第100話: 海賊に占拠された国【王女救出編】
透明化というチートを駆使して、島中を海賊達が占拠する中、何とか目的地である城の裏側まで辿り着く事が出来た。
アリスの透視能力と俺の聞き耳スキルの併用で、城の中の様子を伺っていると、驚愕の事実が判明した。
「ビゼルト王よ。こちとら言う通りに占拠したんだ。今度はそっちの番ですぜ」
「うむ。約束は守ろう。この国でお前率いる海賊団の永住国民権で良かったな」
「ああ、海賊稼業にも限界を感じていたんでね」
「心配せずとも約束は守ろう」
その後2人は奥の部屋へと消えていった。
俺は聞き取れた会話の内容を皆に話した。
「うーん。どういう事なの?」
「王自らが今回の海賊襲撃の内通者という事でしょうか?」
「単純に海賊に襲撃されただけではなさそうだな」
しかし、困ったな。
この国の王が敵だと分かった以上、誰を信用すれば良いのか分からなくなったぞ。
味方側だと思っていた人に後ろからブスリなんて御免被りたい。
その時、
ミラ王女だ。
晩餐会で知り合った王女達は、もしかしたら今後会う事もあるかもしれないとマークしておいた。
ここからそんなに遠くない距離に反応がある。
王女が今回の襲撃に加担しているのかは不明だが、唯一の知り合いとまではいかないが何度か話もしている人物だ。
魔界での出来事は王女達は覚えていないので、晩餐会で言葉を数回発しただけの間柄に過ぎないのだが、まだそんなに日が経っていない為、向こう側も俺の事は覚えているだろう。
その時は王子候補ではなく、当て馬だったと正直に話すしかない。
何人かは他国もそんな事をしていたようだし、問題視はされないだろうと思いたい。
何とかしてコンタクトを取る必要があるな。
透明化を使えば簡単だが、流石に皆を連れて城内の移動は出来ない。
「私達なら大丈夫ですよ」
そんな俺の心の声を読んでかリンが口を動かす。
「最悪の場合は、全員殺さない程度に再起不能にしますよ」
ジラが若干含みを込めてニッコリと笑っている。
ジラが言うと冗談に聞こえないんだよね。
確かに5人全員がいれば、余裕で海賊全員とだって渡り合えるだろう。
「分かった。王女とコンタクトを取ったらすぐに戻る」
俺の次に発する言葉を読んでか、精霊であるノアが俺の中から出てくる。
「私が伝令役になるわ」
「ああ、頼む」
これで離れていても、皆と連絡が取れる。
遠距離通話の魔導具でも良いのだが、精霊による念話は直接声に出さなくても念じるだけで会話が可能なので、今回のような音を出しにくい侵入任務においては都合がいい。
皆と別れて、
こいつの不都合としては、あくまでも二次元である事だ。
三次元ではない為、ターゲットがどの高さにいるのかまでは分からない。
建物が3階建ての場合は、1階からしらみつぶしに捜すしか手がない。
という訳で6階建ての城を1階から順に捜索していく。
捜索中に人質と一緒にいる海賊達が目に入ったが、手荒な真似をしている現場はなかったので申し訳ないが今はスルーしておく。
後で必ず助けるから。
海賊達は、全員顔を隠す為か仮面を被っていた為、見分けは付きやすかった。
捜索の手を3階に広げた所で、ミラ王女を発見した。
この部屋だけ鍵が掛かっていた為、もしやとは思ったが当たりだったようだ。
鍵?
音を立てないように壊したけど?
同一フロアには海賊の見張りがいたが、ドア付近にはいなかった為、見張りの目を盗んでこっそりと部屋の中に入る。
流石に部屋の住人の動向は知る由もないので、バレるかどうかは半々だったが、どうやらベッドで布団を被っていた。
寝てるのかな?
