episode.7 ~小舅~

 私の名前は、松武こうめ。とある巨大な新興住宅地に住む、専業主婦です。


 最近、周囲で話題になっているのが『路上駐車』問題。じつは、つい先日も隣町で、路駐していた車の影から飛び出した子供が、走行して来た車と接触する事故が起きました。


 幸いスピードが出ていなかったことと、子供の身体がボンネットに乗り上げ、転がる形で衝撃が緩和されたため、奇跡的に無傷で済みましたが。


 念のため病院で検査を受けることになり、救急車は来るは、パトカーは来るは、連絡を受けて飛んで来た親はパニックになるは、事情聴取と現場検証のために道路は封鎖されるは、何事かと集まった野次馬でごった返すは、住宅地内の狭い道路は大変な状態になったそうです。


 ですが、それは決して他人事ではない、ということ。


 迷惑駐車によって、ただでさえ狭い住宅地内の道路がさらに狭くなり、対向車とすれ違うにも、どちらかが一旦停止しなければならず、私自身も、飛び出してきた子供にヒヤリとした経験が何度かありました。





 この町は、都心からやや離れた郊外型の新興住宅地のため、ほとんどのお宅がマイカーを所有しており、すべての分譲地が駐車スペースを設ける前提で区画整理・販売されています。


 その際、区画整理組合からは、ゲスト用の駐車スペースの設置を奨励されていました。


 というのも、居住地のため公共の駐車場が極端に少なく、なるべく来客の路上駐車を回避させる目的と、お子さんの成長などで、将来マイカーが増える可能性に備えてのスペース確保のためです。


 とはいえ、土地に余裕がないというお宅も多く、実際にゲスト用の駐車場まで設けている家は多くないため、来客の車が路駐している光景は、しばしば見受けられました。


 ただ、それに対していちいち目くじらを立てる人はおらず、良識の範囲で一時的に路駐する分には『お互い様』というのが、暗黙の了解になっています。





 問題は、路上に常駐している車で、公園や空き地の前など、あまり文句を言われなさそうな場所に集中していました。


 停まっているのは同じ車で、その内1台の所有者は町内の方なのですが、ご自宅には駐車場が2台分しかなく、確信犯的に3台目の車を路上に常駐しているらしいのです。


 おまけに、年に一度くらいの頻度で新しい車に乗り換えていて、購入時に絶対必要な車庫証明がどうなっているのかも謎。


 住民からは、新車を買う余裕があるなら、お庭の一部を駐車場に改築するべきでは、という意見が多数あがり、町内会から注意勧告をされたのですが、そのお宅のご主人曰く、



「そうしたいのは山々なんですがね、何しろお金がないものですから」


「でも、新しい車を買うお金はあるんじゃないですか?」


「知り合いから、中古車を安く譲って貰ってるんですよ」


「では、せめてどこかに駐車場を借りませんか?」


「探してはいるんですけど、なかなかこの近くでは見つからなくて。もしどこか良い駐車場をご存知でしたら、是非教えて下さい」



 そうのらりくらりと交わしたのだとか。


 いっそ、駐車違反で検挙されれば少しは懲りると思うのですが、よほど悪運が強いのか、一度も捕まったことがないと自慢しているそうです。


 ルールやモラルなどどこ吹く風、自分の利益を優先することしか考えない人というのは、どんなに周囲がストレスを溜めていようとお構いなし。


 他にもいろいろと摩擦を起こしていて、いつかこの一家に天罰が下ればいいと密かに願っている人は、数知れません。


 言わずもがな、私も含めて。





 さて話は変わって、ここ最近、週末になると葛岡さん宅に見知らぬ車が停まっていました。勿論、路上駐車ではなく、かつてご主人の車が停めてあったスペースに駐車されています。


 当初は気にも留めていませんでしたが、翌週も、翌々週も、毎週末土曜日の朝になると、いつの間にかその車は停まっていて、月曜日の朝にはいなくなっていました。


 たまたま車から降りて来た現場に出くわし、遠目に見えたのは、奥さんと同年代の男性。お見かけしないお顔でしたが、親しげな様子からお身内の方だろうと思っていたのです。





 ちょうどその頃からおばあちゃんの様子がおかしく、大好きな噂話もなりを潜め、特にここ最近はイライラしているのが伝わって来ました。


 一か月が過ぎても、毎週毎にやって来るその男性に、近所では『誰?』という詮索が始まっていて、何人かがおばあちゃんに尋ねたものの、頑として話そうとしないのだとか。挙句、



「詳しいことは、嫁さんに訊いて頂戴~」



 と、はぐらかされる始末。


 普段、他人のことにはあれだけ口が軽いのに、そのギャップが余計にみんなの興味を引き、いったい『週末の君』が何者なのか、正体が分からないまま、皆の知るところとなっていったのです。





