第208話: 仲間想い
神の社を訪れている時に突然ユイから緊急連絡が届いた。
一大事だと判断して、神であるメルウェル様に断りを入れてから神の社を後にした。
居場所の特定は、先ほど覚えた指定把握を使用して割り出す事が出来た。
それにしてもヤバイくらい便利だよな。
「さて、バーン帝国に飛んだはいいけど、ユイ達は、どうやらかなりの郊外にいるみたいだな…」
転移は、一度でも行ったことのある場所にしか行けないという欠点がある。
仕方がない、天翔を使って、ユイ達の元まで向かうか。
勿論怪しまれないように姿は消さないとね。
厄介ごとはゴメンだ。
身体強化と限界突破を駆使した恐らく自身の最速のスピードを出し、ユイ達の元へと辿り着くまでにそれ程の時間は掛からなかった。
「ユイ、大丈夫か! 何があったんだ!」
何かと一戦交えた後なのだろう。
それに皆が酷く疲弊している。
「お兄ちゃん!」
到着するや否やユイが胸元に飛び込んでくる。
顔をスリスリ擦り付けてくるこの感じ、以前にもあった。
甘えたい時によくこんな行動をとってたっけな。
ユイの頭をモフモフもとい、少し強く撫でる。
こう言う時は、強めがいいんだよな。
見ていたわけではないが、強力な敵と戦い、見事に打ち勝ったのだろう。
「よく頑張ったな」
コクリコクリとユイが頷く。
すぐに皆に
「ユウ様…アリスさんが…」
エレナが今にも泣き出しそうな顔をしている。
いや、今まですっと泣いていたのか…。
アリスの身を案じてなんだとしても、エレナにそんな顔はして欲しくない。
すぐにアリスの容態を確認する。
アリスは、腹部の辺りに拳大ほどの穴が空いていた。
アリスにこんな傷を負わせるなんて、一体何処のどいつだ。
正直、ユイ達のレベルは、そこらの冒険者よりも遥かに高い。
余程の相手でなければ、戦いにすらならないはずだ。
今回の件は、襲撃を察知出来なかった俺にも責任はある。だけど、まぁ、何があったのかは、宿に戻ってからでいいだろう。
まずは、エレナ達を安心させてやらないとな。
「大丈夫安心して。アリスは特殊なんだ。その程度の傷じゃ、致命傷どころか、擦り傷程度にもならないよ」
「で、でも、アリスさんは全く動かないんです」
「魔力切れだな」
そういえば、エレナには詳しく話していなかったかもしれないな。
「アリスの動力は俺の魔力なんだ。当然その動力が尽きればアリスは動けなくなる。そうならない為に、俺から魔力を供給しないとダメなんだ。たぶん、戦闘で魔力を多大に消費したんだと思う」
「じゃ、じゃあ、魔力を供給したら、アリスさんは大丈夫なんですね…」
俺の身体をゆするようにエレナがすがってくる。
「ああ、だから心配しなくていいよ」
「良かった…本当に良かったです…」
ユイの上に被さるように、そのままエレナが抱きついてくる。
相当アリスの事を心配してくれていたんだな。
俺は反射的にユイ同様にエレナの頭も撫でていた。
アリスを抱えて、宿屋まで戻ると、開口一番、
「お腹空いたよ!」
「あ、そだ、忙しさで忘れてたけど、2日間何も食べてないよ!」
一体俺がいない間、何があったんだろうか…。
その辺りの事情も含めて、ご飯を食べながら聴き取りを行なった。
あれ?
