割れたイシ。

「占い」を嫌悪している男がいた。根拠もないデタラメなことを「統計学である」と称して金銭を得ている連中に、“反吐が出る”と常々感じていたからだ。


 そんな男が、恋をした。その相手は「占い」が好きな女性。付き合いを深めていくと共に、「占い」に対する造詣も深まり、嫌悪していたはずの「占い」に、男の行動や考え方が徐々に支配されるようになっていった。


 男には、元々ある種の才能があった。発言する言葉で人を魅了し、惹きつける力だ。その才能と「占い」との相性は良く、男はどんどんと信者を増やしていったのだ。


 名前が売れるような占い師には、いくつかの特徴がある。白を黒と言い含められるような能弁さや、何より「前世」や「生まれ変わり」などといった、何の根拠もないことを起点とした理論を形成し、なおかつ臆面もなくそれを当たり前のように発言できるような厚顔無恥で無責任な人間性だ。「占い」は人を「占い師」へと染めていく歪んだ力があり、事実、男はそうなった。


 占い師として有名になった男は、富も得た。さらに、男が歪んだ力で精神をコントロール下に置いた何人かの女性信者たちと関係を持つようにもなったのだ。男は、満足だった。


 いつものように男が、ありもしないことを信者の一人に語り、その言葉に自分自身も酔いしれている時、信者の目が見開いたのと同時に、男は頭に衝撃を受け、床に転がった。信者の女性たちと関係を持つようになったことを、付き合っていた女性が妬み、後ろから彼の頭に水晶の玉を振り落としたのだ。


 ──床に転がった男は、パックリと割れた水晶が徐々に歪んでいくのを感じるのと同時に、自分自身のことさえ占えなかった自己欺瞞に気づいたが、時はすでにもう遅く、意識は闇へと消えていった。

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