 そんなある日曜日、葛岡さんの奥さんが、先週の日帰り旅行のお土産を持って来て下さいました。


 平日はお仕事をされていて、お会いする機会が少ないため、『週末の君』について尋ねるまたとないチャンス。


 どう切り出そうかと、タイミングを伺う私の様子に気づいてか、気付かずか、


 

「でね、ちょっとだけ、今いいかな?」


「うん、どうしたの?」


「多分、みんなも気になってるだろうな~と思って」



 どうやらお土産を渡すのを口実に、葛岡さんから彼とのことをカミングアウトしに来たらしく。



「びっくりしないでね。じつはね、彼とは会社関係のパーティーで知り合って、付き合うことになったのね」


「いつから!?」


「知り合ったのが半年前で、付き合い始めたのは、2か月くらい前から」



 葛岡さんによると、彼は葛岡さんが勤める会社の取り引き先の方で、名前は綾瀬さんというそうです。


 年齢は3つ上、とても穏やかな性格で、どちらかといえば寡黙なほうですが、お話し好きな葛岡さんと話しているときだけとても会話が盛り上がり、一緒にいて安らげる人だといいます。


 また、綾瀬さんは『バツイチ』で、前の奥さんとは数年前に『性格の不一致』で離婚。現在高校一年生と、中学二年生の二人の息子さんたちは前妻さんが親権を持ち、月に1度のペースで会っているとのこと。


 大学二年になった葛岡さんの長男、柊くんと、綾瀬さんの息子さんたちはすでに顔合わせ済みで、意外にもお互いの家族をすんなり受け入れてくれたようで、まずは一安心です。


 現在、綾瀬さんはマンションで独り暮らしをしており、当初はお互いの家を行ったり来たりしていましたが、マンションの周辺には駐車場がないため、葛岡さん宅で過ごすことにしているそうです。


 要するに、葛岡さんと綾瀬さんの交際は、それぞれ『未亡人』『バツイチ』というフリーの立場で、子供たちも公認しており、法律的にも倫理的にも問題はないということ。


 事情を知らない私たちは、見知らぬ男性が出入りしている様子を見て、あれこれ詮索していた次第ですが、話を聞いて納得しました。





 ですが、この交際に『待った』を掛ける存在が。


 思いもしなかった綾瀬さんの出現に、おばあちゃんが嫌悪感を露わにしていらっしゃるそうで、



「ここは息子が買った家で、私の家でもあるんだから! 勝手に家族以外の人間に出入りされるなんて、不愉快だわよ!」



 と、激高されているのだとか。


 おばあちゃんのお気持ちも分からなくはありませんが、彼女が主張する『家族』という括りでいうと、葛岡家には一つ大きな問題がありました。


 現在、おばあちゃんは葛岡さんの『扶養家族』で、同居もしていますが、葛岡さんのご主人=おばあちゃんの長男さんが亡くなっているため、本来、おばあちゃんの扶養義務は、実子である次男さんにあるのです。


 土地・建物ともにおばあちゃんには所有権はなく、頭金やローンの一部などの支払いもしておらず、生活費はすべて葛岡さんが負担していて、厳密には『居候』の状態でした。


 葛岡さんとしては、今すぐにでも出て行って欲しいのが本音ですが、次男さんは引き取りを渋っており、息子の柊くんからすれば、血の繋がった祖母であることに違いありません。


 そうした絡みもあり、無理やり追い出したりしないのは、葛岡さんなりの温情でしたが、当然の権利として居座るおばあちゃんとの意識の差には、埋めがたい溝があるのも事実。



「だからもう、機嫌が悪いの何のって、猫たちまで引いてるのよね」


「葛岡さんも大変だよね」


「まあ、ここまでも長い道のりだったし、今すぐどうこうってことでもないから、長期戦覚悟ではいるんだけど」


「将来的なことは、考えてるの?」


「一応、それも視野に入れてはいるけど、どうなるかは分からない感じかな」


「そっか。良い方向に行くと良いね」


「そういうわけだから、みんなにも伝えといてもらえる?」


「分かった」



 とはいえ、回覧板で伝言するわけにも行かず、スピーカーのおばあちゃんに話せば、あっという間に拡散するのですが、今回ばかりは機能せず。


 もっとも、『速度は早いが、精度に劣る』おばあちゃん情報、過去に何度も混乱を招いていることから、機能しないほうが平和には違いありません。


 さしあたり、共通のお友達何人かの耳に入れておいたので、後は徐々に広がって行くでしょう。





 そして、家族のことで悩み事を抱えている人が、もう一人。お隣の班の相葉さんです。


 この町の町内会では、毎年持ち回りで班長のお役目が義務付けられており、相葉さんとは同期だったことで、それ以来ずっと親しくさせていただいていました。


 また、葛岡さんの長男の柊くんと、相葉さんの長女のみことちゃんが同級生でもあり、私の説明で葛岡さんの事情を知り、溜息交じりに頷くばかり。



「そっか~。そうだよね~。ホント、難題だよね~」


「今更、おばあちゃんが考え方を変えるとも思えないし、次男さんもはっきりしないみたいだし」


「家族絡みのゴタゴタって、厄介っていうか、根が深いっていうか」


「そういえば、どうなったの、弟さんのこと?」


「それがねぇ…」



 今、相葉家が抱えている問題は、私にとっても決して他人事と達観出来るものではなく、それゆえ、彼女も私にだけ打ち明けてくれた悩みでした。



 彼女の2歳年下の弟の健一さんが、ニートであるということを。



 正確には、ニートとは15〜34歳の未婚者で、就学・就業をしておらず、職業訓練や家事・家業の手伝いもしていない人の総称とされていますが、健一さんは40代後半になった現在も無職で、衣食住すべて親に寄り掛かっている状態でした。


