第30話 気になるラーメン屋さん

 横浜に住んでいたとき、近所にとても気になるラーメン屋さんがありました。


 見かけは、倉庫です。

 看板もなく、一見ラーメン屋さんだとは思えない。

 たまに外にラーメン丼が置いてあるので、それで初めて、ああ、と気付きました。

 お客さんも、入ってるようです。


 美味しいのかな、どうなのかな……。

 いつも、息子をバギーに乗せて前を通り過ぎるたびに思っておりました。


 更に、気になる理由というのが。


 このお店の中に、メニューとは別にA4用紙が何枚か貼られているのが見えるのですが。

 その用紙に書かれている言葉がすごく気になるのです。度々、言葉は変わります。


 記憶にある例をあげます。




「親を見りゃ、オレの将来しれたもの」


「弾いて初めて、ピアノです。殺って、初めてヤ○ザです」


「三十歳以上、セーラー服、無料」




 ……気になるでしょう?


 というか、このセンスの持ち主のマスターがどんな人なのか気になりますよね。

 一度お店に入ってみたいな、と思っていた私ですが勇気がありませんでした。

 とりあえず、前回のテーマでお話した床屋さんのマスターに聞いてみました。


 ーーああ、確か資産家の人なんですよ。


 なんと。それなのに、あんな構えのラーメン屋さん……あ、いえいえ。


 ーー最近、テレビに出ましたよ。とんねる○の番組で。きた○いけど、美味いみたいな感じで。


 へえ。美味しいんですか?


 ーーいえ、僕も食べたことありませんが。お客さんは、よく入ってますよね。



 更に更に、気になってしまいました。

 主人に話しましたら、主人も興味を持ったようです。

 下船したら、一緒に行こうと約束しました。


 ところが、下船中、主人が一人で先にそのお店にお昼を食べに行ってしまいました。


 ーーどうやった?


 私はその日の夜に聞きました。


 ーー意外だった。


 と、主人。


 ーー美味しかったん?


 ーーまあ、それなりに。……マスターが、すごい腰が低くて意外だった。


 腰が低い?

 あんなに攻めた内容のチラシを貼っているのに?


 ギャップが、更に気になりますね。

 後日、私はそのお店に一人で行ってみました。(我ながら勇気ある!その時はまだ20代だったので、セーラー服は着ませんでした)


 お水はセルフサービス。

 コップも器も、まあ綺麗ではありませんでした。

 とんね○ずの来た証拠の品が置いてありました。

 お客さんも二人いました。

 マスターは……。

 好々爺、という言葉がぴったりの小柄な方。

 ニコニコ、注文を受ける姿勢も本当に腰が低い!

 あんな言葉を書くような人物には思えません。


 ところで、私の頼んだ品ですが。

 これが失敗しました。

 主人が頼んだのと同じ、普通のラーメンにすれば良かったのですが。

 特製チャーシューメンなんてのを頼んでしまいまして。

 大失敗!


 スープ、麺はそれなりに美味しかったんです。問題が、その特製チャーシュー。

 ション○ン臭いチャーシューでした。あんな、チャーシュー初めて食べました。

そのチャーシューのせいで、スープも麺も台無し!

 当然、チャーシューは残して食べ終わりました。普段から残さない私には、これは心苦しかったですが。


 帰宅して報告すると、主人にこってりと責められました。


 バカじゃないのか。なぜ、あんな店でそんなものを頼むのか。どういうものが出てくるか分からないのか。他のみんなは何を頼んでいたのか、と。


 普通のラーメン、です。


 みんな、分かってるから普通のラーメン頼んでるのに。何故、そこで冒険しようとするのか、と。


 そのとおりですね、はい。


 ……結局、味気ない体験になってしまいましたが、勉強にはなりましたかね。


 冒険するにしても、適度な警戒心を持つということ、そして周りの空気を読む、ということを学ばせていただきました。

次は気をつけようと思います。


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