第137話:呪われた王

「シャルっ!!」


決して、返事が返ってくる事はない。

そんなのは、この有様を見れば誰だって分かる。

だけど、名前を叫ばずには居られなかった。

相手に隙を与えることも場所がバレるなんてことも御構い無しに。


「私を助けたのか・・シャル・・。くそっ・・何故だろうな、涙が溢れて来る・・こんな感情はとうの昔に忘れ去ったと思って居たのだが、どうやら私にも人としての感情が残っていたようだな・・。待っててくれ。すぐに仇を取ってやるからな」





シャルと私自身に防御結界を施す。

「この程度の結界で何処まで耐えれるのか・・」


ここで私は改めて、相手の顔を見る。


相手の風貌は例えるならば、ゴブリンにワニの尻尾が生えたような感じに見て取れる。


あれが王だと?

あんな種族は私は知らない。未だ嘗て見た事がない。

どの文献にも載っていない。

ただのモンスターだ。


駄目だ!今はそんな事はどうでもいい!余計な雑念は捨てろ!

今は全力であいつを倒す事だけを考えろ!


一呼吸起き、マジックバックからゴーレムを2体召喚する。


「両サイドから襲え!!」


その隙に私は、自身の眼前に石壁ストーンウォールを3枚展開する。

普通なら自身の視界を遮ってしまうが、最初に視界を確保する為にネズミ君を放っていた。


ネズミ君の視界を頼りに水撃アクアボルトを適確に相手に叩き込む。

勿論ダメージなんてものは期待していない。

狙いは次にあるからだ。


続いて最大限に魔力を込めた雷撃ライトニングボルトを連続で畳み掛ける。


既にゴーレムは、ただの石塊と化していた。

時間稼ぎにもなっていないな。


私はひたすら魔力が尽きるまで連打する。



・・・砕けた。


目の前に配置していた石壁が、しかも一瞬の内に。

砕けたと察知した時には時すでに遅し。

既に回避する時間は残されていなかった。

目に見えない衝撃波が私を襲う。


3枚の石壁を破壊した衝撃波が防御結界に到達し、卵の殻を割るように簡単に砕かれた・・。


咄嗟にしゃがんだ為、大きなダメージこそは無かったが、それでも掠っただけでこの衝撃。

桁が違う。次元が違う。


やはり私で何とか出来るレベルではないようだ。


ネズミ君を通しての映像では、王と名乗る相手は、ただ単純に尻尾を振るっただけに見えた。

それが無数の斬撃を伴い、ゴーレムを石壁を私を襲撃した。


どうやら、私の人生はここまでのようだ。

どう足掻いたところで、この場を打開する策が思い浮かばない。


死ぬことに対しての悔いは・・・ある。

まだこの世界の謎を解明していない・・・・。

まだ廻っていない大陸だってあるし・・・・・・。

何より、遺跡が私を呼んでいる・・・・・・・。


いや、違うな。

そんなのは私個人の事であって、どうだっていい。

真に胸が痛いのは、命を賭して私を守ってくれたシャルに対して申し訳が立たない。

仇を討つわけでもなく、逃げ切れたわけでもなく、すぐにシャルの後を追うのだから。


「はぁ・・まだ死にたく、ないなぁ・・・」


それが本音だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(ユウ視点)