 彼がそうなった最大の原因は、母親でした。生まれた時から溺愛し、何をしても(しなくても)ただただ褒めて可愛がるばかり。


 大学へ進学するも、出席日数が足りず2年で中退。父親の伝手で就職したものの半月も続かずに退職。その後も定職には就かず、たまに気が向いたときにバイトしてはすぐに辞めるを繰り返していました。


 好きな時間に起床して、日がな一日ネットゲームに明け暮れる毎日で、生活全般はすべて親掛かり。お金の苦労をしていないため危機感がなく、お小遣いが足りなければ欲しいだけ母親が出してしまい、それで自分の趣味を満喫するといった生活が常態化していたのです。


 その母親も寄る年波には抗えず、持病の糖尿病から来る合併症が悪化し、入退院を繰り返すようになりました。


 それまで家事一切したことがなかった健一さんに、母親の面倒が看られるはずもなく、結婚して独立していた姉の直子さん(相葉さん)が、実家と病院を行き来する生活を続けていたのです。


 健一さんには有り余るほど時間があるのだから、母親のお世話や家事を手伝うか、せめて自分のことくらいは自分でするように、何度も忠告したのですが、呆れたことに、それを病床の母親が庇う始末。挙句、



「あの子は、一人では何も出来ないから、私にもしものことがあったら、健ちゃんのことをよろしくお願いね」



 と、自分亡き後の弟の世話まで頼むというのですから、たまりません。


 そもそも、母親の甘やかしが原因だというのに、すっかり弱りきってしまった母親に、今更文句も言えず。病状は悪化する一方で、起き上がることさえ出来ない状態になっても尚、口から出るのは息子の心配ばかり。


 結局、快復することなく、そのまま病院で息を引き取りました。


 残された父親もすでに高齢のため、今のまま暮らし続けるのは難しいということになり、ご主人と相談した結果、直子さん夫婦の家に迎え入れることになったのです。





 が、ここへ来て、早々に問題が発生。親の庇護の下、ずっとニート生活を続けていた無職の健一さんの今後をどうするか、ということでした。



「んじゃ、俺はこの家に一人で住むわ」



 実家には、彼が趣味で作ったり集めたりしたジオラマやら、関連グッズやら、書籍やらが、足の踏み場もない状態で6畳間を丸々3部屋占拠しており、本人ですら、すべてを把握し切れていないようでした。


 ただ、一人で住むと言っても、無職の健一さんが、今後どうやって生計を立てて行くのかのビジョンもなく、それとは別に、もう一つ問題がありました。


 実家の土地は『借地』で、両親は法律に疎かったため、借地権等の登記をしておらず、バブルが崩壊したときに転売されて土地所有者が変わり、その時点で立ち退きの打診をされていたのです。


 話し合いで、両親が健在の間は住み続けることが了承されたものの、死亡や転居した時点で土地は返却し、それ以降の賃貸契約は継続しない約束になっていました。


 両親としては、子供たちが独立するころには家も老朽化し、行く行くは長男の扶養で、別の場所に住む算段でいたのだと思います。


 今回、直子さん夫婦が父親を引き取った時点で、地主さんとの賃貸契約が終了するため、住み慣れた実家ごと明け渡さなければならないのです。



「え~? そんなの、困る! だったら、お父さんにここに住み続けてもらってよ!」


「そう言われても、お父さんのお世話に、頻繁に実家通いするの、正直キツイんだよね。健一がお父さんの食事や身の回りのお世話全部するっていうなら、話は別だけど?」


「んなこと、俺には無理に決まってるでしょ!」


「じゃ、お父さんはうちに引き取って、こっちで面倒看るしかないよね?」


「まあ、そういうことなら、仕方ないね」


「だから、今後自分はどうするのか、考えて決めてよね」



 すると、健一さんはちょっと考えて軽く頷くと、あっけらかんとした顔で答えたのです。



「分かった。じゃあ、俺もお父さんと一緒に、姉ちゃん家に行くわ」



 一瞬、何を言っているのか理解出来ず、数秒間固まっていた直子さんでしたが、ハッと我に返り、すぐに反論しました。



「冗談じゃないわよ! 何で、あんたまでうちに来るのよ!?」


「だってしょうがないでしょ、俺、住むとこなくなるんだからさ~。それに金だってないし」


「だからって、何でうち!?」


「姉ちゃん家に引っ越せば、住むとこ探さなくてもいいし、とりあえず家賃も食費もいらないし、全部丸く収まるじゃない」


「いやいやいや! 意味わかんないから! 何でうちがあんたの生活の面倒までみなきゃいけないのよ!? だいたい、あんたが住む部屋なんてないから、来られても困るんだけど!」


