第225話: 魔王代理

セリアは、精霊王の娘と言うだけあり、知名度みたいなものは上位精霊よりも遥かに高く、知らない精霊はいない程だった。

故に人気も中々にあるようだ。


「ここにいる人族のユウさんは・・・・私の宿主です」


突然のセリアの爆弾発言に、これまでで一番のどよめきがおこる。


「え、まじ?」

「セリちゃん最近見ないと思ったら、そんな事になってたの?」

「信じられん・・・俺のセリちゃんが・・」

「いや、でも、セリちゃん程に人族と信仰を語ってた精霊もいないと思うわ」

「俺はいつでもセリア様親衛隊だぜ!」

「そもそも人族が宿主なんて、過去に例がないんじゃない?」

「でも確かにそれだと、色々世界を旅して回れるから羨ましいかも。私なんて、古い神殿に祀られてるから、ここ何百年もそこから動けていないし・・」


一斉に喋り出すものだから、聞き取る側もやっとだった。



「どうか、精霊の皆様。私達に力を貸して頂けないでしょうか」


小さなセリアが、何百という精霊に向かって頭を下げる。

自然と俺自身も頭を下げていた。


その後、精霊王の助太刀も入り、全面的に協力を仰げる事となった。

それは、今更ながら考えていた以上の収穫だった。


この世界の各地に点在している精霊達は、それこそ精霊情報ネットワークとでも言うのか、ありとあらゆる情報が入ってくる。

それをセリアを介して、常に情報共有出来るようになった。

あくまでも、キーワードは7大魔王に関してだ。


精霊大会議と銘打った打ち合わせが終わり、解散の流れとなった。


そんな折、


「ユウ君に渡したい物がある」


精霊王が意味深な笑みで手招きしている。

嫌な予感しかしないが、無視も出来ない。

セリアと顔を合わせ、渋々向かう。


「上位精霊達とも相談してね、キミに精霊の加護を与える事にしたよ」

「精霊の加護ですか?」

「うん。効果の程は、不明だ。実際に授かって見ないと分からないものでね。戦闘能力の向上だったり、敏捷性が上がったりなど、様々だ。まぁ、どんな効果が得られようが、マイナス効果にはなるまい。是非有効活用してくれ」


精霊の加護なるものを付与して貰った後、すぐにこの精界を去る必要があった。


「本当は、ご馳走でも振る舞いたい所なのだが、私もそろそろ限界でね。地界と精界とを繋げておけるのも残り後僅かなんだ」


後から分かった話だが、

本来、精界は精霊しか行き来する事が出来ない場所で、俺達が行き来する事が出来たのは、数十年蓄えたセリアとノアの霊力を使用したからだ。

更に、繋ぎとめておくのに、精霊王の霊力をゴッソリ消費していた。


案内されるがまま、魔法陣の上へと移動した。

魔法陣は、淡い光で満ちていた。

今にも何かしら発動しそうな雰囲気だ。


「精霊は常にキミと共にある。後、これも渡しておこう。使い方はセリアに聞いてくれ。ではまた会える時を楽しみにしている」


半ば一方的に別れの挨拶も言えぬまま、地界へと戻って来た。


ここは、どこだ?


見慣れない景色だった。

こういう場合、元いた場所に戻って来るのが定石なんだけどね・・・


「ここ、魔界ですよ」


「「え?」」


ジラのまさかの発言にセリアと俺が同タイミングで同じ声を出す。


「この感じ、魔界で間違いない」


魔界出身者の二人がそう言うんだから間違いなくここは、魔界なのだろう。


でも、何故?


「お父様、間違えたんだわ・・・」


セリアが地面に手を当て、「はぁ・・」と項垂れている。

そんなセリアをノアが頭を撫でていた。


「まぁ、そう言う事もあるよセリア元気だそ?ね?」


しかし、困ったな。

現状、魔界に用はないんだよな。

7大魔王の事もフランさんが知っているから魔界に話を広めてくれているはずだ。


「ジラ、地界に戻る方法はあるか?」

「言いにくいのですが、ありません」

「え?」


ないの?


「すみません…魔界は現在厳戒令が発令中です。現状戻る手段がないので、魔王城まで出向き、通行の許可を取るしかありません。私達も、厳戒令が発動される前に地界へと移動して来たんです」

「確かに、7大魔王が魔界に侵攻してこないとも限らないし、その体制は正しいとは思うけど・・・仕方ない。事情を説明して、地界まで送って貰うしかないな」


そうと決まれば移動だ。


ジラとクロは、その背中からキラキラと光る漆黒の羽を生やしたかと思うと上空へと飛び立つ。


俺は、天翔てんしょうを使い、二人についていく。


「ユウ様、いつの間に自由自在に空を飛べるようになったのですか」

「流石ユウ」

「成り行きでな。二人だけ自由に飛べて羨ましかったんだぞ?それはそれとして魔王城までは遠いのか?」

「そうですね、このペースだとザックリ3日は掛かると思います」


え、3日も掛かるの?