時間は少し遡る。


妖魔族と別れた俺たちは、シュートリアという町を訪れていた。


ここは、猫人族シャトンたちの町だった。

この世界を旅してきて、猫人族シャトン自体は何度か見た事があったけど、猫人族シャトンだけの町を訪れたのは初めてだった。


誰もが入れる訳ではなく獣人族の種類によっては、この町への通行規制をしているようだ。

ちなみに人族は無条件で通行が許された。

ユイは、狐人族ルナールだったけど、同じく通行が許可された。

しかし、竜人族のシュリは、「確認するから待つにゃ」と止められてしまった。

しかし、すぐに確認から戻ってきた衛兵から通行を許された。


どうやら竜人族は珍しい為、長へ確認したと言う事らしい。

ちなみにアリスは人族扱いだった。

機械なんて珍しいを通り越して何それ?レベルだろうから訂正はしない。


そんなこんなで、無事に猫人族シャトンの町に入れたわけだけど。


「お兄ちゃん、猫さんいっぱいいるね!」

「ああ、目の保養だな」

どういう意味?という表情をしていたが、ここもスルーさせてもらう。


ユイも俺同様に同じ獣人族の姿に終始興奮しっぱなしだった。


対するシュリは、常に俺の後ろに隠れて行動している。

シュリに関しては、今に始まったわけでは無く、新しい場所に来た時はいつもの仕草だった。

未だに大勢の人が苦手なようだ。

こればっかりは、慣れてもらうしかない。

「人混みが怖いか?」

「ううん、大丈夫。こうしてた方が落ち着くだけ」

そう言って、後ろから俺のコートを握る力を強めていた。


ちなみに、通行規制がかかっているのは、犬獣人(シエンヌ)や狼獣人(ルーヴ)たちだ。

どうやらこっちの世界では、犬は猫と仲が悪いらしい。


それにしても見渡す限り、猫耳を生やした人々が行き交っている。

実に新鮮で、久しく忘れていたモフモフ衝動が込み上げてきそうになっていた。


「お兄ちゃん、何か怖い顔してるよ?」

「気のせいだ」


失礼な。

この光景を目に焼き付けているだけだよと心の中で一蹴しておく。


その後も周りの景色を眺めていると、この町の長なる人物が俺たちの前に現れた。

長というだけあり、目元が恐らく眉毛と思われる物に覆われて目が見えない。

というのも、皮膚の色も毛の色もグレー一色なので、境界線が分からないのだ。


お互いの自己紹介を交わし、軽く談笑する。


「旅人がこの町に来られたのは、実はこの1年で2組目なのですじゃ」

「場所が場所ですから、少ないのも頷けますね」


というのも、このシュートリアは、深い霧を超えた先にある町で、正確に進まないと辿り着くのは困難な場所らしい。

レーダーのある俺には関係ないんだけど、初めて訪れるような冒険者は、まず訪れる事は出来ないとか。


「ここら一体に生息しているミズラーザという樹木が、常に霧を発生させておる。その霧のせいで、全く旅人が来ないのじゃ。全くもって鬱陶しい限りじゃ」

「伐採出来ないんですか?」

「うむ。何度か試みたことがあるんだが、視界が悪い上に無数に生えておる故、思うように作業が進まなくてな、しかも1日経つと元通り生えてくるのじゃ」


雑談の後半は長の愚痴だった。

適当に相槌してやり過ごす。


その中で、気に掛かったのが、昨日もこの町に立ち寄ろうとした旅行者が居たようだ。

だけど、連れが狼人族ルーヴだったので、この町に入る事が出来ず、渋々戻っていったそうだ。

その人達をカウントしていれば俺達は今年で3組目の訪問者だったとか。

対応にあたった門番の話によると、その旅人は各地の遺跡を調査しているらしく、この近くに大昔の遺跡がある事を伝えると目の色を変えて飛んで行ったらしい。


「うむ。ここから南に10km程行った先にピラミッド型の古い古墳がありますのじゃ」


古墳か。

こっちの世界にもあるんだな。


「暇なので観光がてら立ち寄ってみますね」

「立ち寄るのは構いませんが、古からの言い伝えで、その古墳には横暴の限りを尽くした呪われた王が封印されているなどと言われていますのじゃ」

「いい雰囲気はしないですけど、ただの迷信の類でしょ?」

「うむ。誰も本当の事かどうかは不明じゃから、迷信かもしれんし、真実かもしれん」


次の町へ向かう為に立ち寄っただけだったので、すぐに立ち去る予定にしていたのだが、どうにもその古墳とやらが気に掛かる。


そう遠くないので、古墳を一目眺めて行く事にした。

ピラミッドもあるらしいし。


それにしてもこの世界にもピラミッドとか古墳とかあるんだってね。同じ様な姿形をしているのだろうか?

しかし、その場所は気味悪がって、この町の住人も滅多な事では近付かないそうだ。

周辺には、不思議とモンスターの類も生息していないそうで、封印されている王を恐れているのでは?と言われていた。


「アリス、10km圏内でそれっぽい反応はあるか?」

「範囲検索。・・・・検索終了。人族獣人族反応それぞれ1、正体不明反応1・・・訂正。獣人族反応消失」

「ん、消失ってことは、死んだのか?」

「恐らく」


正体不明反応ってのが気になる。

まさか?もしかすると?