「困ってるのはこっちだよ! 住むとこなくなって路頭に迷う弟を、姉として見て見ぬふりはないでしょ? いずれ仕事を見つけたら、ちゃんと家賃も食費も払うんだし、姉弟なんだから、こういうときはお互い助け合わないと」



 自分に都合の良いことばかり並べ立てる弟に、とことん反論した直子さんでしたが、すでに姉夫婦宅に住む気満々の健一さんは、もうそれ以外の選択肢など頭にない様子。


 これまでも、何かあれば母親が擁護し、思い通りになるようゴリ押ししていたので、今回も自分の要望が受け入れられて当然といった態度には、腹が立つのを通り越し、軽い殺意さえ覚えるほどでした。





 相葉さんの出来事が他人事ではないと思うのには、私にも健一さん同様、母に溺愛されたがため、呆れるほどの依存体質に仕上がった弟妹がおりまして。


 私の母には、『年上は年下の面倒を見るのが当たり前』という独自のルールがあり、子供の頃から、弟妹がやらかしたことはすべて姉である私の責任にされ、母から理不尽に叱られることが多々ありました。


 長姉の私とは対照的に、年下という理由だけでまったく叱られないばかりか、まともに躾もされずに甘やかされてきた弟妹は、成人しても責任感や忍耐に乏しく、努力をしない残念な大人になったのです。


 なんでも他人からしてもらうことが当たり前という感覚の妹は、結婚して子供が出来てからも実家に依存し続け、子供が小さい頃は、週に4~5日は実家に入り浸りでした。


 幼稚園や小学校では、子供絡みの悩みやトラブルが絶えず、自分では上手く対処が出来ずに、『あの人がああだから!』『あの人のせいで!』と他人様に責任転嫁したり、八つ当たりしたり。


 そうしたところで問題が解決するはずもなく、挙句、妹に泣きつかれた母から、姉の私が助けてやらないでどうする、と意味不明な指令が出される始末。


 小さな子同士の喧嘩ならまだしも、とっくに成人して家庭を持ち、子供までいる妹に出来る事はアドバイスするくらいしかなく、それすらも本人が聞く耳持たないのですから、救いようがありません。


 それでも、妹はまだマシな方でした。


 さらに問題なのは、上げ膳据え膳で、甘やかされ放題に母から溺愛されてきた、長男で末っ子の弟のほうなのです。


 そんな弟が大学を卒業して就職したのは、祖父が創業し、父が経営を引き継ぎ社長をしている会社でしたから、本人は一度も就活をしておらず、最初から役員待遇での入社でした。


 私を含めた3人の姉弟の中で、最も弟が経営に不向きなのは一目瞭然でしたが、後継は私にという祖父の意向を無視し、勝手に『跡取りは長男(弟)に決定している』と周囲に豪語していた母。


 やがて祖父が他界すると邪魔者はいなくなり、母の思惑通りに先ずは妹を『役員』で、その翌年には弟を『次期社長』というポジションで入社させたのです。


 それまで、母自身も自分のお店を経営していましたが、ずっと赤字続きだったこともあり、弟妹の入社を機に閉店して、自分も父の会社の役員になり、あれこれ口を出すようになりました。





 その頃から、父の会社の経営が傾き始めるのですが、その原因の多くは、社員の人たちに対する母のパワハラにあったのだと思います。


 祖父への恩義や忠誠心から、祖父亡き後も、要所要所で会社を支えてくれていた古参のベテラン社員たちに対する母の暴挙を、止めることも咎めることもしない(出来ない)父に対する信頼が失墜するのに、時間は掛かりませんでした。


 祖父とは違い、父は人徳にも商才にも恵まれておらず、古参社員の退職をきっかけに次々と人が辞めて行き、新たに採用した新人では仕事が回らず、もともとそれをフォロー出来るような母や弟妹ではなく、文句を言うしか能のない幹部に呆れ、新人たちまで辞めてしまう悪循環。


 会社の窮地を救うために、母は私に手伝うように言ってきたのですが、私にすれば『何を今更?』としか言えません。なぜなら、私が新卒で父の会社に入ることを全力で阻止したのは、他でもない母本人だったのですから。


 当時、私は自分の仕事が忙しかったことに加え、恋人だった現在の夫の仕事を陰で手伝っていたこともあり、父の会社までフォローするのは無理な状態でした。


 私が手伝ったところで、戦力となる社員がいない状況ではどうしようもなく、会社を再建するために取締役会が開かれ、父の会社の持ち株会社であった国枝商事の傘下に吸収されることになったのです。


