第98話 船舶料理士

『(責任とるだけで)仕事は何も(船長)。人の話を(機関長)』


 お約束の船長、機関長ギャグです。


 ※エンジンルームに長時間いる方は騒音のため、耳が悪くなる方が多い。機関士には騒音性難聴の方が多いと思います。主人も少し耳が悪い。


 船の部署をあげますと。


 甲板部……船長、航海士(一等、二等、三等)

 ※キャプテン、チーフオフィサー(チョッサー)、セカンドオフィサー……などといいますね。


 機関部……機関長、機関士(一等、二等、三等)

 ※チーフエンジニア、ファーストエンジャ―、セカンドエンジャ―……などといいます。


 上の二つが主ですね。


 今は少ないですが、無線部(通信長、通信士)があるところもあります。(今は練習船とか外航船とかそれぐらいじゃないかなあ)


 そしてあとはこれに。


 事務部……事務長、客室乗務員(船員)

      司厨長、司厨員


 が加わります。(その船によってちがいますけどね)


 上記の甲板部と機関部ですが。なぜか、仲があまりよろしくないことが多い。まあよくあることですよね。(船やメンバーによってそりゃ違いますけれども。陸上でもよくあることだと思います)


 そして、今回はですね。事務部の中の最後に記載した、縁の下の力持ち的な方を紹介しようと思います。

 それは。


 司厨員(船舶料理士)※ワンピースの『サンジ』のポジション


 乗組員の食事を作る方です。

 フェリーなどでは、レストランの調理員がレストランの仕事とこの仕事を並行してする船もありますし、レストランに携わる調理員と乗組員の食事を作る調理員を全く別に分けている船もあります。

 フェリーなど乗組員が多い場合は司厨員が二人置かれることがありますが。

 貨物船といえば、司厨員は一人です。


 大変な仕事なんですよ、これ。

 献立考えるのも、食材を発注するのも、作るのも、後片付けも全部一人で。

 陸上のように毎日スーパーでお買い物なんてできませんから、次の入港のタイミングを考えて食材を大量購入するのです。天候により、航路、入港予定が狂うことはザラなのでもちろんそのことも考えて常に余分に購入するのですが、食材の保管場所、調理場は信じられないほど狭いことが多い。(特に潜水艦なんて、はあ?! というスペースだと聞いたことがあります。自分一人が身動きできるのがやっとのスペースとかね)そういうのも考慮した上で購入、消費するのですよ。


 えーそしてですね。肝心のメニューについてですが。

 乗組員の方は、家庭料理・給食以上のレベルをもちろん求めてくるわけです。

 ここが難しいです。

 レストランならね、豪華で美味しければいいんですよ。

 でもね、司厨員は乗組員の健康を考えた献立をつくらねばならない。

『おかあさん』の役割も果たさなければならない。

『おかあさん』と『シェフ』の中間を目指さなければならないのです!


 司厨員の方もピンからキリまでおられますがね。でも大体は家庭料理の域を超えたメニューを乗組員の方にお出ししている場合が多いと思います。

 レベルが高い方は本当に高い。同じ予算内なのに、どうしてこの方が司厨員のときはここまでボリュームのある料亭のようなメニューが毎日出てくるのだろう、なんて不思議で仕方がないときもあります。(肉や魚は塊で買い、すごく工夫してやりくりしていらっしゃるのだろうと思います)

 中でも外航船(海外に行く船)経験があった司厨員の方というのはハイレベルです。ヒエラルキーのトップ。(今は外航船は東南アジアの方を雇うことがほとんどなので、経験者は年配の方だけだと思いますが)

 よくテレビで、昔の海軍とかビーフシチュー食べてるシーンがあったりしますでしょう? 傍には給仕の人もいて。あの世界の経験者さんですから。

 外航は何日間も港につくことがないのです。

 ですから、パンも麺も全部、粉からイチから作るのですよ! なんでもできるのが外航船の司厨員さん。

(手作りのパンが食べられる生活というのもウラヤマシイですよね)


 娯楽がない船内生活では日々の食事というのは本当に唯一の楽しみなんですよね。

 乗船中の私の主人も、その時の司厨員の方のレベルで電話で話しているときの声のテンションにはっきり差がでます。

 レベルの高い方が担当のときは「今日の美味かったなあ」と感動してメニューの詳細を語ってくれたりも。(私にそのレベルを求めないでね)


 やはり司厨員の方々それぞれの得意分野というのもあるそうで。洋食、和食、中華、イタリアン……ロシア料理! なんて場合もあったと主人から聞いたこともあります。(そういうのを期待するのも楽しいですね)


 こんなに大変なお仕事を担当する司厨員の方。

 調理だけに携わっていりゃいいんだろ、というわけではもちろんありません。

 会社によりますが、入港出航の手伝いを求められる時もあります。(とほほ、本当に大変)


 自分の力量が試される、すごくやりがいのある仕事だと思いますね。

 多大な感謝をされる仕事であることは間違いありません。


 将来、調理に携わる職業を考えていらっしゃる若者の皆さん。どうですか?

 レストランや料亭に就職する以外にも視野をちょっと広げていただければこういう職業もありますよ、というご紹介でした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る