第139話: 竜騎士ルー
俺たちは新天地で、あるクエストを受注していた。
シャルの目が覚めた事を確認し、
傭兵の町と言っても普通の町のように職業毎のギルドが建ち並び、商店街に教会まで完備してある。
運営は全て過去、現在進行形で傭兵の職務に従事している者たちの手によって行われていた。
人口はおよそ5000人程度だろうか。
俺たちが到着した時、何故だか町は厳戒態勢が敷かれていた。
''腕に覚えのある者は、直ちに武器を手に取り東のアルマーク洞窟に迎え!''
と至る所で騒いでいる。
話を聞くに、この町からたったの半日程度の距離にあるアルマーク洞窟という場所に竜が住み着いたのだとか。
人族にとって、竜とは魔族以上に恐れられる存在だ。
竜と言えば、他種族は一方的に蹂躙されるだけの圧倒的なまでの力の差を有している。
子竜ですら、冒険者が束になってかからないと退治することは容易ではない。
ではなぜこの町の傭兵たちは自分たちの危険を顧みずに無謀とも言える竜に立ち向かうのか。
それは・・。
彼ら彼女らが傭兵だからだ。
傭兵とは、言い方が悪いけど野蛮で貪欲な存在らしい。
竜の素材はその部位を余すことなく高値で売買される。
つまり、一攫千金が目当てってこと。
大方のイメージ通りではあるけど、そんな理由で命をかけようと言うのだから理解に苦しむ。
到底賛同なんて出来るはずがない。
しかし、この竜討伐にはもう一つの理由があった。
寧ろ俺たちが参戦している理由はそっちにある。
それは、人が竜と一緒に目撃されていたのだ。
その目撃者の証言によると、竜の背に乗った甲冑の騎士だったらしい。
竜に跨る騎士といえば、そう、まさしく竜騎士じゃないか!
つまり、その竜を飼い慣らしていると考えるのが妥当だろう。
話が通じる人物なら、恐らく争いに発展することはないだろう。
俺は以前、氷の魔女が竜の背に乗っていたのを思い出していた。
だが、あの竜は俺たちが倒したからもういない。
それだけに竜の背に他種族が乗ると言う行為は珍しいようだ。
小型のワイバーン程度なら戦闘用に調教することは可能らしいが、それ以上の竜となると難しいようだ。
俺が、この討伐に参加したのは、竜という最上位種の背に乗るような人物とは、一体どんな人物なのか会って確かめてみたい。
勿論危険は伴うかもしれないが、俺たちならば、最悪逃げる時間くらいなら稼げるはずだ。
そして、自称腕利き精鋭傭兵軍団約200人と共に竜討伐に参戦していた。
「楽しみだね!」
隣のユイがはしゃいでいる。
「遊びじゃないんだぞユイ」
「分かってるよ〜。でも竜さんと会えるなんて、ワクワクするよね!」
強い敵と対峙すればワクワクとか、何処の戦闘民族だよ・・。
「そういえば、シュリ。竜人族と竜って何か関わり合いがあったりするのか?」
「ん、部族によっては竜神のように崇めてるところある。私は特に何の感情もない湧かない」
なら、仮に争うことになっても大丈夫か。
「ユウさんこそ気を付けて下さいよ。相手は竜なんですからね」
誰かと思えば久々に人型となって現れたセリアだった。
セリアとノアは、精霊という存在で、俺を宿主として、普段は身体の中にいる。
時折出て来ては、説教じみた事を言うのだ。
「説教とは酷いですよ。アドバイスです」
そう、心に思っていることが筒抜けなのだ。
「ああ、分かってるよ。危険だと判断したら即時退散するつもりだし」
「分かってるならよろしい」
セリアはそれだけ伝えると俺の中へと戻っていった。
別に実体化しなくても念話でいいと思うんだけどね。
(ユウは、セリアの気持ちが分かってないね)
(ん、ノアそれはどういう?)
