第6話 不幸と

「おい!お前ら!何やってんだよ!」



俺は飛び出して羽交い締めしてる奴らに聞く。


だが遅かった。羽交い絞めされた淳の正面にいた長身の少年の拳が淳の頬に襲いかかった。バキッ!という鈍い音が夜に響いた。



「何?ですか。これは教育ですよ?ねぇ?みんな。」



そこにいた長身の少年、部長の大原が周りにいる聞き、剣道部員みんなが頷く。俺も近づいてから大原だとわかった。



「これが教育だと!バカ言え!なんだって教育が人を殴るんだよ!その羽交い締めはなんなんだよ!」


俺は怒りをあらわにして怒号をあげる。こんなもの、教育でもなんでもない!


「だから今教育と申したでしょう?」



大原は凛と答えてみせた。だがこの回答は俺の質問に答えていない。というか会話が噛み合っていない。



「ね?淳くん?」



大原は羽交い締めされていた淳に聞く。



「こ、これは教育です。」



淳は頭を上げて答えた。頬が腫れている。何発も殴られたのだろう。



そういうことでね、と大原は切り上げる。



「みなさん、帰りましょう。本日の教育はここまでです。」



部員達は羽交い締めされていた淳を解放しみんなしてそこからそそくさとそこから離れていった。






「おい、大丈夫か?」



俺はフラフラになって地面にのめり込むように座り込む淳に寄り添い、声をかける。



「え、ええ。僕は大丈夫です。」



淳を立ち上げ、



「あれは紛れもなくいじめだ。学校の先生なりに早く伝えるんだ。」



俺は淳に言うが、



「いえ、そういう訳にもいきません。いじめなんてものを言えば部活動は活動停止にならざるをえません。」



俺はそんな淳の健気な発言に反論しようとしたが



「あの教育は部長以外はみんなやりたくてやってるんじゃないんです。」



淳は答える。それに、と淳は付け加える。



「僕には父も母もいません。そして生きがいもありません。強いていうならこの剣道がそれに近いものなんです。」



淳のそんな答えに俺にはその感情がよくわからなかった。



左肩を痛みを隠すようにしつつ、右手で抑える淳の姿を見ても答えは出なかった。ズリ足になりながらも淳は歩いていく。


「送ってくよ。」


俺は淳が見てられなかった。本当なら慰めてやりたかったが俺にはそれが出来なかった。だが俺に一つできることがあるとすればそれはただただ淳を無事にあの研究所に送り届けることだった。


俺のバイクの荷台部分に淳を乗せて出発する。


「あの森でいいか?」


「はい、お願いします。」


バイクは走り始める。


「そろそろもう一度研究所に顔を出して下さい。僕からあなたがメンバーの一人として参加するという事を伝えましたがまだ色々聞いて欲しい事があるんです。」


こんな時でもそんな事務的な事を言う淳に俺は耐えられなかった。


「わかったよ。俺だって仕事で忙しいんだ。その内行くから、命だけは保証してくれとだけ伝えてくれよ。」


俺はそんな軽口に近い返しをしてしまった。この返しが正しかったかどうかは俺にもわからない。






かなり山の方まで送っていき、そこで二人は別れた。


確かに怪我はしていたが三日もすれば治る。俺はそう思っている。


山から降りている時に俺は少しだけ後ろを向いた。


ふと振り返るとそこにはあの青い巨人がいた。


「また敵が現れたのか・・・。」


敵は巨人の背に隠れて見えない。敵と戦う巨人は何を思うのだろうか。苦しみを味わってまだ時間は経ってないのに彼は何故戦うのだろうか。そう思いながら無意識に巨人の方へ近づいていく俺がいた。

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