第351話: 柱破壊計画1

 脱獄が成功し、歓喜の渦の中にあった場が、突然のナーギルとマーカスの離脱に一転して雰囲気が暗くなっていた。皆が口を閉し、不安そうな目でオディールへと視線を送る。


「止めないの?」


 オディールは明後日の方向へ視線を送り、目を瞑る。


「悪いがナーギルのあの目は本気だ。誰が何を言っても聞く耳を持たないだろう。ナーギルのことはマーカスに任せてある。それより人数が減ったんだ。リシルスもこっちに来い。今から魔核である柱破壊計画を説明する。お前には北側を担当して貰うつもりだ」


 インベントリ一族総勢十八名。内二人が離脱し、十六名となり、それを四人ずつの編成へと振り分ける。

 オディールの考えている柱破壊計画とは、戦力を均等に4つに分散し、複数同時破壊だ。ただでさえ少人数でもあり、戦力の分散は自分で自分の首を絞めるにも等しい行為に中には反論する者も現れたが、最終的にオディールの説得により、そのまま作戦会議は継続した。


「今回は短期決戦が狙いだ。前回は慎重に慎重を期したのが裏目に出てしまい、その隙をナターシャに狩られたからな。それに我々を追っている相手の数は我等の何十倍、いや何百倍だろう。いくら我々が選ばれた優秀な一族と言えど、多勢に無勢。数の暴力の前では何の意味を為さないだろう。ならば、分散しての短期決戦に賭ける以外に残された手はない」

「お前の考えは分かった。で、どうやってチーム編成するつもりだ?」

「可能な限り全箇所での勝率を高める為には、やはり戦力は公平にすべきと考える」


 オディールに一人一人名を呼ばれ、四人四班による編成が組まれた。


「別れたな。ならば四人の中でリーダーを決めてくれ。別々に行動してからの俺からの指示はリーダーに直接伝える」


 私は北柱担当で、叔父にあたるギオーテ。その娘アーリャ。オディールの息子であるオルラードに私を入れた四名だ。皆親族とは言え、まだ物心着く前に離れ離れとなってしまった為、顔見知りは一人としていない。


「よろしくね、ユリシアちゃん」

「悪いがボクを戦力に数えないでくれよ。武芸の方はからきしなんだ。その分、この類稀な知恵を使い貢献させて貰うよ」

「年功序列で行くならば私がリーダーなのだろうが、ここは最も強いユリシアに任せたい。頼めるか?」

「異議はないぜ」

「私もよ」


 了承してないのに。黙っていたら私が北班のリーダーになってしまった。


 その後、大まかな柱の場所と破壊する方法をオディールから説明を受け、それぞれの班に別れ解散となった。

 南班と東班は転移で何処かへと消えた。

 確かに場所が分かれば近くまで転移ですぐに移動可能だけと、生憎と私たちの担当箇所は魔界の果ての果てと呼ばれるところで、メンバーの誰もその場所、その場所の近くですら訪れたことがない。


「徒歩ね」

「まさか。飛んで移動するぞ」

「分かった。急ごう」


 あれ⋯。私がリーダーだった気がするけど、置いて行かれた?


 アーリャが索敵を行い、慎重に且つ迅速に移動する。

 厳戒令が敷かれているのか、周りは魔王軍で溢れていた。


「すげえな、これは」

「さすがはりっちゃんだね」

「だが、動きにくいのは難点だな」


 すぐ近くをすれ違っているにも関わらず、まるで私たちに気付くそぶりはない。


 《闇夜の衣》


 姿を完全に消してしまう闇系魔術。

 私はリーダーだからね、少しはリーダーらしいことをしないと。

 でもこれは本来自分一人用の魔術の為、密着して移動していた。


(北班聞こえるか!)


 それはオディールからの緊急の念話だった。


(くそっ、東班がやられた。あいつら俺たちの行動を先読みして柱の周りで非常線を張ってやがった! 東班との連絡が途絶えたんだ)

(柱の場所は奴等は知らない筈じゃ)


 オディールしか知らないはずの場所で事前に待ち伏せなど出来る訳がない。情報が漏れた? あるいは⋯


(俺たちの中に裏切り者がいる可能性がある)


 裏切り者か。そう考えるのが妥当だよね。でも、それを私に教えてもいいのかな。むしろ私は一番信用されてないと思うけど。付き合いも短いしね。もし私が裏切り者だった場合、気が付いていないと思わせていた方が優位に動ける。


(私に教えていいの?)

(お前は一番信用している。なにせ俺たちを脱獄させてくれたからな)

(一族を皆殺しにする為の自作自演だとしたら?)


 勿論、私は裏切り者ではない。


(裏切り者の目星はついている)

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