正しい独裁者。

 とある国。彼の国は民衆によって選ばれた独裁者が権力を握っていた。


 その日の独裁者は、教育における「いじめの問題」に対して、大変憂慮していた。国力を上げるためには、強い兵士が必要だからだ。


 ある日、独裁者はこう言い放った。「いじめは、いじめられる側に問題がある。いじめを受けるような弱者は、この国には要らぬ。いじめをしている、強き者は名乗り出るように」と。そのメッセージは、テレビやネットなどあらゆるメディアを使って、告知されたのだ。名乗り出たものには、多額の報奨金と、軍に入隊できる名誉が与えられることなどが、付け加えられて。


 実は革命前、彼の国では「いじめをする側を集める」という、番組が放送された。しかし、あまりにも、多くの人間が集まり過ぎ、放送ではほとんど取り上げられなかったことを、独裁者は知っていたのだ。


 実際のところ今回も、数多くの人間が集まった。独裁者は、笑みを浮かべ、彼らを迎える。


「本当に、良く来てくれた。これから、この国の礎となって欲しい」と話すが、ほとんど暴徒と化した連中は聞いてはいなかった。さらに、多額のお金が、兵士たちによって続々と運び込まれるのを見て、さらに色めき立つ。


“どうすればそのお金を手にできるのか”が、固唾を飲んで見守られる中、独裁者は腕を振り上げ、降ろす。


 同時に、兵士たちの水平射撃がはじまり、一瞬にして、連中は死を迎えた。


「これで、クズはこの世からいなくなった。この国の勇者となるのは、いじめに耐えぬいてきた、強者たちだ」


 その後、独裁者は、死ぬまでその座に座り続けた。強者たちに守り抜かれながら。

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