第243話: 救援1
遡る。
ユウと別れた後の話
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ユウと別れてから馬車で掛ける事、約3日間。
一行は、目的地であるミラの故郷でもあるハイエルフの里へと到着し、無事にミラを送り届けていた。
当初は1週間くらい掛かる予定だったが、グリムが張り切りすぎて予定の半分の日数で到着してしまった。
現在馬車の中には、御者をしているルーに、荷台でおやつタイムを取っているユイとアニ。
天井で監視しているアリスの4人だった。
「短い間だったけど、別れるのは辛いねー」
言葉とは裏腹にいつもニコニコ笑顔のルーだった。
「そうだね。でも、また会えるって、お父さん?言ってたし、大丈夫だよ。それにしてもハイエルフの里凄かったね!神秘的と言うか、キラキラしてたね!」
「あれは、小さな小さな精霊さんの仕業ですよ」
「えっ、そうなの!私にはただのキラキラにしか見えなかったなぁ」
「あれ、見えなかったですか?同じハイエルフですから見えるんでしょうか」
そんな和気藹々とした空気のまま、ハイエルフの里を出てから1日が経過していた。
「何だか血の匂いがする」
ユイの言葉にアリスがすぐに広範囲探索を実行した。
「道沿い前方5kmに反応が一つあります」
「血の匂いなんて物騒だね。一応警戒しておいた方がいいよね?」
そのまま警戒しながら街道を進んで行くとアリスとユイの言う通り、道端に一人の少年が血だらけで倒れていた。
「周りに他に気配はありません」
ユイが馬車から駆け下り、すぐに少年の容態を確認する。
「どうしよう・・凄い出血量だよ・・確かポーションあったよね」
馬車へと運ぶと、少年が目を覚ますまで、その場で待ち続けたユイ達は、夜を迎えていた。
少年はただの人族ではなく、エルフ族だった。
少年に見える容姿も実年齢はユイ達よりも数倍は上だった。
天井で偵察をしているアリスから緊張が走る。
「危険!猛スピードで向かってくる反応が一つあります!」
外は既に日は暮れ、鬱蒼と生い茂る林の中、街明かりや街灯などもなく、月明かりでさえ微かに当たる程度だった。
皆で相談した結果、隠れて遣り過す事になり、馬車を林の中に隠して対象が通り過ぎるのを息を殺して待っていた。
「対象との遭遇まで、凡そ1分」
アリスが小声で説明するも、問題の時間が来ようが一向にその姿は現れなかった。
しかし、変化は突然訪れた。
イキナリ目の前の街道が爆ぜたのだ。
それは、奇しくも少年が横たわっていた場所でもあった。
叫びそうになるルーの口をアニが抑える。
爆発による土煙が晴れた後には、一人の少女が立っていた。
「あれ?可笑しいな、血の匂いがここにあったはずなのに、何もいないや」
少女は辺りをキョロキョロと見回す。
流石に少し奥の方に止めただけだった馬車は、すぐに見つかってしまう。
正体のほどは知れない。
状況から鑑みて、この少年の命を奪いに来た事だけは全員理解していた。
しかしイコールそれが敵なのかどうかは分からない。
救助した少年が実は殺されるだけの事をしでかした極悪人の可能性だってあったのだから。
アリスが一人両手を挙げゆっくりと歩き出す。
「だれ?」
殺気を込めた投げ掛けも、アリスは微動だにしなかった。と言うより、アリスに殺気の類を感じる事は出来ない。
「旅の者です。敵意はありません」
「あっそ」
次の瞬間、一瞬でアリスの元まで跳躍した少女は、アリスの腹部に強烈な一撃を加え、後方、馬車の元まで弾き飛ばした。
アリスは、警戒していたとは言え、咄嗟の攻撃に受け身すら取れずに馬車を巻き込み、やがて止まった。
「痛ってて・・」
「みんな無事?」
馬車の瓦礫を掻き分け、3人が顔を出す。
アリスは、更に後方に飛ばされてしまったようだ。
「みんな武器はちゃんと持ってる?きっと本気で行かないとヤバい相手だよ」
「アニはこの子を見てて、私とルーちゃんで迎え撃つから」
「分かりました。気を付けて下さい。あの子、なんだか少し変です。常軌を逸していると言うか、異常です」
前方からゆっくりと馬車に近寄ってくる少女に一筋の閃光が迸った。
アリスのレーザーだ。
右肩にそれを受けるも、何事もなかったように歩みを止める事はなかった。
アリスも急所を狙わず牽制のつもりで放ったのだが、今度は頭に標準を合わした。
「あれは私達を害する敵と判断。標的を破壊します」
再び一筋の閃光が少女に向かって放たれるが、着弾する寸前、高く跳躍した。
アリスの頭上へと一瞬で跳躍すると、そのまま急加速で脳天へと落下した。
アリスもギリギリの所でそれを躱すと、レーザーの雨を降らすも、少女はヒラリヒラリとそれを躱していた。
ユイが視界に入るとアリスはレーザーを止め近接戦闘に切り替えるために槍を生成した。
ユイが高速で少女へと斬りかかる。
その速さにすら、少女は反応するが、ついでアリスも参戦するとその小さな身体にいくつかの傷を負い、幾ばくかの攻撃の後、少女の右手が宙を舞う。
