第64話: 大規模遠征【後編】
無事にユイ達と合流する事が出来たが、思わぬ強敵によりユイが負傷してしまっていた。
すぐに
周りには何人もの討伐隊参加者の亡骸が転がっていた。
他に生存者がいないか確認し、まだ息のある者は回復させ、ユイと同じ場所までクロと一緒に移動させる。
後は、クロに任せる。
俺は、未だ苦戦をしていたリン、ジラの元へと急ぎ、向かった。
モンスターは、ケルベロスのような姿をしており、
60でも危険指定種扱いされ、騒がれると言うのに、こんな奴が街の周囲に出没するなんて話は勿論聞いたことが無い。
「リン、ジラ遅れて悪かった。参戦する」
直ぐに2人に
「助かりました。ご主人様が来てくれれば、心強いです」
「マスター、私が居ながらすみません。ユイさんが深傷を⋯」
「大丈夫だ、ユイの傷は直したよ。今はクロに見てもらってる」
そんな俺達の会話など御構い無なしにケルベロスもどきは、3本の頭を巧みに使い分け、それぞれ別々の属性のブレスを吐いた。
各々が難なくそれを躱す。
「さて、反撃開始といこうか。俺が動きを止めるから、攻撃は任せる。一つの頭を各個撃破の集中砲火してくれ」
ぐっ、流石にレベルが高いだけあるな。
ここまで反発されたのは初めてだ。
「今だ!」
直後、2人の必殺技がケルベロスもどきに炸裂する。
防戦一方だった2人だったが、
すぐにケルベロスもどきの頭の一つを破壊する事に成功した。
動きを封じ、少しズルい気はするが、こちらも命を懸けているんだ。
俺も反撃と行きたいところだったが、相手の抵抗が激しく、
魔力をゴリゴリ削られる。
時間は掛かってしまったが、結果2人だけでケルベロスもどきを倒してしまった。
「2人共お疲れ様」
「やはり、ご主人様が来てからは、圧倒でしたね。防戦一方だったのが嘘のようです」
「いやいや、俺は動きを止めただけだよ。結局2人の実力だけで倒したんだ。そこは誇っていいと思うよ」
別に謙遜するつもりはないが、みんなにはもっと自信を持って欲しいと思う。
3人でクロの元に戻る。
俺の姿を確認したユイが、こちらまで走って来た。
どうやら意識が戻ったようだ。
「お兄ちゃん、ごめんなさい⋯」
ユイの狐耳が、シュンとなっていた。
なぜ、誤っているのか直ぐに理解した。
「油断しちゃって、やられちゃってお兄ちゃんに心配かけちゃって⋯」
俺は、ユイを抱きしめた。
そしていつものように頭を撫でる。
「謝るのは俺の方だ。すぐに駆けつけてやれなくて悪かった。本当に無事で良かったよ」
一歩間違えば、大変な事態になっていたかもしれないのだ。
「さて、戦いはまだ終わっていない。決着をつけにいこう」
この辺りにモンスターの気配が無い事を予めて確認し、生存者には、ベースキャンプに戻るように促した。
残る強大な敵は、あの巨大カタツムリだ。
あのアドバイスで、どれだけHPを削れただろうか。
弱点が分かったとしても、その対象である触覚は明らかに小さかった。
俺みたいに必中補正でもない限りは、あれに当てるのは容易ではないだろう。
まだ少し距離があったのだが、対象が巨大な為この距離からでも視認出来た。
かなり弱ってるな。この分なら俺達の出番はないかもし⋯⋯!?
