第24話: エルフの里での生活6(ガリムの正体)
皆で一緒に豪華な朝食を食べていた。
俺は、眠いのを悟られまいと必死に堪えている。
その朝食の席でエレナが、先日行われたエルフ超会議の内容を話してくれた。
部外者の俺なんかに話しちゃってもいいのだろうかと思ったのだが、内容は俺にも深く関係していた。
議題は、以前エレナを拉致し、亡き者としようとした挙句、人族とエルフとの戦争を企てていたマルベスの処遇についてだった。
そのマルベスの陰謀を見事に打ち破ったのは、他でもない俺達なのだが。
結果としては、全員一致でマルベスを国外追放する事に決定したようだ。
このエルフの里では、死刑と言う概念はなく、最も重い罪が国外追放なのだ。
すでにエルフ騎士隊により、国外追放されたという事なのだが、別に同情するつもりもない。
朝食を食べ終えた俺達は、ある準備をしていた。
昨夜、突然調べたい事があると言い、セリアが俺の元を離れていたのだ。
調べたい事と言うのは、他でもない精霊の事だった。
お人好しなセリアは、心配していたのだ。
ガリムを宿主としている精霊の事が。
俺は何が起きても朝には戻ってくるようにセリアに言っていたのだが結局戻ってこなかった事に言い知れぬ不安を感じていた。
精霊であるセリアは、人の手によって危害を加えられる事はまず無い。
だから大丈夫だとは思うのだが、嫌な予感がする。
今までセリアが約束を守らなかった事は無かった。
それを確かめるべく、俺は単身ガリム邸へ向かっていた。
本来、精霊は
そしてガリム邸の前へと到着した。
ハッキリとセリアの反応が映っている。
やはりセリアは、まだこの中にいるようだ。
俺の姿を見つけた門番が話しかけてくる。
「ユウ殿ですね、ご当主がお待ちです」
そう言い、門を開けて中へと案内してくれる。
当然、会う約束などしているはずもない。
どういう事だ?
てっきり門前払いと予想していたのだが。
これはいよいよもって怪しい。より一層警戒心を強める必要がありそうだな。
そのまま屋敷の一室へと案内された。
どうやらここは応接室のようだった。
テーブルの四方を高級そうな黒いソファーが囲っている。
セリアの反応はこの部屋ではないな。
俺としては、話なんてしている暇はないんだけどな⋯
すぐにでも探し回りたい気分なのだが、俺への話というのも気になる。
暫く待っていると彼が部屋の中へ入ってくる。
相変わらずのイケメン振りである。
そのキザったい澄ました顔がなんともイラッとする。
それは俺が男だからであって、女性陣からしたらキャーキャーと騒ぎ立てているのかもしれない。
「すぐにまた会えると思っていたよ」
ガリムは微笑ましい笑みを浮かべている。
だから、いくらイケメンでも俺は男には興味はないんだって。
そして、イキナリとんでもない事を喋りだした。
「君を私の仲間に迎えたい」
はい、意味が分かりません!
「おっしゃられている意味がよく分からないのですが?」
彼は自分の計画を俺に話し出した。
1週間後にエルフの里である選挙が行われると言う。
このエルフの里での国王、王妃に続いて3番目の権力者と言われている、教皇を決めるための選挙だ。
教皇の任期は、30年という。
30年と言われれば長い気もするが、それは俺たち人族の感覚であって、長寿のエルフたちからすれば、微々たる時間なのだ。
その節目が1週間後だというので、何ともまた変なタイミングに出くわしてしまったものだ。
なんと彼は、元老院という経験を利用し、教皇に立候補している1人だった。
別にそれだけならば、何の問題もなかったのだけど⋯
事前にエレナにも聞いていたが、彼の評判は悪くない。
むしろ元老院の中でも最も人気のある人物だった。
恐らく、彼が立候補すれば、教皇になれる確率は割と高い。
それでいて、より確実に選挙で教皇になれるよう、俺を取り入れて戦力にしようとしていたのだ。
戦力といっても、別に戦ったりするわけではなく、選挙の票を掴むために協力して欲しいのだと言う。
予想外の展開に、少し呆気に取られてしまった。
おっと危ない、本来の趣旨を忘れるとこだった。
今のところ、特に怪しい素振りは見せていないようだが、ここからが肝心だ。
俺は彼にぶっちゃけてみた。
どう話を進めようかと色々と考えてみたが、回りまわってぶっちゃける事にしたのだ。
決して何も考えていなかった訳ではない。断じて違う!
「貴方が本当にこの里の皆さんの評判通りの方でしたら、俺に出来る事での協力は惜しみません」
彼は不思議そうな顔をする。
「それはどういう事だい?」
「俺は貴方と同じように精霊の宿主をしています」
彼が驚いていた。
意外にも演技とかではなく、どうやら本当に知らなかったようだ。
気にせずに話を続ける。
「その精霊が昨晩から帰ってこないんですけど、ガリムさんはご存知ありませんか?」
この屋敷内にいるのは分かっていたのだが、あえてカマを掛けてみる。
先程は驚いていた彼だったが、今の平静を保っている。
というよりもポーカーフェイスを装っている感じだった。
何かを考えているのか、急に口を紡いでしまった。
しばしの沈黙が続いた後に、
「私も精霊を宿していることは、以前話したと思うが、まさかその精霊を疑っているのかい?」
「いえいえ、貴方も精霊をその身に宿している事は知っていますし、その精霊とは違います。ただ、ご存じなのかを聞いています」
「そうか、そう言う事ならば、私は知らないな」
ほお、どうやらシラを通すらしい。
「本当ですか?ならば、屋敷の中を探させてもらっても?」
「君は私を疑っているのかい?私が嘘をついていると?」
「昨晩、貴方に宿っている精霊の事が気になると、貴方の屋敷を訪れたはずなんですけどね。本当だと言うならば、調べさせてもらえないでしょうか?お時間は取らせません。少し見て居なければ、諦めて帰るつもりです」
「精霊が居なくなってしまったのは、君自身が見限られたのではないのかい?精霊は繊細で心優しい。主に少しでも疑問を感じると、すぐに離れて行ってしまうのだよ」
それは初耳だった。しかし今は関係ない。
「だが、悪いね。私も立場があってね、他人に部屋を荒らされるのは好まないのだよ。部外者には、特に他種族に見られてはマズいものも幾つかあるしね」
「俺の協力を得たいんじゃなかったんですか?」
彼は態度を急変させて気が変わったと。この話は無かったことにしてくれと、半ば強引に俺を部屋から、屋敷から追い出してしまった。
今俺は、門の前にいる。
念話でセリアに話しかけてみるが、やはり返事がない。
ある程度離れていても、通じるはずなんだけどな。
彼は本当にこの件を知らないのだろうか?
いや、そんなはずはない。急に態度を変えたことからも、絶対に何かを隠している。
あまり乗り気ではなかったが、今晩忍び込むことにしよう。
いつもの黒装束を手入れしておかないとね。
屋敷に戻った俺は、エレナにだけは今後一切の隠し事はしないと約束していたので、今朝の件をエレナに話した。もちろん2人きりの所でだ。
「仮にガリムさんが絡んでいるとして、どうやってセリアさんを拘束しているのでしょうね?」
確かにそうだ。
本来、人々が精霊を拘束、従わせることなど出来るはずがないのだ。
「でも、屋敷に忍び込むことは反対です!」
エレナの表情は少し怒っていた。
「もし、彼が何も悪いことをしていなければ、ユウ様が犯罪者になってしまいます!」
俺の事を案じてくれているらしい。
「本当にエレナは優しいな⋯」
俺が正直に本音を言うものだから、エレナが赤面してしまった。
「分かりました!では私が確かめてきます。彼も私のいう事ならば拒みはしないでしょう」
「それはダメだ!危険すぎる。もしまたエレナの身に何かあれば⋯」
エレナが微笑んでいる。
「ユウ様こそ、いつもお優しいですよ。私以上にね」
どちらも譲る気はなかったので、2人で話し合い作戦を決めた。
作戦はこうだ。
エレナが教皇へ立候補をするガリムに対して、心境のほどを聞いてくるように王から確認を依頼されたという名目で、ガリムに会う事にする。
エレナに危険が及ばないように、俺は先日購入した魔導具のクリアブルマントを使い、透明になった状態でエレナについていく事になった。
透明化の持続時間は、以前確認済みだ。
現在の俺の魔力で約2時間程度ならば透明状態を維持できる。
流石に今日は怪しまれる可能性があるので、作戦は明日決行する事となった。
次の日の朝になり、作戦決行の時を迎えていた。
ユイとクロも一緒に来たがっていたが「お兄ちゃん命令だぞ!」の一言で大人しくなった。
何かお土産を買ってこないとさすがにちょっと可愛そうだな。
用心の為、エレナとは別々に行動し、屋敷の前で落ち合う事になっている。
もちろんエレナにも俺の姿は見えないので、
エレナの側から離れる時は、肩を2回タップする約束だ。
そして、俺達はガリム邸へと入っていく。
「エレナ様、今日はどうなされたのですか?」
エレナは、女優ばりの名演技で、作戦通りの説明をしている。
ガリムも疑っていないだろう。
さてと、エレナが話をしている最中、俺はセリアを探す計画だ。
エレナの肩を2回タップし、その場から離れる。
もし俺がいない間に何かあれば、大声を出すように言ってある。
気付かれないように、そっと部屋を出て、セリアを探す。
幸いにも
小さな鳥かごのような牢屋に閉じ込められているではないか。
どうやら眠っているようだ。
姿は隠れたままで、セリアに念話を送ってみた。
「セリア、俺だ。大丈夫か?」
しかし反応がない。
精霊は
というか、精霊が状態異常のようなバッドステータスにはならないはずなのだが、
駄目元でセリアに
すると、どうだろうか、セリアが目を覚ましたのだ。
辺りをキョロキョロしている。
「ご主人⋯様?」
「だから、いつ俺がご主人になったんだよ」
ついつい反射的にツッコミを入れてしまった。
「ごめんなさい。あの男に捕まってしまいました」
「待って、詳しい話は後にしよう」
俺はセリアを鳥かごから出してやる。
頑丈に金属の柵で閉じ込めてあったが、俺の筋力を持ってすれば、カギなどなくてもセリアを出すのは簡単だった。
救出したセリアをすぐに自分の中に戻す。
これで一先ずは安心だろう。
鳥かごも一応ストレージの中に閉まっておく。
痕跡は消しておかないとね。
念話でセリアとやり取りをして分かった事は、
昨晩、セリアは精霊の様子を探るために、ガリム邸を1人訪れていた。
精霊同士は気配で探ることが出来るので、居場所はすぐに分かったと言う。
しかし、待てども待てども彼の中にいる精霊にコンタクトを取るが、反応が返ってこない。
その時に、油断してしまい、彼に存在がバレてしまったのだ。
すぐさま逃げようと思ったそうだが、次の瞬間体が動かなくなったと言う。
セリア自身、最初は訳が分からなかったのだが、すぐにセリアを縛っている力の正体が分かった。
彼は精霊王の指輪を持っていたのだ。
「精霊王の指輪?」
「はい、簡単に言うと全ての精霊を従わせる事が出来る指輪の事です」
なんて代物だ。神にも近しい存在を従わせる事が出来るなんて⋯
しかし、なぜそんな代物が存在しているのか?また、なぜそんな物を彼が持っているのか?
「本来、精霊王の指輪は、私たちの王である、精霊王の所有物であり、この世界には一つしか存在しません。直に確認しましたが、あれは本物でした」
彼の右手の人差し指にしている指輪がそれだと言う。
一体そんな物を使って何をしようとしたのか。
セリアは尚も続ける。
「私にも、宿主になれと強要されました。しかし、私は既にユウさんを唯一のご主人様と決めておりますので、いくら精霊王の指輪の力を持ってしてもこの関係を崩す事は出来ませんでした」
真顔でセリアが淡々と喋るので、正直照れる。
途中からセリアの主観が入っていたので、正確にはこうだ。
生ある者を宿主と決めた場合は、その者の許可を得ないと、宿主の解除は出来ないのだった。
やはり、ガリムが胡散臭いのはこれではっきりした。
しかし、まだ決め手が足りない。
指輪の力、もとい精霊の力を使って何がしたかったのか。
まだ何か裏がありそうだな。
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