第304話: 破壊神トリアーデフ編12
アンデット蠢く結界の中で奮闘する勇者一行。
既に結界に入り数日が経過していた。この場所には、勇者一行であるレイン、リグ、リン、セリーヌ、ガルシャに加えてもう1人。
「あの野郎。出れないなら出れないって言えよな。もし無事に外に出れたら一発殴ってやる」
「ガルシャ、それって死亡フラグ立ったんじゃない?」
「セリーヌ、冗談はよしてくれ。にしても、後がない戦いってのがこんなにもしんどいとはな。消耗して仕方ねえ」
慎重に事を運んでいるお陰で、余裕とまではいかないまでも、苦戦する事なく順調に掃討作戦を遂行していた。
正午過ぎ、本日3度目の休憩中の折。
「セリーヌの見立てで、残りどれくらいだと思う?」
「そうね、広すぎて全体を把握出来る訳じゃないけど、大体後1/3ってとこかしら」
彼等はヒットアンドアウェイを繰り返し、何とかここまで数を減らす事が出来ていた。致死の攻撃を喰らえば、たちまち自身もアンデットとなり、一転して敵となってしまう。加えて敵の強さもさるものながら補給も出来ないまま、疲弊しては退散する戦法を取らざるを得なかった。敵側はレベル50オーバーの7大魔王に強化されたモンスター軍団。更にはアンデットと言う事もあり、精神的にもこたえていた。この世界でも最強の勇者一行と言えどジリ貧を強いられていた。
そんな彼等の元に近付く影が一つ。大きな鉄製の鍋を宙に従わせてやって来た。
「皆さん、出来ましたよ。本日はウォータイガーの肉と極悪草をふんだんに使った魔界特性鍋ですよ。あ、少しだけピリ辛にしていますよ」
浮遊術により煮えたぎる鍋を器用に操り、5人の前へと運ぶ。
「お、今日も美味そうだな」
「本当貴方が料理が出来て助かったわ。私達は誰もてんで料理が出来ないから」
「リグもいい年なんだからそろそろ料理を覚えてもいいんじゃない? 手料理を振る舞いたい相手が出来たらどうするの」
リグが見る見るうちに赤面していく。
2人の会話を他所にレインとガルシャはもくもくと食事をしていた。
「そ、そんな相手いないわよ! それにセリーヌ、貴女に言われたくないわよ!」
「あらぁ、これはもしかして本当にそんな相手がいるのかなぁ? あの剣姫のリグ様にもやっと春が訪れたのねぇ」
「まぁまぁ、綺麗で魅力的なお二人が喧嘩は良くないですよ。ボクがいる限り、料理や雑務などは全てお任せ下さい。勿論戦闘もね」
「確かに優秀よね貴方。魔族にしておくのが勿体ないわ。どう、この任務が終わっても私達と行動を共にしない?」
「あぁ⋯なんと心苦しいのだろうか⋯こんなに見目麗しいお嬢様方のお誘いだと言うのに、お断りしなければならないなんて、、なんてボクは罪深い男なのだろうか」
魔界から派遣された助っ人は、料理もさることながら戦闘においても優秀だった。
しかし、性格が非常に残念だった。
「魔界でボクを待っている方達がいるのです。ボクは彼女達を裏切る事は出来ない。有り難い申し出ではありますが、申し訳ございません」
彼は魔界でも最強と名高いクオーツの団長。名をアルザス。魔王代理であるメルシーによって、7大魔王討伐へ派遣されていたのだ。
「リグ、セリーヌ、アルザスさん。会話も構わないが、時間が惜しい。食べたらすぐにまた殲滅を開始したい」
少しだけ苛立ちの篭った物言いに、3人は素直に会話を打ち切った。
その後も慎重に慎重を上乗せした勇者達の戦いで危なげなく最後の1体まで排除する事に成功していた。
「お決まりだな」
「お決まりね」
目の前に突如として現れたのは、まさにラスボスと言っても過言ではない、今まで排除してきたアンデットの中でも一際強大なオーラを纏っていたドラゴンゾンビだった。その全長は凡そ50m程だろうか。
「俺の見極が発動しない。恐らく90オーバーだ。覚悟して挑むぞ」
「あんなの見た目だけだって、あたしの魔術でイチコロよ!」
セリーヌがここに来て、自身が持てる最大の魔術を行使する。
詠唱に呼応しながら正面に淡く魔法陣が出現した。
「出し惜しみはなしよ! "天音く豪風を以って立ちはだかる存在その全てを無に返さん"」
残っていた全ての魔力を注ぎ込んで発動した魔術はキリキリと甲高い音を立てながら、巨大な体躯のドラゴンゾンビを四方八方縦横無尽に襲い掛かり、細切れにしていく。無限に続くかと思われた疾風の刃は段々と小さくなり、やがて収束した。
現れたのは巨大な肉塊。凡そそこにはかつての姿が連想出来ない程だった。
「どんなもんよ」
肉塊の上でドヤ顔のセリーヌに仲間達は呆れていた。
同時に、流石はセリーヌねとリグ、ガルシャは称賛していた。
異変に気が付いたのは、レインとアルザスだ。
肉塊が僅かに動くと、何かがセリーヌの脚を掴む。
次に現れたのは、黒い鎌のような物がセリーヌを両断せんと迫り来る。まさに刹那のタイミングに、油断し切っていたセリーヌやリグ、ガルシャは反応出来なかった。
華奢な彼女の身体などひとたまりもないであろう音速で繰り出された鎌がセリーヌの身体に触れた瞬間、セリーヌがその場から消えた。
次の瞬間、セリーヌは
状況が掴めないセリーヌはあたふたと慌てるが、アルザスの顔を見るとすぐに冷静に戻った。
その視線は、滴り落ちる右腕をあったであろう場所へと向けられていた。
「ごめんなさい⋯私⋯」
「セリーヌさんが無事なら片腕など安いものです」
アルザスは何事も無かったかのように笑顔で優しくセリーヌを降ろした。
そんな2人を庇うようにレインとリグが相手との前に割って入る。
「リグすぐに止血だ」
「ええ、この場はお願い。あいつ、ヤバイわ」
肉塊から両腕だけを出していたそいつは、自らの鎌で肉塊を細切れにしてその姿を露わにした。
全身黒一色の少年にも似た風貌。その右手は変幻自在に形を変える事が出来るのか、先程の鎌の形状から今では何の変哲もない腕をしていた。
その姿を見たアルザスが、汗を一雫流した。
「まさか、
「
止血しながらリグが尋ねる。
「夢ならば覚めてほしいですね。あれは、5000年以上前に神の悪戯によって造られた特異な存在。その圧倒的な強さの前に本来ならばどの種族も奴には太刀打ち出来ないと言われている」
「相手が誰であろうと関係ない。蹴散らすまでだ」
レインが聖剣を振るい、
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