第34話 予兆
仕事が早く終わった俺はバイクで町内を駆けていた。
少し前にこの街に来たばかりだがやはりこの街はいいな。そう思えた。
「隆さん!」
俺は呼ばれた声を聞きまちがえるハズは無かった。
「風香さん」
俺が今、密かにだが誰よりも愛している女性の名であった。
俺はバイクから降りて対応する。
「仕事はもう終わったのかしら?」
「ええ・・・・まあ、はい。」
歯切れの悪い回答なってしまった。別にやましいことをしている訳ではないのに。照れくささからなのだろうか。
「なら、今からデートをしましょうよ。」
え?いきなりの事で俺は「は?」とぽかんとしてしまう。
「確かにデートしましょう。とは言ったけれど・・・・今すぐ?」
風香は笑顔で返す。
「ええ!今すぐ!です!」
笑顔の女性はやはり可愛い。
「あまりにも遅すぎるな。」
拓也はsignalの会議室で独りごちる。
淳を含む幹部数人は実を2時間ほど待っていた。今後のUBの対策の為には実がこの場にいる事は大前提であった。
「タバコ1つ買いに行くのにこんなに遅い筈がない。」
嫌な予感が頭をよぎったが頭を振り、そんな思考を振り払う。
「少し俺が探してくる。みんなは少しばかり待っていてくれ。」
拓也はその場から退席し、外へと出ていった。
「風香さんは山も好きなんですね。」
俺はバイクを運転しながら心を踊らせる。バイクを運転している隆の後ろには風香が俺に捕まっていた。
俺たちは目の前にそびえる小田原山へと向かっていた。
「ですがこの時期は葉っぱも花もそんなに無いのになんで?」
「この時期は生物が力を蓄えていると言いますか・・・・、それってミステリアスじゃないですか?」
風香の言葉に何となく納得してしまう。それだけの魅力があるということだろうか。
「そんなに花が好きなら今度僕の会社にアレジメントをやってくれませんか?少し会社は殺風景でしてね。」
俺は山につくまでどうにかして間を繋ごうと必死だった。俺は花にはあまり興味は無かったが、自分の知ってる知識で繋ぐ他無かった。
「花を好きな人みんながアレジメントをやる訳ではありませんよ?」
風香の返しにえ?としか返せなかった。
「まあ私はやりますがみんながみんなやるわけではないんですよ?」
あ、そうなのか。風香の言葉にまたもや普通の返事しかできない。
「私は子供の頃からマネジメントをやってました。趣味でね。」
「趣味でも立派なもんですよ。僕は花にはさっぱりなんで気も起こりませんよ。」
「それで私がずっとしてるもんだから弟がいい加減にしてくれ!なんて怒りだして・・・・」
あと少しすれば小田原山につく。これから起こる悲劇に気づけないまま。
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