封印されていた王が目覚めちゃったとか?

いやいや、まさかね。

だけど気になるな。


「ユイ、シュリすぐに向かうぞ」


10km程度なら急いでいるときは、グリムを飛ばすよりも俺達ならば全力で走った方が数段早い。


アリスに先導してもらい20分程で現場に到着した。


まず目に飛び込んできたのは、得体の知れないワニのような尻尾の生えた人型モンスターに今にもやられそうになっている人族の女性だった。


考えている時間はない。

今まさにモンスターの攻撃が人族の女性を襲っている。


「アリス!ユイ!奴の動きを止めろ!俺はあの人を守る!」


既に戦意喪失しているのか、繰り出された攻撃に対して彼女は動く素振りがない。


衝撃音が辺りに木霊する。


彼女を守る為に張った俺の結界と放たれた攻撃とが、ぶつかり合う音だ。


同時に、ユイたちが謎のモンスターに攻撃を繰り出し、高い金属音を辺りに鳴り響かせている。


まるで、超硬質の金属とでもぶつかり合っているかのように。


皮膚があまりにも硬く、二人の攻撃にもビクともしていない。

傷一つつかないとは、まさかの想定外だったようで、次に放たれたモンスターの反撃にユイの反応が遅れた。

鞭のように縦横無尽にしなる尻尾から繰り出される強力な打撃を受けて、後方へと飛ばされてしまった。

アリスは、ギリギリでそれを躱し、レーザーでモンスターに応戦した。

流石に皮膚が硬質でもレーザーは防げないようだ。

貫かれて小さな穴が空いていた。


飛ばされたユイも激突の瞬間に上手く受け身を取り、大したダメージは追っていなかった。


背後からの呟き。


「あ、あんた達は一体・・」

戦意喪失状態にあった彼女から発せられた言葉だった。

深手を追っていた為、すぐに治癒ヒールで回復させる。


「俺たちは、冒険者だ。近くを通り過ぎたら貴女が襲われているのが見えたんだ。詳しい話は後で。取り敢えずこの中に居れば安全だから」


障壁の中ならば大丈夫だと信じたい。

俺の障壁が破られるような相手ならば即時撤退あるのみ。


彼女が庇うように守っていた背後には少女が一人横たわっていた。

眠っているとか、ましてや気絶しているわけではない。

既に生きてはいない。

レーダーの反応を確認するまでもない。

腹部に痛々しい程の大きな裂傷が見える。

恐らく、あの尻尾から放たれた衝撃波をもろに食らったのだろう。


俺がそっちに視線をくべていることが分かると彼女が徐に口を開く。


「この子は、シャルは私を守ってくれたんだ・・・こんな私を・・。この状況にどうする事も出来ない私が憎い。どうしようもない程に・・」

横たわっている少女に視線を移していた彼女が正面にいる俺に視線を戻す。


「冒険者の方、不躾な願いを聞いてくれないだろうか?」

「なんですか?」

「先ほどの治癒の手際さ、貴殿は優秀な聖職者の方とお見受けするが、どうかシャルの傷口を治してやってはくれないだろうか・・勿論お礼はする」


せめて痛々しい姿をきれいな姿にしたいという願いに快く応じる。


「お安い御用です」


治癒ヒールを使用して、横たわっている少女を治した。

既に死んでいる為、傷が閉じても少女が目を覚ます事はない。


傷が塞がった事を確認した彼女がホッと一息ついた。


「ありがとう。恩にきる」


さてと、俺も戦いに集中しないとな。


一目見て驚いた。

アリスが苦戦しているのだ。

あのアリスが。

俺たちの中でトップの実力を持つあのアリスが・・。


即座に謎のモンスターに鑑定アナライズを使うが、またしても何も発動しなかった。

リアの時と同様に発動しない。


何か想定外によって誕生した存在には効果を発揮しないとかそんな仕様でもあるのだろうか?


シュリはこの人の護衛を任せる。

戦闘はアリスとユイに任せて俺は司令塔を努める。


「さて、反撃開始だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る