それはかなり痛いロスだな・・

いやいや、掛かり過ぎじゃね?


「もう少しペースを上げても大丈夫でしょうか?」

「ああ、最高速で頼む」

「分かりました」


「はぁー」と息を吐くと俺以外の二人が魔王様式身体強化とやらを施した。


俺も自身に身体強化を施す。


途中、食事と軽く仮眠を取った。


「ユウ様のご飯は久し振りですね。とても美味しいです」

「ただ、食材をぶっ込んだだけの鍋だけどね。それに驚いたよ。クロも食べれるようになったんだな」

「魔王様との訓練の成果」


魔族達は、美味しい食事を食べるという習慣がない。

食事など栄養補給の概念しかなく、そこに美味しさを求めていないのが大多数だった。


「ユウ様達と旅をするようになってから、美味しい食事に憧れていました。実は料理も特訓中なんですよ」

「私、ジラの料理の味見役。ユウの方が全然美味しい」

「そんなの当たり前です。クロちゃん、恥ずかしい事は言わなくていいですよ」


若干ジラの頬が赤らめていた。


それにしても、かなりの飛行速度だったにも関わらず、難なく二人について行く事が出来ていた。

成長したのかとも思っていたが、ふと精霊の加護の事を思い出し、その効果を確認し驚愕した。


▪️精霊の加護(最上級)

1.攻撃力大幅強化

2.魔力大幅強化

3.移動速度大幅強化

4.反応速度大幅強化

5.精霊眼を取得


精霊眼

全ての精霊の姿を見ることが出来、会話する事が可能。


またしてもチート級の能力に若干引きながらも、その効果の程は後で確認する事にする。

というのも、目の前に目的地である巨大な城が見えて来たのだ。


「ユウ様、到着しました」

「デカイな・・」


魔界自体は一度だけ来ていたが、魔王城を見たのはこれが初めてだった。

っと、範囲探索エリアサーチに複数の反応を確認した。


「誰かが近付いてくるな」


ジラが周りを見渡す。


「魔王城配下の守備隊ですね。本来、この場には許可がないと近付く事は出来ませんから」

「大丈夫なのか、それ」

「はい、私もクロちゃんも多少なれど顔は聞きますから、大丈夫でしょう。それに彼の方の元まで案内してもらえば、わざわざ探す手間が省けます」


彼の方とは、恐らく現在魔界においての魔王代理を務めている存在の事だろう。

俺も知っている人物と言うが、一体誰の事なのか…


「おい!そこの怪しい奴ら!ここが何処か知っていて不法侵入をしているのか!」

「手を上に上げろ!一歩でも動いてみろ。俺様自慢の槍が火を噴くぜ」

「っておいお前ら、あの二人、何処かで見た事ないか?」


他の二人が、食い入るようにジラとクロを見渡す。


「も、元クオーツのジラ様に・・・魔族のアイドル、クロ様じゃないか!!」

「は、ははぁ、大変失礼致しました!!」


魔族のアイドル?

チラリとクロに目をやると、むず痒いのかクロが視線を逸らす。

魔族のアイドルのクロ様ね、これは面白い事を聞いたなぁ。後でいじって見るか。


「お仕事ご苦労様です。いえ、私達も許可なく侵入した事に変わりありません。しかし、急いでいます。彼の方の元へ案内して頂けますか?」

「は、はい!!それは構わないのですが・・」


視線が俺へと注がれる。


まぁ、当然だよな。俺自身は魔族ですらないからな。


「この方は、私の主です。身元は私が保証人になります。それに魔王様とも友人ですから」

「そ、それは度々失礼しました!」

「では、彼の方の元へと案内致します!」


なんとも元気の良い守備隊だな。


地上に降り立ち、城門を潜り抜け魔王城へと入る。

城門には両端にゴツい門番が立っており、筋骨隆々の体長3mはあろうかと言う半裸の鬼神だった。

仮面が何とも不気味感を醸し出していた。

絡まれると面倒なので、下を向いてやり過ごす。


すれ違う魔族達に三者三様の反応をされる。


ジラを見ると大多数が敬礼まがいな反応で、クロを見ると微笑ましそうな反応をし、俺を見ると誰だよお前的な睨みを効かした反応だった。

あからさまなガン飛ばしで寧ろ此方としては清々しい位だった。

途中それに気が付いた案内人に「申し訳ありません」と言われる始末だ。


「あれ、ユウなんでこんなとこにいるの?」


聞き覚えのある声に思わず振り向いた。

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