第118話: 誘拐犯を追って1

モルトトに到着した俺達は、何故だか取り囲まれてしまった。


「そこを動くなよ!お前達全員を連行する!」


どうやらこの国は人族以外の種族の立ち入りを禁止されているそうだ。

それならそれで入国審査の時に教えてくれれば良かったんだけど。


事前に知っていれば、形態変化メタモルフォーゼで獣人族特有の耳や尻尾を周りから見えなくする事も可能だったんだけどね。


まあでも初犯だからと、知らなかったのを理由にしてすぐに釈放してもらえたので、事なきを得たのだが。


ユイとクロとシュリと護衛役としてジラを宿屋で待機していてもらう事になった。

獣人は宿から一歩も出ない事。それが滞在の条件だった。


即刻国を追い出さない為のせめてもの配慮らしいんだけど、素直には喜べない。

人族以外は入れない国とか少し腹立たしさを覚えるが国の決まりなら仕方がない。


この国の王に直訴?

いやいや、トラブルの類いは御免被りたい。


そんな事を一人ぶつぶつと呟いていると、衛兵の人が話し掛けてきた。


「このモルトトは、国王よりも権力を持っている人がいるよ」


あまり興味が無かったが、一応耳を傾けてみる。


「大聖堂におられる聖女様さ。とても綺麗なお方で、この国を良くして下さっている救世主さ」


今の話に綺麗は関係ないと思うけど。


「私も別の場所で耳にしましたが、至る所で聖女様の話が出てきますね。よほど聡明な方なのでしょう」


そんなに凄い人ならば、是非一度会っておきたいな。

俺達は違反により、明日の朝にはこのモルトトを立つように命じられているので、会うならば今日か?


「聖女様には何処に行けば会えますか?」

「聖女様は、毎日大聖堂にいるよ。でも治療してもらうなら朝早くから並ばないとだめだよ」


教えてくれた衛兵に礼を言い、聖女様に会うために大聖堂を目指す事になった。


その道中、旅道中で消費した物品を買い足しておく。


「あれが大聖堂でしょうか?」


リンが指差す。

遠目にそれらしい立派な建物が見えた。


「ぽい建物だな。近付いてみようか」


衛兵からは、治療を受ける人々の長蛇の列があると聞いていたのだが、外には誰もいない。

正面扉も閉まっているようだ。


範囲探索エリアサーチには、大聖堂内には数人の反応はある。

ただの興味本位で聖女様に会いに来ただけなので諦めようかとも思ったが、反応から察するに、何やら慌てて右往左往している感じに見える。


扉をトントンと軽くノックする。


「すみません、何方かいらっしゃいますか?」


暫く待つと中から男性が出てきた。


「何かご用でしょうか?」

「聖女様に会いに来たんですけどいますか?」

「見慣れない顔ですね・・」


あれ、中からわらわらと出てきた連中に何故だか包囲されてしまった。

何かまずい事をしただろうか?


あっという間に俺、リン、アリスは包囲されてしまった。

「抵抗しますか?」

「いや、理由が不明だが、命の危険があるまでは抵抗しないように。アリスもいいな?」

「了解マスター」


両腕を縛られ、大聖堂の中へと運ばれた。


「そろそろなんでこんな事になっているのか教えてもらってもいいですか?」


何の説明もなしに現行犯逮捕とか、思い当たる節もないし、ちょっと酷くないか?


奥から少し身分の高そうな男性が出てきた。


「お前達が犯人なのか?」

「だから、なんの事か分からないんですけど。説明してくれませんか?」


少しイライラしてきた。


俺のイライラを汲み取ったのかリンが縛られたまま立ち上がる。


「仮にもあなた方は聖堂に勤める者たち。神に仕える聖者でしょう?それを事もあろうか一方的に国民を捕らえ、理由も何も説明せずに拘束したまま。恥ずかしくないんですか?神へ顔向けができますか?」


その後もマシンガントークを連発する。

横にいる俺自身も自分が言われている訳ではないのだが、申し訳ない気持ちになってきた。


いいぞ、もっとやれ!


予想外の言葉による攻撃に面食らっていた彼等だったが、「すいませんでした!」と一言。


拘束していた縄を解いて、一転して誤ってきた。

さっきまでとは掌を返したように態度が違う。

余程、リンの言葉が効いたとみえる。


いいのかよそれで聖者・・。


自由になったところで訳を聞いたのだが、なんと聖女様が誘拐されたらしい。


いつもの時間になっても部屋から出てこないので侍女が部屋の中を確認すると、そこに聖女様の姿はなかった。

争った形跡もなかったので、寝ている隙に攫われたか、いつものお人好しパワー全開で誘拐犯について行ったかのどちらかだそうだ。


いやいや、お人好しってどゆこと?

益々会ってみたくなったな。


成り行きで聖女様捜索のお手伝いをする事になってしまった。

まぁ、人探しは得意だしね。


(私の出番だね)


精霊のノアは、探し物を見つけるのが得意だ。


(特徴から察するに該当の人物が周辺に一人いるわね)


取り敢えず、今の所は無事なようで一安心だ。


(どのあたり?)