俺はソッと透明化を解除して、ミラ王女から優しく布団を剥ごうと手を掛けた時だった。
俺の手が触れるよりも早く、布団がめくれて俺の顔面目掛けてナイフを突き立てるミラ王女の姿があった。
たとえ不意を突かれても十分に躱せるだけの速度しかなかった為、素早く躱し、ナイフをはたき落とした。
ミラ王女は不意打ちを狙ったにも関わらずあっさりと否されて驚きの表情をしている。
「ミラ王女、俺です。先日の晩餐会で何度かお話しさせて頂きました。ユウです」
「何処かで見た顔だと思ったら・・何故ガゼッタ王国の騎士である貴方が海賊の真似事などしてー」
少々声が大きかったので、咄嗟にミラ王女の口に手を当てる。モゴモゴしているが仕方がない。
「ご無礼をお許しください。あまり大声を出すと外の賊に気が付かれてしまいます」
俺の手を強引に振り解く。
「貴方もグルじゃないの!」
「違います。騒ぎを聞きつけ助けに来ました」
その後、ミラ王女と話をして何とか誤解を解く事が出来た。
ここまでの状況判断だとミラ王女は、海賊側の内通者である可能性は限りなくゼロだろう。
もし違った場合は、白身の演技だと言わざるをえない。
「貴方の事は分かったわ。冒険者ユウ。取り敢えず今は信じてあげる」
自分の正体を説明するのに、ガゼッタ王国のシャロン王女の婚約者候補は嘘だった事も説明済みだ。
もう少し驚くと思っていたが、あまり関心がないのか、素っ気ない態度だった。
同時にこの国の現状と、どうしてこんな事になってしまったのかミラ王女に説明を求めた。
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事の発端は、1日前に遡る。
何の前触れもなく北の港にイキナリ海賊達が現れた。
普段ならば、警告を告げる鐘の音や迎撃用の部隊が常に港近辺に常駐しているらしいのだが、その日に限っては、鐘の音も鳴らず、迎撃部隊も偽情報に踊らされ、外洋に出撃していて不在だったらしい。
僅か100人程度の海賊達に瞬く間にこの国が制圧されてしまった。
今思えば不可解な点が幾つかあったらしい。
王国には優秀な親衛隊がいるのだが、何故だかその日は全員休みの申請を出しており武装解除した状態で城下町にあるそれぞれの家に帰っていた。
海賊の襲撃を受け、港に停泊していた船で国民達が国外に逃げようとしたが、全ての船底に穴が開けられ、使い物にならなかったそうだ。
船の数は少なく見積もっても100隻以上はあったにも関わらずだ。
「確かにおかしな出来事だらけですね」
「ええ、これはもうこちら側に内通者がいたとしか思えないの。しかもかなりの上層部にね」
俺は一瞬告げるべきか悩んだが、隠した所でそれが事実だった場合、すぐに分かる事なので躊躇せず話す事にした。
「今回の一件、ミラ王女のお父さんであるビゼルト王が絡んでいる可能性があるんだ」
俺の言葉に一瞬驚いた表情を見せたミラ王女だったが、すぐに平静を装う。
「そう、やはりね・・」
帰ってきたのは意外な言葉だった。
「それなら、私が思っている疑問も全て納得がいくわ」
どういう事なのか分かるように説明を求めようとした時だった。
「誰か来たみたいだ。姿は隠すけど、側にいるから安心して」
俺が透明化になるのとドアが開かれるのほぼ同時だった。
やば、ドアは壊したままだったな。
中に入って来たのは、俺は初対面だったが、頭に王冠を被っており、手には黄金の錫杖、全ての指に指輪をはめている。肩には赤いマントとくれば王様以外の何者でもない。
「ドアの鍵が壊れているな。お前がやったのか?」
「ええ、閉じ込められるのが嫌いなの知ってるでしょ」
「まあ、心配せずとも海賊達との交渉は上手くいった。数日中にはここを出て行くそうだ。安心しなさい」
黙って聞いていたミラ王女だったが、耐えられなくなったのか爆弾を投下した。
「お父様が今回の襲撃の首謀者なんでしょ!全部分かっているんだから!」
おいおい、今言うかよ。多少ジャジャ馬な気があるようだ。
まったく困ったものだ。
「何を言っているのだミラ」
「あの程度の数の海賊達に容易く占領される国だと本気で思っているの?」
「だから、あれは偶然が重なってだな・・親衛隊や海兵隊が不在だったからでー」
「海兵隊と親衛隊の人に聞いたわ。どちらもお父様の指示で止む無く任務を放棄したと」
「何を馬鹿な事を!デマカセに決まっている!」
(勘付いているなら娘を殺せ・・・)
「しかし・・」
誰の声だ?
俺にも正体不明の声が国王と会話している。
身の危険を感じたのか、ミラ王女が後ずさる。
(この計画は、まだバレる訳にはいかない。今すぐその娘を殺せ)
国王が、ミラ王女へと歩み寄る。
「いや・・・。来ないで!!」
これ以上は危険と判断した俺は、透明化のままミラ王女を抱え、すぐに部屋を後にする。
部屋を出た後、聞き耳スキルが部屋の中の会話を拾っていた。
「な、なんだ今のは!娘がイキナリ消えたぞ!」
(とんだネズミが入り込んでいたものだ)
暴れるミラ王女を抱え、急いで皆の元に戻る。
「あまり暴れないで下さい。落としちゃいますよ」
「さっきの声は貴方じゃないわよね?」
「違います。どうやら俺達以外にあの場にもう1人居たようですね」
「貴方みたいに隠れていたのかしら」
「考えるのは後にしましょう。俺の仲間と合流します。この辺りで安全な場所はありませんか?」
「安全かどうかは分からないけど、今も抵抗を続けている者達が集結している場所があると聞いてるわ。場所は城の最下層よ。あそこはお父様も知らない場所よ」
皆と合流し、ミラ王女の言っていた城の最下層を目指す事になった。
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