第18話 ホタルのおばさん
「ホタルのおばさん」という呼び名は、日本全国共通なのでしょうか?
蛍と似た姿をしていますが、羽は黒くなく茶色(おばさんの履く厚いストッキングのような……失礼しました!私もおばさんですが、小学生だった時の私のイメージです)の羽をした虫。
初夏の日中によく見かけます。光りません。
みなさんも一度は見たことがあるのではないでしょうか。
この虫のことを、私の子供時の記憶では、大人も子供もみんな『ホタルのおばさん』と呼んでいました。
この虫の正式名称を知らぬまま、成人してはや1☓年。
この間、仮面ライダーから虫に興味が移った息子とともに図鑑をみておりましたら、この虫が写真と共に載っていました。
ベニカミキリムシと、いうそうです。
はあ。
やっとこの虫の本名を知った私は感慨深くなりました。
でも、ホタルのおばさんという名称の方がこの虫にはぴったり、しっくりくるなあ。
そうですよね?
ちなみに、こういう呼び名と似たものに「サメのおばさん」があります。
「フカ」は『サメのおばさん』、という認識で私は二十歳まで生きておりました。
幼少のころに叔父に「フカ」って何? と聞いたところ、サメのおばさんや、との返事を素直に聞き入れて頭の中でそのままのこっておりました。
サメとフカは違うけれども、親類のように、まあ、サルとゴリラのような関係なのかな、と。
船に就職したのち先輩に、サメとフカが同一のものだと教えていただき、衝撃をうけました。
関西ではサメのことをフカという。ただそれだけのことだったんですね。
ホタルに話を戻しますね。
この夏、ホタルを見た息子の話をします。
私の住んでいるところはど田舎なもので、初夏になると家の前の田んぼをちらちら平家ボタルが飛んでいます。
家から徒歩五分の小川では源氏ボタルがぽわぽわと、飛んでいます。
二年前まで横浜に住んでいた息子。それまでホタルを見たことがありませんでした。
去年も今年も大はしゃぎの息子ですが、今年は疑問に思ったようです。
--なあ、なんで、ホタルってひかるん?
と。
--なんでやと思う?
と、私は聞いてみました。
息子は考えて、
--光らな、足で踏まれるからやと思う。黒いから、夜は暗くてわからへんからな。
と、答えました。
おお、そういうふうに考えるのか。
私は面白いと思いました。
何の知識もなくまっさらな子供の頭で考えると、そういう答えがでてくるのか、と。
--お母さんは、何で光るんやと思う?
息子が聞いてきました。
--せやなあ。電気もってへんから、暗くて見えへんから夜は光るんちゃう?
我ながら純真な答えをひねり出しました、私。
--ふうん。じゃあ、おばあちゃんは?
息子が私の母に聞きました。
--あれは交尾するために、オスがメスをナンパするために尻が光るんや。
ああ、ミもフタもない答えを……。
--交尾ってなに?
そう来ると思いましたぜ、はい。
--オンブバッタおるやろ。あれ。あんな感じ。オンブすること。
--ふうん。
幸い、それ以上はつっこみませんでした、息子。
ふー。
それにしても、虫は命が短いです。
特にセミとか。カゲロウとか。
限られた短い日数の中で、相手を見つけて、子孫を残して……。
大変ですよね。必死で相手をゲットしないといけませんね。
たまに、時期をはずしたコたちがいますよね。
五月ごろ、九月ごろに鳴いているセミとか。
旬をのがして八月にひとつだけ光っているホタルとか。
ああいうコたちを見ると、かわいそうで仕方ありません。
特にセミなんか、土の中で何年も準備してきたのに、花咲くことなく終わってしまうのか、と。
未経験のまま、死んでしまうのか。……悔しいでしょうね。
生まれてきたのに、仲間がおらず、自分ひとりだけの世界というのはぞっとします。
人間で良かったなあと思います。
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