(うーん、どこだろう。どこかの建物の中かな?ちょっと探りにくいね)


何時になくノアは悩んでいた。


(取り敢えず、大まかな位置は分かったから行ってみよっか)


ノアに先導されて聖女様の元へと向かう。

仮に誘拐犯との戦闘になった場合、こっちの戦力はリンとアリスを入れた3人だけだ。

相手の人数は不明だけど、万が一なんて事もないだろうと願いたい。


なかなか遠いな。

もう2時間近く歩いている。


結局、モルトトの外に出てしまった。

大聖堂の聖者が一緒だった為、出国はスムーズだった。


ここからは馬車での移動だ。


「グリム、今日も頼むよ」


任しときな。と、言わんばかりの表情をしていると勝手に解釈する。

今日もグリムは、クールだ。


郊外を少し進んだ先に集落が見えてきた。

ざっと見た感じ50人くらいの人が住んでそうな小さな集落だ。


(この先に聖女様がいると思うわ)


みんなに説明し、馬車から降り、馬車をストレージにしまう。


「本当にこんな場所にサーシャ様がおられるのですか?」

「恐らく。これから中に入りますので、聖者様は俺達の後ろに。アリスは最後尾で目を光らせておいてくれ」

「了解マスター」


なんだか、後ろから懐中電灯のような光に照らされているような眩しさを感じるが、見ないぞ。間違ってもツッコみなんてしないからな。


俺達の姿を見て何人かが寄って来た。

服装などから察するに賊という印象は受けない。

貧しい村人のような感じだろうか。


「大聖堂の方々が、本日はどういったご用で?」


先頭の俺に対してではなく、後ろにいる聖者様に対してのようだ。

さっきから視線がそちらに泳いでいた。


「人を探してここまで来ました」


集落の人は、ばつが悪そうな顔をしている。


「貴方方がお探しになるようなお方はこんな場所にはいませんよ」


かなりキョドッている。

どう見たって怪しい。

いくらなんでも嘘をつくならもうちょっと上手にしろよなと思う。


「嘘をつくな!聖女様がここにいるのは分かってるんだ!貴様ら全員縛首で即刻処刑してやるからな!」


あーあ。こっちから喧嘩売っちゃったよ。

相手にも何か理由があったかも知れないのに。

それにあんたはあんたで聖者様なんて呼ばれているんだからもうちょっと言葉遣いを選べよな・・。


言われたこっちは、さっきから汗ダラダラなんだけど。

この場を変な空気が漂う。


聖者様が大声で物騒な事を言うもんだから、この集落に住んでいる人達が何人も出てきてしまった。


さっきから、ヒソヒソとここの住人達が話し合っている。

「だから俺は反対だったんだ」とか「でもあの子を見殺しに出来ないわ」など。


なんとなく外野のヤジを聞いているだけで今回の真相は分かってきたが、だとすれば、ここに聖者様を連れて来たのは間違いだったな。


少し申し訳ない気分に苛まれた。


「取り敢えず、聖女様がここにいるのは分かりました。聖女様の所に案内してもらえますか?」



奥の建物から一際大きな男が現れた。

聖者様ではなく、俺を睨みつけている。


「悪いな、今回の聖女誘拐の件、責任は全て俺にある。だから、周りの連中は悪くない。裁くなら俺だけにしてくれ」


中々に潔いな。


「聖女様の場所に案内してくれる?」

「それは出来ん」

「何故?」

「今は治療をしてもらっている。終わるまではダメだ」

「貴様!この後に及んで、これ以上罪を重ねるつもりか!」

「治療が終われば罪は償う。この命でもなんでもくれてやるさ」


目を真っ赤にして怒りを表している聖者様。


話がややこしくなるから聖者様は黙ってて欲しいんだけどね。


「案内してくれないか?」

「だから、今治療中だ。悪いけど邪魔になるから終わるまではここを通すわけには行かない」


はぁ、仕方がない。

あんまり実力は見せたくないのだが。


「俺も治療が出来る。聖女様の補助くらいなら出来るはずだ」

「何!それは本当か!なら、お前だけ案内する」

「ご主人様!?」

「大丈夫だリン、アリスと一緒にここで待っていてくれ」

「大丈夫。マスターに何かあったらすぐに分かる」


相変わらずツッコミどころ満載なコメントをありがとう。


大男の名前は、ルドラスという。

ルドラスに案内してもらい建屋の中に入る。


中は狭く、すぐに聖女様と思われる人物が目に入る。

聖女様の前にはベッドに横たわる少女が一人。


俺達が入ってきたにも関わらず聖女様は、横たわる少女の腕を掴み何やら唱えている。


「神様どうかシェリルの病が治りますように・・」



微かな声だったが、聞き耳スキルのおかげでハッキリと聞こえた。


「ルドラスさん、聖女様に話がありますので、少しの間外に出ていて貰えますか?」


少し睨まれてしまったが、渋々といった感じで外に出て行った。


さてと。


「聖女様」


あれ反応がない。聞こえてないのかな。

気を取り直してもう一度。


「聖女様!」


今度は少し大きめの声を出してみた。


「は、はい!」


聖女様は、慌てて後ろを振り向く。


「えっと、どちら様でしょうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る