記憶喪失の幽霊少女
俺が半分夢に入りかけていた時、机に置いてあった目覚まし時計が落ちて誤作動を起こした。顔を伏せたまま足で止める。
「……ん、何で落ちるんだよ」
目覚まし時計が鳴った振動で落ちないように机の中央に置いていた。手の位置から考えて寝ぼけて叩き飛ばしたわけでもなさそうだ。
ならば……何故?
原因を確かめようと顔を上げると目の前に何か人型のような物が見えた。
「誰だ机の上に座っているのは……」
多少怒りを覚えながら白衣のポケットからメガネを取り出してかける。そして改めてその人型を見る。
「……何をしている」
そこにいたのは髪の長い少女。服装はよく見る普通の物だ。
声をかけたが彼女は反応しない。聞こえていないのか?
「こんな所で何をしているんだ」
「……え? 私?」
彼女は驚いたようにこちらを見た。
いやいや……
「お前しかいないだろうが」
「え? 見えてる!?」
「見えてる? わけの分からない事を」
「だって今まで誰にも気づいて貰えなくて……感激!」
何故喜んだのかは分からないが彼女は俺の手に手を伸ばした
「はあ? わけのわからな……」
俺の言葉はそこで止まった。
「あっ……」
俺も固まり彼女も固まる。二人の手は重なったままだ。
手を繋いでいる。そういう意味で使ったのでは無い。間違いなく文字通りに手が重なったのだ。
俺の手の中に彼女の手が入ったような……簡単に言ってしまえば彼女の手は俺の手に触れることなくすり抜けたのだ。
「な……なんと」
驚きのあまり言葉がおかしくなる。開いた口が塞がらないまま彼女を見る。
彼女は何処か悲しそうに、何か辛いことを思い出したように俯いている。
「……何が起きているんだ?」
俺の問いに彼女は手を引っ込めて何処か他人行儀に口を開く。
「その、私、幽霊みたいです」
「は?」
幽霊? なら彼女は……
「死んでいるのか?」
「はい……恐らく」
「恐らく?」
何故分からない、いや分からないがのが普通なのか?
「はい……私、記憶喪失みたいなんです」
「記憶喪失……」
幽霊にとって生前の記憶があるのが普通なのか、はたまた記憶喪失が普通なのかは分からない。だが彼女には記憶が無いらしいのだ。
「……いや」
違う。前提が違う。
俺は彼女を指差して言う。
「認めない」
「……え?」
彼女は驚いた顔をしているが気にせず続ける
「俺は自称発明家だ、発明家として認められ無くとも科学を中心に学ぶ者だ」
そんな俺は……否定する。
「だから俺は幽霊を信じない!」
「信じないって……じゃあ私は無視ですか?」
「いや、俺は証明する。 お前が幽霊じゃ無いことを証明してやる!」
「えー……」
こうして、この物語に私以外の主要人物が登場したのだった。
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