これには流石に距離を取るべく、大きく跳躍した後、背後から忍び寄る二つの陰に拘束されてしまった。
「捕まえたよー!」
ルーの召喚した精霊だった。
少女は、身体を白い糸で雁字搦めにされていた。
これでは立つどころか身動き一つ取る事は出来ない。
ユイ達に囲まれた少女は、閉ざしていた口を開く。
「その強さ、お前達何者?」
「通りすがりの行商人だよ!」
ルーが盛大に言い放つが、この場に突っ込む者は誰もいない。
「危険、主人様に害を及ぼす可能性がある。ここで絶対に排除する」
少女の頭に閃光が走る。
二人が振り返るとアリスが人差し指を少女に向けていた。
「標的の体温の上昇と魔力の暴走を確認した為、破壊しました」
確かにアリスが即断速決をしなければ、3人諸共爆発に巻き込まれていただろう。
だが、2人にとっては少々後味の悪いものになってしまった。
その場に少女を埋葬すると、アニの待つ場所へと戻った。
「お帰りなさい。刺客は・・・」
言い出して途中でやめたのは、2人の顔を見てすぐさま状況を把握したからだった。
「そう言えば、この子、目を覚ましましたよ」
少年が語った事は、自分達のエルフの里が何者かに襲撃され、たくさん被害が出たと言うものだった。
「場所はここからどれくらいなの?」
「分からないけど、そんなに遠くないよ」
怪我をしながらも少年が歩いてこれるくらいの距離ならば、たかが知れているだろうと判断し、すぐに助けに向かう事になった。
「一応、お兄ちゃんには連絡しておいた方がいいよね?」
「そだね、心配させたら悪いし」
「・・・・ぁぁぁああ!壊れてる!!」
ユウから預かっていたスペアの遠距離通信の魔導具だった。
「見事に真っ二つになってますね」
「どうしようルーちゃん・・」
「うーん、一度戻ってる時間はないよね?」
エルフの少年はコクリと頷く。
「私達だけでやれるのかどうか判断しなければなりません」
「じゃあさ、まずは偵察かな?」
「そうですね、近くまで行って偵察してみましょう」
「問題は馬車ですね、大破してしまいましたけど」
「困ったね。最悪荷物は私のマジックバックに詰めちゃえばいいけど。後、グリムもカプセルに入って貰うとして、移動は徒歩になるね」
エルフの少年の名前はレレイ。
襲撃の際、逸早く里を抜け出し追っ手を巻いてあの場所まで逃げて来た。
しかし、逃げる際に負ってしまった怪我による出血多量で動けなくなっていた所をユイ達に助けられた。
「大丈夫だよ、里のみんなは私達が絶対に助け出してあげるからね」
レレイの頭を撫でるルー。
(ルーよ。一応言っておくが、そのエルフの小僧はお前より2倍は年上だぞ)
「ええええー!」
ルーの育ての親でもある精霊クロウだった。
「どうかしたの?ルーちゃん」
「ああ、いや何でもないよーあははっ」
年下だと勘違いし、子ども扱いしていた事が恥ずかしいのだろう。
「前方6km先。エルフの里と推測します」
街道から外れ、草木を掻き分け、10m程の川を渡り辿り着いた。
エルフの里と言うだけあり、簡単に辿り着けるような造りにはなっていなかった。
「視認できる位置まで近付いてみましょう」
エルフの里が目と鼻の位置まで到達した所で、レレイが違和感を伝える。
「可笑しいです・・・静か過ぎます。狼煙とかも上がってないし・・」
この状況から考えられる事は、全滅か既に全員が拘束されているかのどちらかだろう。
しかし、それはどちらでも無かった。
上空から偵察を終えたアリスが戻って来た。
「里内を偵察しましたが、異常は検知されませんでした」
「そんな馬鹿な!」
「ん、それってどゆこと?」
「襲撃されていない?」
「そんなはずは無いよ!確かに攻めて来たんだよ!シュートスだって、目の前で殺されたし・・」
レレイがありえないと否定する。
しかし、現実に目の当たりにして異変がないとなると、レレイが間違っていると思うのは必至だった。
だけど、嘘をつく理由もない。
どうするべきか決めあぐねていると、黒い小さな影が出現した。
「私が見てこよう」
風の精霊クロウだった。
「クーちゃん大丈夫?」
「まぁ、精霊の姿は見えないからね。賊がいたとしても安全だろう」
このやり取りを不可解そうに見ているレレイ。
「あ、レレイには見えないよね。私の育ての親の精霊クーちゃんだよ」
「何かの気配は感じるけど、姿までは・・・精霊さんにお会いするのは初めてです」
「あーごめん、クーちゃんもう偵察に行っちゃった」
アニが腕を組み何かを考えていた。
「レレイさん、この里の人数は何人ですか?」
「え、えっと、確か75人です」
「アリスさん、この里の人数は何人でしたか?」
「上空からの熱源探知で把握出来たのは62人です」
「不一致ですね。エルフ族が里を離れるのは、狩猟の時くらいだと思います。今は、まだ深夜。こんな時間から狩猟に行くのはあり得ませんし、違和感がありますね」
つい数時間前に賊攻めて来た割に静かすぎる里内。
人数が合わない件も然り、不気味さを醸し出していた。
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