 即座に、多くの資金と優秀な人材が投入され、数か月もしないうちに会社の業績は回復したのですが、その代償として、父は代表取締役から顧問という立場に降格し、母と弟妹は解雇される形で会社を去りました。


 会社の窮地に手を貸さなかった私と、この人事に対し、かねてより因縁のあった国枝社長(当時)の采配に怒り心頭の母でしたが、それはまた、別のお話。





 その後、母は専業主婦になり、妹は結婚したのですが、弟は父や国枝社長の伝手で何度か就職したものの、結局は社会生活に溶け込むことが出来ず、仕事を辞めて働くこともしなくなり、親に養ってもらうままの生活を続けていました。


 何かの資格を取ると言っては、専門学校に通ったりもしていたようですが、それを生かした仕事に就くわけでもなく、自ら仕事を始めるでもなく、30代になり、40代になっても、仕事も結婚もせずに、親のお金で趣味に興じながら、相変わらず親元でぬくぬくと暮らし続けているのです。


 さすがに、この状況に母も心配になったのか、そろそろ就職や結婚について真剣に考えるよう、私から弟に進言するように言って来たのです。姉として、ちゃんとするように弟に言うのが勤めだと。


 ですが、母はそもそもの問題点が分かっておらず、弟自身が根本的に考え方を変えない限り、誰が何を言ったところで変わらないことは目に見えています。



 なぜなら、母が弟をそういうふうに育ててしまったのですから。



 幾度か弟が紹介された仕事は、一般の就活生なら、喉から手が出るほど好条件な物ばかりでしたが、『今はそういう気分じゃない』『自分の思っている仕事と違う』と上から目線で断わる態度には、開いた口が塞がらないというものです。


 そして、そんな弟を叱るわけでもなく、歪な愛で曇った母の目には、いつまで経っても小さな子供のままに映っているのでしょう。


 弟も、そんな母を上手く手玉に取って甘えているという共依存の構図があり、はっきり言って、いい歳したおっさんが高齢の母親の脛を齧っている姿など、見るに堪えません。


 母は、弟が結婚すれば気持ちも変わり、もっと前向きになるに違いないと言うのですが、身内の私ですら呆れるほどの劣悪な物件で、それを助長する姑まで付いている男と結婚して下さる奇特な女性が現れる確率など、ほぼ皆無。


 私からすれば、母も弟もどっちもどっちとしか言い様がなく、何を言っても治らないので、今は無視している状態なのです。





 さて、相葉さんの問題に戻しまして。


 『家族なんだから、困ったときは協力するのが当然』と言い、姉夫婦宅に住む気満々の弟に対し、待ったを掛けたのは、直子さんのご主人で、健一さんとは婿・小舅の関係にあたる隆弘さんでした。


 マイホームを建てる際、隆弘さんの実家から多額の援助を受けており、直子さんの実家からは援助がなく、今回直子さんの父親を引き取るのも、あくまで人道的配慮で隆弘さんが提案したことで、夫の両親も渋々納得したに過ぎず、そのうえ弟まで転がり込まれては、黙っているわけには行きません。


 本人は家賃を払うような口ぶりですが、収入もないのに毎月継続して支払えるとは思えず、それが出来るのなら、部屋を借りれば済む話です。


 『とりあえず、そっちに引っ越してから、今後のことを考える』と言いますが、一旦家に入れたが最後、居心地の良い環境を自ら手放すとは考えられず、そのまま居座り続けることは目に見えています。



 さらに、問題はそれだけに留まりません。



 やがて自分たちも歳を取り、今の父親同様、子供たちのお世話になるときがやって来ます。


 このまま健一さんが自立しなければ、高齢のニートの叔父の面倒まで、子供たちに圧し掛かることになり、何としてもそれだけは阻止しなければなりません。


 もっとも、そんな先のことよりも、そういう叔父と同居して、自堕落な生活を目の当たりにすることの子供たちへの影響の方が、より深刻な問題です。





 そこで、隆弘さん直子さん夫婦と健一さんの三人で、話し合いをすることになりました。



「先ず言っておくけど、親を看る義務は子供にあるわけだから、お義父さんを引き取ることは、当然だと思ってるよ。でも、健一くんがうちに来るのは、お門違いじゃないのかな?」


「家族なんだから、困ったときはお互いに協力するのが当たり前じゃないですか? 現に、俺は住むとこがなくなるわけだし、困ってるんですよね~」


「仮にさ、健一くんが病気や怪我で働けないとか、重い障害があるとかだったら、フォローしようと思うよ。でも、君は健康だよね?」


「そう言われればそうですけど、今は収入もないし、家賃も払えないじゃないですか。俺にどうしろって言うんですか?」


「働けばいいじゃない? 家賃と自分の食費くらいは、十分稼げるでしょ?」



 当たり前のことを言った隆弘さんに対し、小さく舌打ちをすると、急に逆ギレし、口調を荒げた健一さん。



「だから、仕事が見つかるまで、一時的に住ませてくれって頼んでんでしょ!? 家族なんだからさ、困ったときはお互い様じゃないのかよ!? それとも何、俺に路頭に迷えっていうの!? 自分たちは金持ってて、立派な家に住んでんだから、ちょっとは助けてくれたっていいじゃんか!」