(鈍感君には教えてあげないよー)
「あ、お兄ちゃんあれ見て!モンスターがいるよ!」
おっと、モンスターの察知に気が付かないとはマズイな。
緩まった気持ちを締め直すとしようか。
「って、ユイ・・。あれはモンスターじゃないだろ」
ユイが指差す方向には、背丈が3mはありそうな、
「確かに強面だけど、ちゃんと鎧も着てるし」
「なんだ、違うのかー」
「ないとは思うけど、集団戦闘になった場合、敵と味方の区別は間違えるなよ」
「だいじょぶ!」
ほんとに大丈夫なのか。
大所帯ということもあり、予想外に進行に時間を要してしまい朝方出発したにも関わらず、目的地周辺に到着した時には、夕焼け空になっていた。
このまま仮に戦闘になった場合、最悪夜になるかもしれない。
夜でしかも洞窟でなんて危険すぎる。
俺には関係ないんだけど。
洞窟内は、スキルを使用すれば明るさの確保は大丈夫だとは思うけど、どちらにしても指揮官も夜の戦闘は危険だと判断したようで、5km程手前で今夜は野営をすることとなった。
俺たちは、野営は手馴れている。といっても馬車の中でいつも通りに過ごすだけなんだけどね。
竜に気付かれる恐れがある為、火をおこすのは禁止された。
当たり前といえば当たり前だね。
傭兵たちは持参した冷え切った携帯食を食べていた。
俺にはストレージがあるからいつでも調理済みの出来立てホヤホヤの食事を食べることが出来る。
何だか少し申し訳ない気がする。
「マスター、今夜は私が見張っておきますのでマスターたちは寝て下さい」
「いいのか?」
「はい、私には睡眠は不要です」
1、2日くらいならば俺も寝なくても大丈夫なんだけど、アリスの気持ちが有難いので、素直にそうさせてもらう。
そして俺たちは、何事もなく朝を迎えるはずだった。
「おい!ザクロたちの班がいないぞ!」
「マステカさんたちの班もいないわ」
目を覚ますと、そんな声が飛び交っていた。
すぐにユイとシュリを起こした。
すぐにでも戦闘を行えるように昨晩は皆が寝間着に着替えずに戦闘服のまま眠りについた。
グリムに労いの言葉をかけて、馬車をストレージへとしまった。
俺たちは、傭兵軍団とは少し離れた場所に停泊していた為、馬車が一つ消えても気にする者はいないだろう。
さっきから耳を傾けていると、どうやら傭兵軍団の1/3が昨晩のうちに忽然と姿を消したそうだ。
今度こそ神隠しか!と思ったが、どうやら今回も違うようだ。
アリスの話では夜明け前に竜の住むアルマーク洞窟に向かったそうだ。
傭兵たちも何人かはその姿を見ていた者がいたようで、恐らく先に手柄をあげて戦利品を我が物にしようとする魂胆と言う。
傭兵たちの掟の中に集団クエストは、参加人数で公平に分配せよというものがあるらしい。
だから、参加人数が少なければ分配の配当が大きくなる。
そうはさせるか!と洞窟の方へ駆け出す傭兵たち。
これでは戦術も作戦もあったもんじゃない。
ましてや、まだ戦闘になると決まった訳ではない。
等と考えているうちに俺たちは完全に出遅れ、取り残されてしまったが、別に報酬が欲しい訳ではないし、このままゆっくり進むことにする。
「マスター、連絡があります」
アリスはいつだって無表情なのでその顔色からでは会話の内容を判断することは出来ない。
「どうした?」
「先行した63名の傭兵の内、既に半数近い反応が消失」
「なんだって」
「敵反応は1。大きさは推定30m。恐らく成体の竜と思われます」
どうやら戦う羽目になってしまったようだ。
穏便に済ませればと思っていたが、仕方がない。
「いつでも行けるよ!」
「私も行けます」
二人は既に臨戦態勢に入っていた。
「分かった。だけど、俺が無理だと判断したら何を置いても逃げの一手だからな。絶対だぞ」
「了解!」
「分かりました」
すぐに傭兵たちの向かった方へと足を運ぶ。
傭兵の精鋭というだけあり、決して弱くはない。
ユイたちには及ばないが、平均レベルは30後半くらいだろう。強い者は50手前なんて猛者もいる。
その彼らが、彼女たちが、ただ一方的にやられている。
洞窟が視界に入る開けた場所まで出ると、既に洞窟の外に竜が出ていて、暴れまわっていた。
名前「グレズム・ハーディー」
レベル72
種族:竜
弱点属性:なし
スキル:
状態:洗脳
やはり、かなり強い。
リンやジラがいれば勝てない相手ではなかったかもしれない。
だが、今の俺たちでは安全を取って撤退が望ましいだろう。
「竜の背に確かに誰かがいるな」
「え、凄い!見えるの?私には遠くて見えないや」
まぁ、まだここからだと2kmくらい離れているからね。
傭兵たちは、無謀にも竜相手に立ち向かっていっている。
竜は容赦なく傭兵たちに炎のブレスを放っていた。
俺たちが乱入すれば、逃げる時間くらいは稼げるとは思うけど、傭兵たちに逃げるという気がない以上それは無駄な行為に終わる。
なぜ、あーも命を粗末に扱えるのだろうか。
それが傭兵魂というものなのだろうが、理解出来ない。
ユイが俺の袖をクイクイと引っ張る。
「助けに行こ?」
同じように反対の袖をシュリが引っ張る。
「4人なら倒せる思う」
まったく・・・。
誰かを守るためなら自分が犠牲になるなんて構いやしない。
みんなお人好しばっかだよ。
(ユウさんも人のこと言えないですけどね)
「分かった。陣形はBで行くぞ。前衛2、左側がユイで右側がシュリ。真ん中が俺でアリスが最後尾で前衛二人の援護だ」
「「了解」」
「いいか、絶対に無茶をするなよ。傷を負ったら俺の所まで後退。その分の穴埋めはアリス頼むぞ」
「了解マスター」
さて、久々の竜退治だ。
背中の騎士が気になるが、こうなってしまっては、戦う以外に道はないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます