幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

第1話: ユウ異世界に舞い降りる

 俺の名前は一之瀬悠太いちのせゆうた。23歳独身のどこにでもいる、ごく普通の会社員だ。

 昨日までは…


 今目の前には、誰が見てもあり得ないだろうという光景が広がっていた。

 姿形は人間と変わらないのだが、頭の上にピクピクと軽快に動くイヌ耳少女や、視界の端に見えるレーダーの類のものやら。


 少女の掛け声に反応してポットが宙を舞っている。

 窓の外に目をやると、そこには食べたらサイズが大きくなる某ゲームの巨大化キノコを彷彿ほうふつとさせるキノコ畑が辺り一面に広がっていた。

 どうして自分はこんな所に居るのだろうか⋯。


 時を遡ること一日前


 その日、俺はいつも通り朝7時に起床し、勤めている会社に出勤する。

 仕事は製造のライン作業で一日中同じ作業を繰り返している。我ながらつまらない仕事だなと、だがしかし他にやりたい事も特技も技能も持ち合わせていない為に今の職に収まっている。

 会社でも仲間内でいる時間は少なく基本一人だった。コミュニケーションを取るのはあまり得意な方ではなかったからだ。

 俺はいつものように坦々と仕事をこなしていく。


 定時となり仕事場を後にし家路へと足を運ぶ。

 仕事場から徒歩5分ほどで家が見えてきた。明かりはついていない。当然家には出迎えてくれる人もいない。しかし、アパートではなく、一軒家に住んでいる。というのも両親は五年前に交通事故で他界し、以降一人暮らしをしていたからだ。親戚もいない。かなり遠縁に居るには居るのだが、会った事すらないのだ。外出という外出も最低限の食料調達のみで、基本休日も家で一日を過ごしている。

 今のご時世、ネット通販だけで一歩も外に出ずに生きていける自信が俺にはある!


 さぁ、今日もindoorサーフィンの時間だ。


 そんなこんなで気が付けば深夜2時を過ぎていた。


「そろそろ寝るかなぁ」


 パソコンをシャットダウンし、ベッドへと向かい、倒れ込むように眠りへと落ちる。


「私⋯界⋯⋯を⋯て⋯⋯」


 どこからともなくそんな声が聞こえたような気がしたが、この時はそれが夢だったのか現実だったのかは定かではない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 何やら頬に風を感じる。直射日光を浴びているような感覚までしてきた。背中から伝わってくる感覚もいつもの低反発布団ではない。俺は恐る恐る目を開けた。


 視界の先には、辺り一面の森が広がっている。


 見渡す限りの木々。どこか富士の樹海のような神秘的な印象を受ける。思えば、着ている服も見た事がない服になっている。

 黒いローブ⋯だろうか? ラノベに出てくるところの魔法使いが着ていそうな感じだ。


「我ながら変な夢だな。どうせ見るならもっと他にあるだろうに」


 ふと空を見るべく、顔を上げてみた。

 するとそこには太陽と思しき物体が二つ視界に入ってきたのだ。


「あれ太陽だよな、なんで二つあるんだ?」


 二つある次点でここは地球じゃないという事は容易に想像がついた。まぁ、夢の中の設定にルールなんてものがあるわけが無い。


 俺は、この現状を整理する為に十分くらいだろうか、周りに視線を送ってみたりと物思いにふけっていた。


「やめだやめ。考えるのはやめだ。どうせ夢なんだし、このままここにいても仕方がない。移動してみるか」


 立ち上がり、神秘的な雰囲気をかもし出している樹海の中へと彷徨い歩いていく。最初は気のせいかもと思ったが、それは次第に確信へと変わっていく。


 足取りが軽い。というより体自体が軽くなった気がする。重力が小さくなったような感じに近いだろうか。

 まぁ気にしていても答えが分かるとも思えないので、そのまま目的地もなく歩き続ける。


 暫く進んでいると、どこからともなく犬の遠吠えが聞こえてきた。


「おいおい、こんな所に野犬かよ。まさか出くわして襲ってきたりしないだろうな⋯」


 心配になり声の聞こえた方とは反対側に足を運ぶ。


 更に進むと、今度は小川のせせらぎが聞こえてくる。


 そのまま進むと、予想通り小川が視界に映る。幅は三メートルほどだろうか。覗き込むと顔が水面に反射して写っているのが見えた。すぐ下に川底が見えたので大した深さはない。精々四十センチ程度だろう。


「ものすごく澄んでるな。普通に飲水としてもいけそうだ」


 まぁ飲まないけどね。

 などと思っていると背後から何かの気配を感じ、驚いて振り向く。振り向いた先には自分の背丈の2倍は有ろうかというサイズの狼のような生物がいた。というのも、顔が2つあるのだ。勿論こんな生物俺は見た事がない。例えるならあれか、ゲームや小説か何かに出てくるケルベロスだろうか。


 狼との距離はだいたい十メートルくらい離れている。

 どうするか、走って逃げるか? いや、普通に考えて逃げ切れるわけがない。ネットで読んだ事がある。たしか狼は獲物を狩る時は時速百キロを超えるとか。ましてや今目の前にいるのは通常の狼の五倍はあるだろうか。これがゲームなら即ゲームオーバーだ。


 巨大狼を睨んでいると、目の前にある情報が浮かんできた。


 名前:ジャイアントウルフ

 レベル:24

 種族:狼

 弱点属性:水

 スキル:衝撃波ショックウェーブLv2、火焔玉ファイアーボールLv1


 HPバーのようなものまで見えている。

 なんだこれっ! と思わず叫びそうになったのをグッとこらえる。これではまるで本当にゲームの世界じゃないか。


 よ、よし冷静になろう。深呼吸して考えよう。所詮夢なんだし、食べられたって別にいいじゃないか⋯などとはこれっぽっちも思っていない。


 実はここへ来る道中にいろいろと思うところがあったのだ。風を切る肌の感触。鼻孔をくすぐる甘い杉の香り。夢にしてはやけにリアルだった。意味があるかは分からないが、頬をつねったりもしてみた。


 結果は、お察し。


 ジンジンとした感覚と頬が少しだけ赤くなっただけだった。


 というような事もあり、ここに一つの仮説が成り立った。これは夢ではない。ラノベの世界ではよくある異世界トリップ系じゃないのかと。


 ヤバいな、さてどうしたものか。相手の眼光は鋭く、俺は目を離す事が出来なかった。それどころかその場から一歩も動けなかった。


 何というプレッシャーだろうか。


 どれくらいの時間が経っただろう。恐らく時間としては1分も経過していない。

 額から変な汗も滴り落ちてくる。その汗を腕でぬぐおうとしたその時だった。


 先に動いたのは狼だ。


 口を大きく広げて何やら息を吸い込んで溜めを行っている。

 

 そして次の瞬間、けたたましい轟音ごうおんと共に衝撃波のようなものが俺を襲った。


 立っていられるわけもなく、背にしていた小川を飛び越え、5mほど後方に吹き飛ばされてしまった。


 一瞬の出来事だった為、何が起こったかを把握するまで俺の思考は止まっていた。脳裏によぎったのはゲームオーバーすなわち死である。


 先ほどの衝撃波で、吹き飛ばされた時に小石に擦ってしまった為であろう、所々衣服が擦れて破れてしまっている。


 我に返させたのは視界の端に見える先ほどの巨大狼の時に見えたゲージのようなものである。


「あぁ、そうか、俺のHPゲージか⋯」


 そのHPゲージと思われるものは少しだけ減っていた。それにしても十メートル近く離れていてこの衝撃だ。近くにいたのならどうなっていたのやら。巨大狼ことジャイアントウルフは、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。


 その場から動く事が出来なかった。金縛りでも喰らったのかという錯覚に陥ったが実際は腰が抜けて動けなくなっているだけである。


 尚もジャイアントウルフは近付いてくる。


 そして小川を挟む形で両者は対峙する。


 その距離は五メートルもないだろう。なぜかジャイアントウルフはそれ以上近づいてくる素振りを見せず小川の前でこちらを睨み付けるだけだ。


 何故だろうと思った瞬間に、ふと脳裏に先ほどジャイアントウルフの情報が見えた時の事を思い出した。


 コイツ確か弱点が水だったよな。


 なぜ狼の弱点が火ではなく水なのかはとりあえず今は置いておく。

 まずはこの状況を打破する事が最優先だ。もしまたあの衝撃波を喰らったら今度は無事でいられるか分からない。所持品を何も持っていないのはすでに確認済みなので何か使えるものがないか周りに目を配る。

 手の届く範囲には小石がいくつか落ちてる程度で他には何も見当たらない。


 よし、これだ。


 俺はジャイアントウルフを刺激しないように最小限の動きで手の平大の小石を手に取り、狙いを定める。

 狙いはジャイアントウルフ⋯ではなく、ジャイアントウルフ手前の小川だ。


 投げようと振り被ったその手は震えていた。

 無理もない。生きるか死ぬかの瀬戸際なんて今まで経験した事がない。

 だが、この状況を何とかしないと間違いなく自分は死ぬだろう。何故だかそう思える確信があった。


 などと考えているうちに、先にジャイアントウルフに動きがあった。

 口を大きく広げる動作を取ろうとしていた。


 マズい! やるしかない!


 何もせず、ただ殺られるくらいならこっちからやってやる。

 いつのまにか腕の震えはなくなっていた。

 俺は意を決して小石を投げ放った。


 うっすらと石が光っているような気がしたが、気にしている間もなく続け様に二個、三個と投げつける。

 思っていたよりも速度が出た。小石は狙い通りジャイアントウルフ前の小川に命中し、その衝撃で弾け飛んだ水が目論見通りジャイアントウルフに命中する。目論見通りでなかったのは、弾け飛んだ水の量だ。手の平大の小石程度が当たった量ではなかった。頭大もしくは、もっと大きなサイズ並の量だった。口を大きく開けている巨大なジャイアントウルフの顔にまで水が届いていたのだ。相手もさすがに驚いたのか口を閉じ、後ろを向き一目散に逃げていった。

 その巨体の割に意外とあっけないと思いつつも⋯


「助かった⋯のか?」


 遭遇してから僅か数分足らずの出来事だったが、俺にはそれが十倍にも二十倍にも長い時間に感じられた。

 取り敢えず、危機は脱したようだ。またあいつが戻ってくる前に俺は逃げるようにその場を後にした。


 小川沿いに進もう。


 進みながら考えていた。

 この世界が本当に異世界ならば、なぜ俺はこの世界に来てしまったのか。

 どこでフラグが立ってしまったのか。

 昨晩はいつも通りベッドで寝たはずだ。何も変わった事はしていないし、なかったはずだ。思い当たる節はなかった。


 さて、これからどうしたものか。異世界ならばあれか、よくある異世界に飛ばされた人間はチート級な能力を最初から持っていてこの異世界において勇者と呼ばれる最強の存在になっているとか?


 さて自分はどうなのだろうか。ステータス画面のようなものはないか。そう思い、頭の中でステータス画面が見たいとイメージしてみた。

 すると視界に自分のものと思われるステータス画面が表示された。


 名前:???

 レベル:1

 種族:人族

 職種:なし

 スキル:鑑定アナライズ魔力注入マジックインジェクト範囲探索エリアサーチ

 称号:異世界人


 んーなんだろう。結局レベルしか分からない。というか名前すらないのか。


「ていうか、レベル弱すぎだろ」


 それに力とか速さとかの肝心な情報が見当たらない。HPバーとMPバーのようなものは視認できるのだが、実際の数値が見えない。これだと自分がどの程度の強さなのかがまったく分からない。


 まぁ、あのレベルの時点でお察しなのだが⋯。


 気を取り直してもう一つ試してみたい事がある。

 こういう異世界トリップやゲームにはお決まりであるストレージ≪仮想アイテム保管庫≫だ。そう思った瞬間目の前にストレージの窓が現れたじゃないか。


 ふむふむ。リストみたいだな。

 0/9999と表示されている。

 このままの通りなら9999個格納でき、現在は一個も格納されていないという事になる。

 試しにそこらに落ちている小石を拾い上げストレージに入れるとイメージしながら手を放してみた。すると小石が消えたじゃないか。


 ストレージのリストを確認すると1/9999と表示が変わっていた。どうやら成功したみたいだな。

 この機能はかなり使える・・。戦闘で使うかもしれないので小石を何個かストレージにストックしておく。


 再度リストを確認すると1/9999のままから変化がない。

 どうやらこの数字は数量ではなく、種類のようだ。サイズが違っても石は一種類という事になっている。実際に中身を確認すると個数はちゃんと増えて6個となっていた。


 何があるか分からないので、手頃なサイズの石をどんどんストレージに回収していく。


 さてと、スキルについて詳しく見ていこうか。

 そう思いスキル名を見つめていると説明文が出てきた。


 ■スキル

 鑑定アナライズ:鑑定スキル。相手の情報やアイテムの情報取得が可能。


 魔力注入マジックインジェクト:対象物に自身の魔力を込める。


 範囲検索エリアサーチ:自分の周囲の状況を把握する。


 範囲探索エリアサーチ以外は覚えがあった。ステータスが見れたのは恐らく鑑定アナライズのおかげだろう。

 魔力注入マジックインジェクトは、ジャイアントウルフを追い払った時のやつだろう。ただの小石であそこまでの水しぶきは上がらない。


「もう一度使ってみるか」


 そう思い、俺は足元の小石を拾い上げ、最初は何も考えず前方方向に投石した。目標があった方が良いので、十メートルほど先の木を狙ってみた。

 結果はというと、狙っていた木にすら届かなかった。

 というか明後日の方向へ飛んで行ってしまった。


 気を取り直して、次は先ほどと同じように同じサイズの小石を手に取り魔力を込めるイメージをしてみた。


 小石が鈍く光を放っている。


 そのままの状態で先ほど狙った木に向かって投げてみた。


 するとどうだろう、先ほどと同じ力で投げたにも関わらず速度も威力もケタ違いだ。

 小石は狙いに到達し、木の内部にまでめり込んでいる。

 貫通はしていないようだ。


「こいつは驚いたな。魔力を込める事によって、威力や速度だけではなく命中精度もあがっているみたいだ」


 俺自身、弓道や射撃しゃげきといった事は経験がなく、ましてや十メートルも離れている対象物に物を当てるなど出来るはずもなかった。


 その後も何度か実験をしてみて分かった事が二つ。


 一つは魔力注入マジックインジェクトと言うからには使い続けると疲れてくるもしくは、込めれなくなると思ったが、一向にその瞬間は訪れなかった。百回以上は投げたにも関わらずにだ。

 恐らく魔力を注入と言っても極少量であり、使い続けても魔力が枯渇する事はほぼないという事。


 もう一つは、込める時間だ。込め続ければ威力も速度も相乗効果があるのかと思ったが、薄っすらと光り始めて以降は、より強く魔力を込めるようにイメージしても変化はおきなかった。速度も威力も変わらなかったのだ。推測だが、薄っすらと光る事で魔力の注入自体は完成しており、それ以上魔力を込める事は出来ないのだろう。


「あの時、水面を狙わずに直接狙えば良かったのか」


 などと少し後悔する。またチャンスがきたら試してみようか、あまりきて欲しくはないけど。


 次だ。最後のスキルを検証してみよう。恐らく自分の周りの索敵のようなものだろうか。どうやって発動するのか分からないが、取り敢えず頭の中で念じてみた。


 《範囲探索エリアサーチ


 すると視界の先に広範囲レーダーのようなものが現れた。サイズは縦横一メートルほどだろうか。等間隔に線が引かれている。中心の青い点が本人だろう。中央から画面の端までのちょうど中間あたりに赤い点が1つ見えた。普通に考えるならモンスターだろうか?距離を特定するためにも赤い点に向かって進んでみる事にした。