「てめぇっ! さっきから聞いてりゃ、ふざけたことばっか言ってんじゃねぇぞーーっっ!!」



 そう言ってブチギレたのは、隆弘さんではなく、直子さんのほうでした。


 仕事を探すつもりなどさらさらなく、勝手なことばかり言って、まともに話し合おうともしない弟に馬乗りになり、4~5発頬を張りとばすと胸倉を掴み、これまでに溜まりに溜まった鬱憤をぶつけるように、罵倒し始めたのです。



「この際だからはっきり言っとくけど、おまえなんか家族じゃねぇからなっ!」


「ちょっ…! 姉ちゃん、落ち着い…!」


「うるっせーっ! だいたい、おまえはいつまで養ってもらえる子供のつもりだよ!? 家族なら、お互い協力するのが当たり前だ!? んじゃあ聞くけど、自分がして貰うことばかりで、今までおまえが私たちに何をしてくれた!? 子供たちにさえ、お年玉どころか、お菓子の一つ買ってくれたこともねぇだろうがっ!」


「やめ…っ! 苦し…!」


「うちは金がある!? 働いてるからだよっ! 立派な家に住んでる!? ローン組んで、毎月支払ってんだよっ! おまえには金がない? 今までどんだけ親に貢がせたのか分かってんのかっ!? おまえを溺愛して、甘やかし放題してくれたお母さんは、もうこの世にはいないんだよ!!」


「…」



 その言葉に、反論も抵抗も止め、焦点の定まらないうつろな目で虚空を見つめる弟。馬乗りで胸倉を掴んだままの姉の瞳から、涙が零れ落ちました。



「世界中がおまえを愛して、おまえのために尽くすのが当たり前だと思うな! 国民の義務も果たさないダメ男に愛情注いで、文句も言わずに養ってくれる人間なんて、産みの親以外にいると思うな! それがどんだけ有難いことだったのか、理解しろ! どんなに感謝しても、もうお母さんに親孝行出来ないことを思い知れよ…!」


「もう、それくらいでいいんじゃないかな?」



 そう声を掛けたのはご主人でした。


 妻を宥め、ショックを受けているのか、横になったまま起き上がろうとしない義弟の腕を引っ張り、座らせると、



「直子が酷いことを言って、申し訳ないと思う。本来なら、お義父さんの面倒も、姉弟で折半するべきだけど、そこは免除するから。たださ、うちは健一くんの面倒まで見る義務も余裕もないから、これを機に自立して欲しいんだ」


「…」


「とはいえ、丸裸で放り出すほど、僕たちだって鬼じゃないから。はい、これ。一応、住めそうなアパートとかピックアップしといた」



 手渡された紙を受け取り、相変わらず覇気のない顔でそれを眺める健一さん。聞いているのかいないのか、それでも隆弘さんは構わずに説明を続けました。





 隆弘さんがリストアップした賃貸物件は、どれも保証人が不要なもので、通常、借主が家賃を滞納すると保証人が補填することになりますが、一定期限を超えて支払いがない場合、強制退去になるシステムです。


 それらの部屋の近くには、レンタルトランクルームがあり、現在所持している膨大なコレクションの内、部屋に入らない分はそこへ収納するように、とのこと。


 それらを借りる費用と、当面の生活費として、100万円を手渡すことを提案しました。これは父親の僅かな貯金を『生前贈与』として、それに姉夫婦からの餞別を足したものです。



「部屋とトランクルームを契約したら、なるべく早く、仕事を見つけて働いたほうがいいよ。はっきり言って、100万なんてあっという間になくなるから」



 すると、またしても甘ったれたことを言い出した健一さん。



「けど、仕事が見つからなかったらどうすんのさ? 部屋も追い出されて、食べる物もないんじゃ、生きてけないじゃん? そうなったら、義兄さんとこに住まわしてくれるってこと?」