そう言えば何か忘れている気がするけど…
なんだろうか…
まぁ、いいか。
話を要約するに、テーマパークと称して女性冒険者を生贄にして怪物を復活させようと企んでいる輩がいた。
しかし、それをユイ達に阻止されて、失敗に終わるも、結果、自らを犠牲にする事により見事復活させる事に成功するも、またまたユイ達の手によって倒されたと言う事だ。
その際、アリスが深手を負い、アニの従魔であるグリフォンが犠牲になってしまった。
アニも酷く落ち込んでいて、現在寝室に閉じこもっている。
何かフォローした方がいいよな…
ソファーに寝かせているアリスの元に向かい、ソッと魔力を注入する。
どう言った原理かはいまいち不明だけど、腹部にぽっかりと空いた穴が見る見るうちに埋まっていく。
「ぬお!」
勢いよく起き上がるアリスの頭が俺の額へと直撃する。
「いってて…」
「はっ! すみませんマスター!」
そのやり取りを見ていたエレナがアリスに勢い良く飛び掛かる。
「うぅ、良かったです本当に…私もう駄目かと…」
アリスが事態を飲み込めずに硬直している。
どうしようかと困っているアリスの仕草も新鮮で、もっと見ていたいけど、流石に可哀想に思えてきたから、救い船を出すかな。
「覚えてないか? 自分の身に何があったのか」
少し考える素振りを見せるとアリスが、何かを思い出したかのように、語り出した。
「突然の攻撃をくらい、損傷してしまったようです」
「ああ、みんなに聞いたよ。俺もその場に居なくて悪かったな。みんながアリスを守ってくれたんだぞ」
アリスが周りを見渡す。
いつの間にやらアニを除く全員がアリスの周りに集まっていた。
「ありがとうございます」
アリスが立ち上がってお辞儀をする。
「違うよぉ! お礼を言うのは私達の方だよ!」
今度はルーがアリスをハグする。
「うん。アリスちゃんとグリちゃんが庇ってくれなかったら本当にどうなっていたか」
その後、みんながアリスを囲って、揉みくちゃ合戦が始まった。
ユイ達なりの感謝の表現なのだろう。
俺は若干場違いなので、後の事はエレナに任せてアニのいる寝室へと向かった。
アリスよ。これもマスターからの修行だと思って、耐えるんだ。
なんてね。
「アニ、入るぞ」
部屋のドアをノックし、一声掛けてから中へと入る。
まず目に入ってきた光景は、ベットの上で枕を下に顔を埋めているアニの姿だった。
呼びかけにも応えない所を見ると、寝ているのだろうか。
起こすのも悪いから、取り敢えずベッドに腰掛けて、窓の外を眺めていると、アニが後ろから抱きついてくる。
ほのかに感じる胸の膨らみ。
そんなにグイグイと押し付けるのは、流石の少女でも不味いと思うんだけど・・
「ご主人様…」
消え入りそうな儚い声。
それでいて、震えているのだろうか。
「私は、残酷な女なんでしょうか…」
何故そのような事を言ったのか、予想外の問いかけに、一瞬なんと応えていいのか分からなかった。
取り敢えずまず言わなければならない事を伝える。
「聞いたよグリの事」
「…………」
「グリが居なかったら、ユイやルーやみんながどうなっていたか、本当にありがとう。直接言えないのがもどかしいよ」
「…………はい、とっても優秀で良い子でした。私なんかにはもったいくらいの。なのに、あの子が死んじゃったのに…私…涙が出ないんです。私は最低な女なんです」
あぁ、それで、あんな事を言って悩んでいたのか。
確かに、普通なら悲しい時は涙が出るんだろう。
だけど、必ずしもそうじゃない。
人それぞれ程度の違いはあるし、涙腺が緩い人は、ちょっとした事でも涙を流してしまう。逆も然り。
かくゆう俺もあまり泣いたりするのは得意じゃない。
こっちの世界に来てから一度でも泣いたことがあっただろうか?と考えてしまうくらいに泣くこと自体が不得意だったりする。
だからと言って、自分が冷酷で冷たい奴だなんて思った事はないな。
自分で言うのも変だけどね。
まだ、アニとは知り合ってから日が浅いけど、俺のそれとはまた違う気がする。
故意に自分でも気が付かないうちに泣かまいと我慢しているように感じる。
「アニ。涙が出ないからって一概にそうとは言えないよ。その証拠に、今もグリの事でこんなにも思い悩んでるじゃないか。本当に残酷なら、そんな事はないと思うし。それに、俺もモンスターテイマーしてるから分かるけど、本当に真に大切な存在なんだと思われないとあそこまで懐く事はないよ。ただでさえグリフォンは、知能が高いしね。それって、つまり、アニにとってグリの事が大切で大好きだったって事だよねー」
「私は、私は…」
言葉の最中に遮られてしまった。
アニの俺を掴む手に力が入る。
「もう一度言うぞ。アニは優しい子だよ。だから、自分を蔑むように思うのはやめるんだ」
「……」
暫しの沈黙が続いた後に、アニからグリとの思い出や出会いをボソボソと話し出した。
話した後に、気持ちが楽になったのか、スースーと可愛い寝息を立てて寝てしまった。
って、いつまで俺はこの状態のままなんだ?
ガッチリホールドされて、身動きが取れないんだが…
この状態でアニの反対側に短距離転移を使って移動する。
アニが倒れ込む前にキャッチし、ベッドへと寝かす。
やっぱり転移は便利だな。
次の日の朝、ドンドンとドアをノックする音が聞こえて目を覚ました。
みんなもまだ寝ているようだ。
こんな朝早くに一体誰だよ…
「おい、ユウは帰っておるか?」
聞き覚えのある声に、忘れていた事を思い出した。
あ、やべ、ムー王女の事を放置したままだったんだ。
慌てて飛び起き、ドアを開ける。
「悪い!昨日はさ、バタバタしててさ、そのまま帰って寝ちゃったんだよね」
何故だか、ムー王女は、上から下へと舐めるように目配せしている。
そういえば、心なしか、肌がスースーする気がする。
「中々刺激的な格好をしておるな」
言われて、ハッと自身の姿を確認すると、寝巻き用のハーフパンツ一丁だった。
そういえば、昨日は暑さで特に寝苦しくて、上着を脱いでたんだっけな。
飛び起きてそのまま出てしまった事に少しだけ後悔する。
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