第245話: 雪女再び1
レレイが走り込んでくる。
「た、大変だよ!」
「何々、また化け物が出たの?」
レレイは首をフリフリ否定する。
「違うよ!転移門から大勢出て来たんだ!」
・・・。
レレイ、それだとたぶん誰にも言いたい事は伝わらないと思いますよ。
「え、まじ?ヤバいじゃん、早く逃げないと!」
あれ、今ので伝わった?
「分かった、全員倒せばいいんだね!」
えっと、うんと、たぶん伝わってないよね、これ。
ルーさんもユイさんもどちらかと言えばお馬鹿キャラだから、アリスさんは基本静観だし、私がしっかりしなくちゃ。
確か、エルフの里には里間を繋ぐ都市間ゲートがあったはず。
有事の際にしか使われる事がないと聞いたわね。
つまりそれは、他里に有事な何かが起きたという事?
耳を澄ませば大勢の足音が聞こえてくる。
この事から察するに、
「恐らく、敵ではありません。同じエルフ族です」
外へ出ると、武装しているエルフ兵たちが視認出来た。
あれは・・・あの独特の白の衣装に右肘のあの紋章は・・・
「其方はこの里の者か?」
エルフ兵の一人が話しかけて来た。
「いえ、違います・・」
ここにいる経緯を簡単に説明する。
説明中にユイさん達が完全武装で出て来た時は、エルフ兵達と一触即発な空気になっていた。
「それでは、君達が既にこの里を救ってくれたと言う事か。全てのエルフ族を代表して感謝する」
驚いたわね。
あの紋章、見間違いかと思ったけど、どうやらそうじゃないみたい。
エルフ、ハイエルフからなる精鋭部隊。その名もラグール。
実際に見たのは私も初めて。
同族の中でも特に戦闘技術に秀でた部隊。
でもなぜ、ラグールが?
確かラグールが動くのは、エルフ族の存亡に関わるような程の大惨事が起きた際だったはず。
その後、彼等から聞いた話では、この里のように何者かによって他里が襲撃にあっているのだとか。
それにしても、一斉にエルフの里を襲撃なんて、一体相手はどれ程の勢力だと言うの?
一頻り情報収集を済ませると、救護班だけを残し、ラグールは、次なる里を目指しトランスゲートを使って消えて行った。
「何だか分からないけど、エルフさん達困ってるんだよね?」
「これは私達が助けてあげるしかないね!」
え?
「殲滅あるのみ」
え?アリスさんまで?
強引に手を引っ張られる。
「アニも行こ!」
そのままトランスゲートを抜けた先は、まさに火煙漂う戦火の中だった。
今更だけど、許可なくトランスゲートを使うのは大罪に値したような・・。
「アニちゃん、伏せて!!」
声に反応して咄嗟に頭を下げる。
直後、頭上スレスレを巨大な瓦礫が通り過ぎていった。
ラグール達が何者かと争っている。
人ではない何か。
いや、よく見たら人だった面影がある。
「あれって、人型モンスター?」
「うーん、たぶん・・・不死系モンスターかなぁ」
その光景はまさに地獄絵図。
おぞましい形相、格好をしたモンスターが暴れまわっていた。
しかし、エルフの精鋭部隊であるラグールが、1体、また1体と着実に対処していく。
粗方殲滅が終了した頃合いになり、誰もが油断していた。
「上空から高速接近反応があります」
アリスがポツリと呟いたのと何かが地面に着地したのは、ほぼ同時だった。
全員が視線を送った先に居たのは、1匹の犬型モンスターだった。
その体躯は、全長5mと大柄で、顔は二つ存在していた。
その巨大な口からは涎を垂らし、白い吐息を漏らしている。
着弾の衝撃で数人が吹き飛ばされてしまったようで、聖職者たちが慌てて駆け寄っていた。
屈強なラグール達が巨大犬を取り囲む。
数人の魔術師は、動きを封じる魔術を行使し、その隙に前衛職業が滅多刺しにしている。
洗練されたチームワークに、なす術なく巨大犬が沈んでいくのに時間は掛からなかった。
その後も襲ってくる不死系モンスターを斬り伏せ、やがて、静けさが訪れた。
「君達は先程の冒険者か。マスターギリスが呼んでいる。あそこの宿舎まで来て頂けないか?」
もしかして、勝手にトランスゲートを使った事に対する罰則かと思ったが、話の内容は意外なものだった。
「私の名前はギリス・ブラン・モールスだ。ラグールのリーダー代役を仰せつかっている。先の闘いを見ていたが、中々に腕が立つようだな」
「伊達に冒険者してないしねー」
えっと、ルーさん、流石に軽すぎるよ。ギリス様と言えば、エルフ、ハイエルフの中では知らない人がいない程の英雄ですよ。
「無礼をお許し下さい。私の名前は、アニ・クロスマリー。ハイエルフの里、パガムの出身に御座います」
私の仰々しい態度を見て、ユイさん達も頭を下げて自己紹介をする。