「おまえは、まだそんな…!!」



 そう言い掛けた直子さんを制止し、隆弘さんは淡々とした口調で続けました。



「さっきも言った通り、うちで面倒看るつもりはないよ」


「じゃあ、どうすればいいっていうのさ!?」


「どうしてもお金に困ったら、コレクションを売れば、少しは足しになるんじゃない?」


「それだけは嫌だ! 義兄さんには分かんないんだろうけどさ、一度手放したら、もう二度と手に入らない物だってあるんだからね!」


「嫌なら死に物狂いで働いて、生活をキープすることだね」


「なんか、ふたりとも冷たいんだね。どうせ俺のことなんて、どうなってもいいと思ってんだ」


「いい歳した大人なんだから、自分の生活くらい自分で何とかしないとね。みんなそうやって生きてるんだから。亡くなったお義母さんだってそうだったんじゃない?」



 再び言葉を失った健一さんに、さらに続けました。



「お義母さんは、君のために自分のことはすべて犠牲にしてきたからこそ、君は働きもせず、何不自由なく暮らすことが出来たんでしょ?」


「…」


「お義母さんと同じように、僕たち夫婦にも、守るべき大切な子供たちがいるんだよ。君の生活や、まして趣味趣向なんて、うちには関係ないよね?」


「…」


「立ち退き期限の今月末までに引っ越さないと、大切なコレクションごと解体撤去されるから、急いだほうがいいよ」


「ちょっと待って! そんなこと言われても、俺一人じゃ引っ越しなんて無理だし、だいたい何からやればいいのかだって…!」


「やるんだよ、自分で!」



 再びそう叫んだ、姉、直子さん。



「ゲームしてる暇があるなら、何をすればいいかネットで検索しろ! ああでもない、こうでもないってブチブチ言ってる間に、さっさと動け!」


「じゃあ、せめて手伝いくらいはしてよ!」


「悪いけど、自分のことは自分でやってよ。さあ、急がないと、本当に間に合わなくなるよ」



 他力本願で依存体質の健一さんのこと、大切なコレクションを失うくらいの危機感がなければ、自分から動くことはないと考えた直子さん。


 万が一そうなったとしても、それは自業自得。現実社会で生きて行くためには、他力本願がまかり通るほど、世の中は甘くないということを思い知る良い機会です。



「だって、無理だよ…! あんなたくさんの物を、一人で運ぶって!」


「引っ越し業者を利用するのも、一つの手段だよ」


「でも金が掛かるじゃん!?」


「当たり前でしょ? 間に合わせるためには、お金を払って人を使うか、寝ないで自分ひとりで動くか、それとも諦めるか、選択肢はそんなところかな?」


「そんなの酷過ぎるよ!」


「それが世の中っていうものだよ。もし、君が誰かに力を貸したことがあれば、君のピンチに駆け付けてくれるかも知れないけど」



 ずっと引き籠りだったため、力を貸してくれる友人などいるはずもなく、唯一の味方だった母親もいないという現実を突き付けられた健一さん。


 姉夫婦からも一切の協力を得られないことを理解すると、間もなく取り壊される自宅に戻り、ようやく必死で動き始めたのでした。





「ギリギリまで自力で運んだけど、結局間に合わなくて、残りを業者さんに委託したらしいの」


「無事、運べて良かったよね。それで、お仕事は見つかったの?」


「それがね、渋ってたコレクションを売ったみたい」



 母親のおかげで、金額など一切気にせずに収集していた健一さんのコレクションは、本人が豪語した通りの高値が付いたようでした。


 見ず知らずの他人に、大切な宝物を差し出すことにはかなりの屈辱感と抵抗があったものの、何度かメッセージを遣り取りする中で、コレクションに自分と同じ思いを抱く人がいることを知った健一さん。


 これをきっかけに、そうしたコミュニティーで知り合った人たちとの交流が始まり、中には、健一さんの作品に高い評価をしてくれる人もいて、最近では個別に仕事の依頼が舞い込んでいるとのこと。