何か変だぞ。
カタツムリの外殻が眩い光を帯び始めたのだ。
そういえば、奴のスキルの中に自爆があるのを思い出した。
「まさか⋯」
次の瞬間、予想は現実となった。
「みんな!!俺の近くに!!早く!!」
いきなりの言葉に皆、訳が分からないという顔をしながらも側へと集まる。
そして、障壁を展開した。
障壁を展開した丁度同じタイミングで、巨大カタツムリが大爆発を起こしたのだ。
スキル欄にあった自爆であろう事は、一目瞭然だった。
実際の爆発時間は、一瞬だったが、生きた心地がしない。
障壁の外は、凄まじい衝撃波と爆風の嵐で、視界ゼロとなっていた。
全ては、障壁がシャットアウトしてくれていたが、周りの光景の悲惨さで、一様に皆が言葉を無くしていた。
爆風により舞い上がった土煙が次第に晴れていき、周りの情景が鮮明になる。
「こ、これは酷いですね⋯」
「一体何が⋯」
「お兄ちゃん、怖い⋯」
「自爆?」
「取り敢えず、みんな怪我はないか?」
皆が頷く。
辺りを警戒しつつ障壁を解除した。
「まだ動くなよ」
障壁を展開した場所以外の地面が大きく削り取られていた。
まるで隕石でも落としたような感じになっている。
巨大カタツムリが居たと思われる場所を中心として、見渡す限りの巨大なクレーターが広がっていた。
「ここに居てくれ」
地上からでは分からない。
「こ、これはヤバいなんてレベルじゃないな⋯」
ポッカリと直径10km程の大穴が大地に空いていた。
とてもじゃないが、この範囲内にいた者は、生存の可能性は、低いだろう
皆の元へ戻り、今見た事を告げた。
悲惨な事実に、何を喋ったらいいのか、暫く沈黙が続いていた。
しかし、いつまでもここに居る訳にもいかない。
「生存者がいないか各自散開して探そう。生存者の発見もしくは、何かを見つけたら、連絡を頼む。構成は、リン、ユイとジラ、クロのコンビで行くぞ。俺は1人でいい」
「了解!」
そして、すぐに複数の反応があった。
視界に入ってきたのは、5人だ。
1人は、俺を介抱してくれていたユーリだった。
皆何処かしらの怪我を負っているようだ。
その中でも一番酷いのは、全身血だらけの鎧を纏った人物だ。
なんと勇者だったのだ。
ユーリが俺の事に気が付いて声を掛けてくる。
「君は確か⋯。無事だったんだね」
「ああ、なんとかね。それより彼の容体は?」
ユーリは、首を横に振っていた。
周りの3人も下を向いて黙ったままだ。
「彼が私達の大将よ。大将は、私達を守る為にその身を犠牲にしたの⋯」
彼等の仲間に聖職者がいたそうなのだが、生憎と近くにいなかった為、助けられなかったそうだ。
「まだ、息がある。見せてくれ」
俺は勇者の鎧を剥がしていく。
「もう無理よ⋯。致死量以上の出血だわ。上級聖職者でもこの場に連れてこないと助からないわ」
「諦めるのか?」
「だ、だって⋯」
「自分達をそれこそ命を掛けて守ってくれた人を簡単に見捨てるのか?」
少し意地悪だったかもしれない。しかし、言わずにはいられなかった。
もし俺がここで力を使えば、助けられるだろう。
恐らく彼等は勇者御一行様だ。
この世界の実力者に自分の存在を知られるのは、大きなリスクでもある。
しかし、だからと言ってこのまま見捨てるなんて事出来るはずがない。
俺の答えは既に決まっていた。
「これなら、まだ救える」
俺の言葉に他の4人が一斉に顔を上げる。
俺は、
「あ、あなた聖職者だったの!?」
「そんな事より、直ぐに街まで運ぶんだ。傷は癒したが、流れた血は戻らない。すぐに教会へ!」
「そ、そうね⋯分かったわ」
彼等は、大将を連れその場を離れた。
去り際に、ユーリがこちらを振り向く。
「本当にありがとう⋯。大将を失ってたら、人類の大きな痛手だったわ。それに私の大切な人⋯」
ユーリは、何度も何度も頭を下げていた。
俺はこの場を離れ、生存者探しを再開していた。
しかし、爆発周りでの生存者は確認出来なかった。
運良く、近くにおらず、爆発に直接巻き込まれなかった人達は、皆グラン王国を目指していた。
俺もみんなと合流し、グラン王国を目指す。
王国に到着すると、すぐに被害の確認をするという事で、動ける者は全員王宮へと招集を掛けられた。
俺達も見聞きした内容を報告しておいた。
しかし、ケルベロスのレベルだけは伏せている。
大騒ぎになっても困るからだ。
討伐戦開始前は、大人数でごった返していた広間だったが、今集まった人数は俺達の5人を含めて30人程度しかいなかった。
当初200人は居たはずだ。
今回の討伐戦の悲惨さを物語っていた⋯
ガゼッタ王国から参戦している俺達は、ガゼッタ王国国王からの指示で、その日の内に強制帰還命令が下されていた。
個人的に調べたい事があったんだけど、命令では仕方がない。
俺達の扱いは、ガゼッタ王国側の義勇兵となっていた。ガゼッタ王国側の保有戦力という事になる。
それを、他国の要請をへて自国の保有戦力を貸し与えが、結果そのほとんどを喪失してしまい、ガゼッタ王国側も黙っていないという辺りだろう。
実際の真意の程は不明だが、敵さんも動きが見られないという事で、恐らく大丈夫だろう。
後で分かった事だが、グラン王国側も相当な被害を受けていた。
当初2000人近くいた討伐隊の数は、生き残りは、500人程だったと言う。
例の勇者一行が気になったが、取り敢えずの処置は施していたので、命に別状はないはずだ。
あれ、確か⋯ユーリさんが何処かで待つとか言っていたような。
俺達は、様々な想いを巡らせながら、来た時と同様の空艦オリンポスで、グラン王国を後にした。
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