 範囲探索エリアサーチを頼りに慎重に足を運ぶ。

 一歩辺り約五十センチ計算で歩数を記憶しながら進んでいく。


 そして、カウントで八十二歩歩いた所で赤い点の主が視界に現れる。

 兎の一種だろうか。

 頭に角のようなものが見える。兎のような生物を視認しつつ鑑定アナライズを使ってみる。


 名前:アン・ホーンラビット

 レベル:6

 種族:一角兎

 弱点属性:火

 スキル:なし


 やはり兎のようだ。いろいろとツッコミどころは満載だが、あえてツッコマないでおく。とりあえず名前が長いので角兎つのうさぎと命名しよう。


 角兎は何かに警戒しているのか一向に動く気配がない。

 こちらとの距離はおそらく十メートル程だろうか。先程の八十二歩と十メートルを足して五十一メートルか。その計算が正しければこの範囲探索エリアサーチは自分を中心として前後左右百メートルの範囲という事になる。これだけでももはやチートレベルなのだが、許してもらおう。


 範囲探索エリアサーチの範囲も分かったし、次に試すべきなのは今の俺にモンスターを倒す事が出来るかどうかだ。幸いにも角兎のレベルは高くない。だがここで一つ問題がある。


 はたして倒せるのか? 相手の強さとかはこの際関係ない。元の世界に居たときは動物の殺生など経験がない。そりゃ、小さな虫であるとか例えば魚とかならば大抵の人は経験があるだろう。だが兎は⋯。

 異世界トリップした勇者達なら迷わず剣を振るうのだろう。だが今の俺には出来そうもない。それにそもそも剣なんて持ってないしね。そう頭の中で自分自身に言い訳しながら先ほど回収してストレージに入れておいた小石を二つ取り出す。

 覚悟を決めよう。やらないとやられるんだ。ここはそういう世界だ。元いた世界とは違うと自分自身に言い聞かせ、手に持った石に魔力を注ぐ。

 薄らと光った事を確認してから、角兎の方に視線を向ける。相変わらず動く気配がない。

 そのまま振りかぶった腕を振り下ろした。


 魔力を帯びた小石は角兎めがけて飛んでいく。


 狙った通り角兎の頭に小石がヒットした。

 するとその瞬間視界全体が一瞬何度が光った。なんだろうと思ったと同時に説明文が視界の端の方に現れる。


 "レベルが1上がりました。スキルポイント10P獲得"

 "レベルが1上がりました。スキルポイント10P獲得"

 "レベルが1上がりました。スキルポイント10P獲得"

 "レベルが1上がりました。スキルポイント10P獲得"


 "投石スキルを覚えました"


 どうやら角兎を倒した事により俺のレベルが上がったようだ。その際に投石スキルを覚えていた。

 スキルは後で確認するとして、角兎の方に歩み寄る。

 角兎は頭から血を流しピクリともしない。正直ちょっとグロい。


 こんなの慣れるのだろうか⋯。

 この世界で生きていくにはこの程度はおそらく日常茶飯事なのだろう。


「あれだな⋯直接剣とかで倒すのではなく、たとえば遠距離からの攻撃なら、まだいけるかもしれない」


 息絶えた角兎を見ながら何かに使えるかもしれないとストレージに回収しておく。

 その際、角兎に触れる事なくストレージに回収する事が出来た。

 すでに道中で小石で実験済みなのだ。対象物に直接触れなくてもある程度近付けばストレージに回収できる。


 "ストレージリスト"

 1.石

 2.アン・ホーンラビットの死骸


 よし、ちゃんと反映されている。

 さて、少し整理しよう。


 まず範囲探索エリアサーチを確認し辺りにモンスターの気配がない事を確認する。


 先程の視界全体のフラッシュは、恐らくレベルが上がった時のお知らせ的な何かだろう。一回ならまだしも2回も3回も点滅すると少し気持ち悪い。

 一気にレベルが上がったため点滅したのだろうと推測する。ちなみにステータスを確認してみると、


 名前:????