「やはり、ハイエルフの方でしたか。それと、様は不要ですよアニ様。此処においで頂いたのは他でもありません。かつてないエルフの里の窮地に力を貸して貰えないだろうか?」
聞かれるまでもなく、全員の答えは決まっていた。
二つ返事で承諾すると、すぐに作戦会議が始まった。
その後、トランスゲートで順々に制圧していき、この里で5つめだった。
敵の正体は、ユウ様も話していた7大魔王の一人。
今回いつもと違うのは、偵察に向かった斥候が戻らないと言う。
事前情報があるのとないのでは、作戦成功率は大きく異なる。
「流石にもう待てない。30分後に次里へ向かう。各々、突入したら自陣の持ち場を形成後、徐々にそれを広げてくれ。安全が確認出来れば続いて支援部隊が突入する」
「私達は何をすればいいの?」
大人達の集まる中、精一杯手を伸ばし、ジャンプし、自らを誇張するユイさん。
立ち会議だった為、また目の前の机の高さも相まって、ユイ達の姿は他者からは後頭部が見える程度。
「君達は4人でチームを組んでもらう。部隊は最後方、支援部隊と一緒に入り、援護を頼みたい」
「分かりました!」
ギリス様率いる先行部隊がトランスポートに入ってから15分が経過していた。
安全が確保されれば、何かしらの合図があるはずなのだけど、30分待っても何の変化も訪れなかった。
仕方なく、サブリーダーであるエンリケ様の判断で私達とエンリケ様、ラグールの2名が中へと入る。
中へ入ると、一人の人物の姿があった。
「エンリケ様?」
「シュルケ、なぜ連絡がなかった?状況を説明してくれ」
ラグールの一人であるシュルケさんは、伝令役を務めていた。
「それが、どう言った訳か帰還の転送が始まらないのです」
「何?」
エンリケ様がすぐに元来たトランスゲートの陣の上に乗る。
普通ならばすぐに転送陣が光り輝くはずなのだけど・・
「何故だ!何故発動しない!」
原因は不明だけど、一方通行になってしまっていた。
「それで、他の皆は?」
「分かりません、私はギリス様に絶対にこの部屋から出ないように言われていたので」
「そうか、分かった。ならば、そのままお前は待機していてくれ、私達で様子を見てくる。すまぬが同行を頼む」
トランスゲートがある部屋は厳重な結界によって守られており、特殊な証がないと部屋の出入りが出来ないようになっていた。
エンリケ様が手をかざすと、その重厚な扉がゴーゴーと音を立てて開け放たれた。
「この冷気は・・」
扉を開けた途端に体感温度が明らかに下がった。
「この里は寒い地域にあるのかな?」
「いや、事前に聞いている情報だと、ここは温暖な気候のはずだ。何か異常な事が起きているようだな」
地下から地上へと上がると、その光景は辺り一面の銀色の世界が広がっていた。
建物から何もかもが凍っていたのだ。
思わず口から綺麗とこぼれそうになる。
人が凍っているのが見えなければ・・・。
まるで一瞬のうちに氷漬けにされたように目を見開いたまま凍っている。
この里の住人の中に、ラグールの姿も見受けられた。
「一体何があったんだ・・」
「アリスさん、生存反応は?」
「・・・・この里内の生体反応は48です」
「まだ息はあるのか?」
目の前の凍った人物に手を触れながらエンリケ様が不安そうに尋ねる。
「まだ生きています」
「よし、少し周りを警戒してくれ」
両の手を氷の像に触れ、呪文を唱える。
やがて、緋色の光を発すると段々と氷が溶け、地面に水滴が落ちていく。
「何か来るよ!!」
ユイさんが武器を構えて前へ出る。
目の前の建屋の屋根の上に人影が現れた。
「あらぁ、また来たのねぇ、歓迎するわよ〜」
雪のような白い肌。
白地の着物を羽織り、その長い髪は煌びやかに白く輝いていた。
白一色に反して、その眼だけは怪しく漆黒色をしており、異彩を放っていた。
「貴様がこれをやったのか?」
「ええそうよ。雪女である私の能力、氷結世界でね」
「お姉さんが、7大魔王なの?」
「うふふ、私達の正体を知ってて乗り込んで来るなんてねぇ、おバカさんね。いいえ、違うわぁ、私は下っ端の一人よ、お嬢ちゃん」
ラグールの二人が左右に飛び出し、弓を射る。
放たれた瞬間矢先が燃え、雪女に向かって飛んで行く。
雪女は動かない。
双方の矢が当たるかと思いきや、着弾の瞬間、火が消えたかと思いきや、重力に引っ張られるかのように地面へと落ちた。
「いきなり攻撃するなんていけない子達ね」
雪女が右手をかざした瞬間、矢を放った二人が一瞬にして凍ってしまった。
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