型だが、それが3つ横並びになっていた。

 ランド級は230メートルの四角い巨体で、2つの大型エンジンを背負っている。

 もろ揚陸艦って感じの船で、あんなの自衛隊にもいた気がする。

 これら全てが鉄製で、リベットとかもあるから、完全にファンタジー要素ゼロだな。


 ところで、艦隊と合流するためガルーダを動かしたもんだから、おかげで基本操作は分かった。

 4つのメインエンジンに送る魔力の量を増やせば推力が増す。

 メインエンジンのノズルは推力偏向型で、船の向きを変えたければそれを操作する。

 それに加えて各所に配置されたスラスターを使えば、かなり無茶な方向転換もできる。

 結構単純だな。


 驚いたのは、音速を大きく超えたスピードで飛べたことだ。

 この大きさで音速超えるとか、率直にヤバいという感想しか出てこないぞ。

 しかも、それを他の船も普通にやってるんだ。

 なんなんだこの世界、オーバーテクノロジーすぎるぞ。

 だがこれは、スピードと機動力が自慢のガルーダ、期待できる。


 それと、遠くを見るための望遠魔法とやらをロミリアから教わった。

 敵艦の探知は、魔力を放って跳ね返ってきたものから推測する、という方式だ。

 まるっきりレーダーと同じ原理だな。

 ただ、やっぱり直接この目で見ることに超したことはない。

 見敵必殺、サーチ&デストロイの徹底である。


「目的地は、こっから300キロ東ってところだな」


 フォークマスはガーディナ王国内に存在する職人の自治領で、港町とのこと。

 まだ山脈の上空にいるもんだから、港町なんて見えやしないが。

 こういう時にこそ遠望魔法だ。

 さっき試してみたんだが、この魔法は遮蔽物がない限りどこまでも見える。

 あんまり遠いと惑星が丸いせいで見えなくなるが、今は高度8000メートル。

 300キロ先ぐらい見えるだろう。

 さてさて、敵さんはどんなものだろうか。


 東の方向、海岸線沿いに大きな街を発見、ズーム。

 街は壁に囲われ、港には帆船が複数。

 白い石壁に赤い三角屋根の、3階建ての建物がぎっしりつまった、綺麗な街だ。


 対照的に、その上空には禍々しい軍艦が浮いていた。

 まるで槍の切っ先のように鋭い艦首、角みたいな細いものが後方に4本伸びている艦尾を持つ船が4隻。

 ドラゴンに見えなくもない。

 そしてイカのような形をした巨大な船が1隻、それらを従えるかのように、街の中央部の上空を陣取っている。

 おそらく、あのイカ型が旗艦で、ドラゴン型を率いているんだろう。

 全艦が真っ黒で、怪しく光る紫色の光が禍々しさに拍車をかける。


 あれが魔界軍の軍艦であることがわかったのは一瞬だ。

 むしろなんであんなに、俺たちは魔界軍だ! みたいな姿形なんだろうか。

 こっちは近未来的かつ無骨で、ファンタジー感皆無なんだぞ。

 まったく、魔界軍はファンタジーファンタジーしやがって、うらやましい限りだ。


 そういや事前情報では敵艦は7隻のはず。

 あとの2隻はどこなのだろうか、探してみる。

 空を探してもどこにも見つからないので、地上を探してみた。


 すると、ようやく見つけた。

 ほとんど長方形の船体に、側面には蛇のような装飾。

 なんとも動きにくそうな船体。

 禍々しさでは空に浮かぶヤツらに負けるが、存在感はある。

 思い出した。

 敵艦の7隻のうち、2隻は揚陸艦らしい。

 とするとあの2隻は、揚陸艦で確定だな。


「第1艦隊はこの辺りで待機だな。ライナーの野郎、遠距離攻撃は任せたぞ。アイサカ司令、準備は良いな」

「はい」

「よぉし、そろそろ推力を上げるんだ」


 俺は頷き、メインエンジンへ込める魔力を増やす。

 試し撃ちでほんの少し減った魔力も、ここに来るまでの時間経過で回復している。

 問題ない。


 第2艦隊と一緒に速度を上げ、フォークマスに近づくと、地上を埋め尽くす共和国騎士団の本隊が見えてきた。

 この騎士団はフォークマスに向けて進撃している。

 その数2万人らしく、凄まじい数だ。

 コミケほどの数じゃないが、テキトーな格好と怠けた体型のオタク共と違い、鎧に身を包んだ屈強ガチムチ騎士たちじゃ迫力が違う。

 今回の作戦の主役は、実のところ彼らだ。


 ここで、エリノル参謀総長から伝えられた作戦を俺は確認する。


 俺たちは訓練もまともにやらずに実戦に投入されるが、それには理由があるらしい。

 フォークマスを占領しているのは魔界軍の斥候で、本隊はこれから来るそうだ。

 万が一そっちが来たら、今の俺たちじゃ勝てない。

 だからそっちはこちらの世界の人間が率いる第4艦隊と第5艦隊に任せる。

 俺たち〝新兵〟は、数の暴力で斥候を潰すのだ。