「本当にそれが仕事になるのかは分からないけど、生活費の足しにはなるみたいだし、後は何とか自分でやるでしょ」


「うまく行くと良いね」


「一切援助しないって決めてるから、知らん顔続けるつもりだけど、病気とか怪我とか天災とかで援助が必要になったときは、いつでも手を貸そうって、主人も言ってくれてて」


「良いご主人じゃない」


「うん。うちの父親を引き取って、そのうえ厄介な小舅を抱えてるのに、文句も言わずにいろいろ協力してくれて、本当に感謝してるんだよね」


「そっか」


「何だかんだ言って、結局私も弟に甘い姉で、母のこと言えないかな」



 今後、健一さんがどうなって行くのかは分かりませんが、いつか健一さんにも、相葉さんご夫婦の思いが伝わる日が来ればと思います。





 翌週末、葛岡さん宅の駐車場には、いつもの綾瀬さんの車ではなく、おばあちゃんの次男さんの車が停まっていました。


 綾瀬さんのことを聞きつけ、葛岡さんの奥さんに直接物申しに来た次男夫婦、自宅へ入って来るなり、もの凄い剣幕で詰め寄るふたり。



「ちょっと、義姉さん! 恋人が出来たって、ホント!?」


「嘘よね!? お義姉さんに限って、そんなことあるわけないわよね!?」


「本当だけど、何か?」



 あっけらかんと答えた葛岡さんに、ふたりはムンクの『叫び』にも劣らない表情で衝撃を露わにすると、矢継ぎ早に質問の嵐です。



「まさか、結婚するつもりじゃないんでしょ!?」


「それはまだ分からないわ」


「相手はバツイチで、子供もいるっていうじゃないか!?」


「私だって子供いるし、何か問題ある?」


「柊は何て言ってるの!? あいつの気持ち、考えないの!?」


「そうよ! 母親に男がいるなんて、年頃の男の子には絶対堪えられないと思う!」


「いや、むしろ応援してくれてるから」


「だいたいさ、おふくろがいる家に、男を連れ込むことないだろ!?」


「そうよ! 私たちに何の相談もなく、こういうことされるのは困る!」



 勝手な言い分に呆れながらも、ちょうど良い機会だと思い、葛岡さんはふたりに言いました。



「そうよね。この際だから、ちゃんと相談するべきよね、おばあちゃんのこと」



 思わぬ方向に話題を振られ、『ヤバイ!』と言った面持ちでお互いに顔を見合わせる次男夫婦。



「まあ、その話なら、また今度、ちゃんとした機会にでも」


「そうよ、何も今話さなくっても、ねえ」



 と、何とか話題を逸らそうとしたのですが、



「前にも正志くんには伝えたけど、おばあちゃんが元気なうちに、そちらで引き取ってもらいたいのよね。もう年齢的に、いつ何があってもおかしくないでしょ?」


「ま、まあ、それは追々さ…」


「いつもそうやってはぐらかしてるけど、うちの人が亡くなって、もう15年以上経つって分かってる?」


「うん、勿論! だからこのことは…」


「正直ね、私も疲れた。旦那には死なれて、義理の親の面倒だけは看させられて、私の人生っていったい何だろうって思うのよね」



 さすがにそこまで言われては、次男夫婦には返す言葉がなく、その勢いで、葛岡さんは核心部分に踏み込んだのです。



「だから悪いけど、このままズルズルしててもキリがないから、期限を切ろうと思うの」


「ちょっと待って! そんな急に…!」


「一年。後、一年だけ猶予をあげるから、それまでにちゃんとおばあちゃんを説得して、引き取って欲しい」



 それ以上、何も聞き入れないといった葛岡さんの頑なな決意を感じ取ったのか、ふたりは肯定も否定も出来ず、無言のまま実家を後にしました。


 これまでにも散々言われていたのに、自分たちの義務を果たさず、あわよくばこれからも葛岡さんに押し付けられればと思っていた彼らの目論見も、もはやこれまでです。


 小舅の立場にあって、未亡人である兄嫁の恋愛事情に余計な口を挟まなければ、こんな事態にならなかったかも知れないのに、墓穴を掘るとはまさにこのこと。


 年貢を納めるタイムリミットが一年後になったことで、これまで放置されて来た厄介ごとが、大きく動き始めることになりました。





 さて、そんなことは露知らぬおばあちゃんはといいますと。


 綾瀬さんの出現で、ストレスマックスになっていたこともあり、当初は絶対に口を割らなかった交際の事実を周囲に話し始めた途端、もう止め処なく悪口を吹聴する事態になりまして。


 おばあちゃんをよく知る大多数の人は『ああ、またか』という反応でしたが、中には、おばあちゃんに共感する人もいました。


 その多くは、お嫁さんと上手く行っていないお姑さんの立場や、おばあちゃんからの一方的な情報しか持ち合わせない方々ですが、彼女たちから葛岡さんに対する中傷があったのも事実です。


 『ふしだら』『無責任』『鬼嫁』といった悪口は言うに及ばず、ふたりが不倫関係だという事実無根の噂まで流す始末。


 これに関して、当の葛岡さんはというと、



「まあ、誰に何言われたところで、今更どうってことないし、おばあちゃんと縁が切れるなら、私は全然OKだから」



 と、まったく動じる様子もないのは天晴です。


 逆にいえば、それほどまでにおばあちゃんとの同居は大変なものだった、ということなのでしょう。


 ご主人を亡くして一番辛かった時期にも、周囲の詮索や噂に酷く苦しめられ、何故今また、そうした謂われない中傷に晒されなければならないのか。


 私たち葛岡さんの事情を知るメンバーの耳に入れば、その都度否定、訂正、事実の伝達を徹底していましたが、噂を流布しているのが通称『ババ友軍団』、一筋縄では行きません。


 焦ったところで仕方がありませんので、私に出来ることは、とにかく地道に見つけ次第、噂を潰して行く作業を続けるのみです。





『にっこり笑って、バンパイアの胸に杭を打ち込め作戦』第七弾。ババ友軍団の噂を制圧し切れず、今回は、私たちの判定負け。ということで、ガッツポーズはありません。


 自分たちの鬱憤晴らしなのか、ありもしない噂を次々と流す彼女たちに手を焼きながら、それでも冷静な判断をしてくれる大半の住民の皆さんの理性に、感謝するばかりです。





 さて、おばあちゃんとの同居解消が、いよいよ一年後と決まった葛岡家。


 ババ友軍団と結託して抵抗するおばあちゃんに、またまた周囲は振り回されるのですが、それはまた、別のお話。


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