 レベル:5

 種族:人族

 職種:なし

 スキル:鑑定アナライズ魔力注入マジックインジェクト範囲検索エリアサーチ、投石Lv1

 称号:異世界人


 レベルが五になっている。それに投石のスキルもちゃんと覚えていた。


「ん、投石スキルにLvが付いているな」


 レベルを上げる事が出来るのか?

 そう言えばさっきレベルが上がった時にスキルポイントを獲得してたっけ。

 おもむろに投石スキルの文字が浮かんでいる部分を手で押してみた。

 おっと、レベルが上がったぞ。どうやら押すと上がるようだ。

 スキルポイントは貴重かもしれないし上げる時は慎重にやろう。

 レベルがニになって何が変わったかは分からないが、実戦の中で確認してみる事にする。

 というのも範囲探索エリアサーチに赤い反応があったのだ。

 なぜすぐに反応できたのかと言えば、この範囲探索エリアサーチ表示非表示はもちろん自由であり、その表示サイズも任意で決めれるようで、その事に気がついてからは画面の右端に常時表示させている。


 さて、赤い点の数が一、ニ、⋯七だと⁉︎


「おいおい流石に多くないか?」


 どうする。どうするよ俺。逃げるか⋯。いや、ここで逃げてたらこの先いろんな局面に陥った時にきっと対応出来ないだろう。それに、こっそりと物陰から伺うくらいならば大丈夫だろう、うん。

 そう思い、ゆっくりと指し示す赤い点の方へと歩み寄った。魔力を帯びた石を持っておく事も忘れない。


 どうやら群れをなしているのか、七匹一緒に行動しているようだ。赤い点7つが連なって動いている。

 気のせいかこちらへ向かって来てないか?

 俺は急いで目の前の木によじ登って迎え撃つ事にした。

 どうでもいい話だが、木登りは割と得意だった。まぁ最後に登ったのは十年以上前なのだが。とはいえ割とキツイな。三メートルくらい登った所で目の前にメッセージが流れた。


 "木登りスキルを獲得しました"


 おいおい、そんなスキルまであるのかこの世界は。と心の中でツッコミを入れた。


 スキルを覚えてからはスイスイと登れるようになっていた。

 スキルぱねぇ。

 目的の枝の上まで到達した俺は、モンスターがこちらに来るのを息を殺して待っていた。


 暫くすると、モンスターの集団が視界に入ってきた。うん、角兎だ。俺の得意分野だな。

 鑑定アナライズでレベルを確認してみたが、どれも先ほど倒したのと同じでレベルは六だった。


 よし、やるか。あきらかに相手の攻撃範囲外からの攻撃だが卑怯とは言うなよ!

 こっちだって命を賭けてるんだ。


 俺は一匹ずつ確実に魔力注入済みの小石を角兎目掛けて投石していく。

 ん、さっきよりも威力も速度も上がっている気がする。

 いや、あきらかに上がっている。

 命中した角兎はというと⋯頭がない。

 どうやら威力が強すぎて小石事どこかへ飛んで行ってしまったようだ。

 レベル二ぱねぇ⋯いや、俺自身のレベルが上がった効果もあるのかもしれない。


 三十秒も掛からないうちに殲滅してしまった。


 そういえば、殲滅中に視界全体がフラッシュしていた。

 どうやらレベルが五つ上がって十になったようだ。


 木から降りて角兎をストレージに回収していく。勿論小石を補充しておく事も忘れない。


 そのまま索敵しながら投石で倒していくスタイルで樹海の中を進んでいく。

 この辺りには強いモンスターはいないようだ。どれも角兎同様レベル五程度だ。

 その中には巨大カマキリや巨大蜂のモンスターまで出現した。

 改めて恐ろしい世界だと実感する。


 こんなの一匹でも元の世界に現れたらそれこそ大騒ぎになっているだろう。

 いつのまにかレベルも十七まで上がっていた。


 道中あきらかにアイテムっぽい薬草を発見したので鑑定アナライズを使ってみると、白ハーブと表示していた。説明文を見る限り、回復ポーションの材料のようだ。使えそうなので見つけた分は全てストレージに放り込んでおく。

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