 つうかなんだ? 艦隊司令が新兵って。


 まあいい。

 敵は5隻の戦闘艦と2隻の揚陸艦、推定6000の魔族兵がフォークマスに篭城。

 こっちはそれに、10隻の戦闘艦と約1500人ずつの兵士を乗せた2隻の揚陸艦、 2万人の騎士団で殴り込むのだ。

 まさに数の暴力、3人の異世界者もいるんだから、負けはしないだろうとのこと。

 戦いは数だね、エリノルの姉貴。


 フォークマス奪還作戦は、まず300キロ離れた位置から第1艦隊が敵の戦闘艦に砲撃、敵艦を牽制する。

 その間に俺率いる第3艦隊が、久保田たち第2艦隊を護衛、フォークマス上空まで突っ込む。

 第2艦隊はフォークマスの城壁内部、つまり街中に兵士を降ろし、内側から撹乱、城壁の扉を開ける。

 そこに共和国騎士団が突入して、無事に奪還、めでたしめでたしという算段だ。


 はっきり言って、素人の俺にはこの作戦がうまくいくのかわからない。

 でも、共和国軍のお偉いが何日も掛けて練った作戦なんだから、たぶん大丈夫なんだろう。


「フォークマスまで250キロ」


 航海士(空飛んでるのに航海士って、不思議だ)が報告する。

 俺は遠望魔法で敵の様子を探ると、さすがに向こうもこちらに気づいたんだろう。

 戦闘艦が全て、こちらに艦首を向けている。


「高度下げるぞ」


 俺は司令であって、ガルーダで一番偉いのは艦長のフォーベックだ。

 だから、ガルーダについての命令は彼が行い、俺はそれに従う。

 司令が船を操縦するから、こういう変なことになるんだ。


「第3艦隊全艦、高度を500メートルまで下げろ」


 でも、俺は第3艦隊司令だ。

 艦隊に命令を出すのは俺である。

 そしてよく考えると、はじめて司令らしいことを口にしたな、俺。


「アイサカ司令、急降下すると艦内が滅茶苦茶になる。こういうときに、艦内の重力を操作するんだ」


 なるほど、あれはそうやって使うのね。

 そうとなりゃすぐ使うのが俺だ。

 重力装置の小さい方に魔力を送り、装置を起動。

 体が床に軽く吸い付けられる。


「急降下」


 こうした急な動きは、事前に伝えなきゃいけないとのこと。

 だから俺はそう言ってから、大きい方の重力装置の魔力を一気に弱める。


 次の瞬間、遠くにあった地上が凄まじい早さで近づいてくる。

 水平のままでの降下だが、高度を示す計器は狂ったように数字が小さくなる。

 わずか30秒程度で、6000メートルから500メートルまで降下した。

 本来なら体が天井に叩き付けられてもおかしくないが、小さい方の重力装置万歳である。

 ……小さい方と大きい方なんて、用を足す時みたいな呼び方でなんか嫌だ。


 だがどうも、他の船は1分程かけないと5500メートルの降下はできないらしい。

 ガルーダが500メートルに到着してから随分と経って、第3艦隊と第2艦隊の船が同じ高さに降りてきた。

 どうやらこれが、ガルーダの高機動ってやつなのか。

 他より2倍、赤いアレ程じゃないが、戦場では十分な性能だ。


 今までよりもガーディナ王国の地上がよく見える。

 すると、さっきから黙っていたロミリアが急に身を乗り出した。

 どこか泣きそうな顔で、地上を必死に見ようとしている。

 どうしたのだろうか。


《こちら第1艦隊村上。魔界軍に一発ぶっ放してやる!》


 ロミリアのことを気にしていると、第1艦隊から調子に乗った奴の言葉が艦内に響く。

 魔力に声を乗せて送ることで、無線的なこともできるのだ。


 村上の言葉のすぐ後だった。

 俺たちの頭上を、太く力強い、赤い色のビームが4本飛び抜けていく。

 そして少し遅れて12本のビームが、それを追ってフォークマスに向かう。

 艦橋が赤色に照らされた。

 あれは、色からして熱魔法。

 第1艦隊から放たれた長距離砲の攻撃だ。


 合わせて16本の熱魔法ビームは、5隻の敵艦全てに命中する。

 しかし敵艦も防御魔法でそれを防いだのか、紫色の光にビームは吸収されてしまう。

 いや、敵も無傷ではない。

 最初に見た太いビーム、あれは村上の作った熱魔法攻撃だろうが、それが命中した敵艦のみ、他とは違う現象が起きていた。

 紫色の防御壁に大きなひびが入っていたのだ。

 村上のヤツ、熱魔法で防御壁に傷つけやがったぞ。


 まあちょうどいい。

 これで敵艦は防御魔法に集中しなければならない。

 この間に俺らが突入すりゃ良いんだ。


「第3艦隊、フォークマス上空に突っ込むぞ!」


 俺はそう指令し、メインエンジンに魔力を込め、砲に熱魔法を送った。

 はじめて経験する戦争が、今はじまったのである。

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