第66話「頑張る気持ちが大事」
私達は食事をしつつ、話し合いを進めた。
2時間にも及ぶ話し合いの末、以下のように決まった。
私はサラ師匠と日本で修行を行う事にする。
理沙、ミカちゃん、ノノ達はこの世界を調査することに。
結局、この日本についてはわからないことだらけだ。
リュートを子供と見なす辺り、現実世界の日本ではないのは確かだが。
では、ここは一体どこなのかと聞くと誰もが口をつぐんだ。
だが、これはある意味チャンスだと言える。
日本ではナイトゼナのように争いが起きているという訳ではない。
修行をするにはもってこいの環境だと言えるだろう。
今は次に備えて修行に打ち込み、理沙たちはこの世界を調査する。
この方が効率がよいのである。
尚、リュートは私と離れたくないので一緒にいる事にした。
すぐ連絡が取れるように皆、一時的に私の家に住むことになった。
レストランを出ると夕焼けが出ており、世界が赤に染まっていく。
その赤の中に薄っすらコバルトブルーが混じり、夜へと近づいているのがわかる。
「さて、色々買い込みするッス」
近所のコンビニに入った私達。
みんなで住む以上、食料は確保した方がいいとの理沙の提案だ。
彼女は意気揚々にカゴに色々な物を突っ込んでいく。
お菓子やらカップ麺やらジュースやらポイポイ入れている。
ノノやミカちゃんも荷物持ちとしてカゴを持たされ、わーきゃー言いながら買い物をしている。こんな騒がしい集団、普通なら微妙な顔をされがちだが、妙なことに他の客は誰も関心を示さない。
違和感を感じつつも、私と師匠はちょっと休憩がてらイートインスペースで休憩中。リュートが喉が渇いたというので小さいりんごジュースを先に購入しておいた。
「ママ、これどうやってのむの?」
「ここをちゅーちゅー吸ってみて」
「うん……おいしい!!」
リュートは飲み方がわかったらしく、ストローで嬉しそうに飲んでいる。
安堵しつつ、隣をちらっと見るとサラ師匠がメモ帖に何か書いている。
相変わらず字はミミズがサンバを踊ってるような感じだが、真剣に色々書いているようだ。
「ここがコンビニって場所ね。なるほど、飲み物、食べ物が24時間販売しているのね。他にも娯楽商品、生活必需品もあるのね」
「師匠、メモつけてるんですね」
「メイ達からすればこの国の生活は常識だろうけど、私にはさっぱりだからね。メモしておけば頭に残るし、忘れてもすぐ思い出せるわ。それに知らないことを知っていくってのは楽しいからね」
と、メモを書く手も喜んでいるようだ。
なんだか楽しそうでホッとした。
キャミィさんが亡くなって落ち込んでいるかなと思ったんだけど。
……いや、落ち込んでいない訳が無い。
友達が亡くなって平気な人なんて一人もいないと思う。
想像したくもないが、もし仲間の誰かが傷ついたり、死んだりしたら。
私はきっと平静を保てないだろう。
師匠は見た限りでは以前より元気そうにも見える。
だが、それもみんなの前では素を晒したくないだけかもしれない。
師匠は大人だし、変に気を遣われるのも嫌だろう。
「どうかした、メイ?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「ママ、このりんごじゅーす、とってもおいしかった! ぜんぶのんだよ」
「ちゃんと飲めたのね、えらいえらい。じゃあ、ゴミ箱に捨てにいこっか」
「うん」
頭を撫でてあげるとリュートは嬉しそうに笑顔がこぼれた。
嬉しい気持ちを抱きながらも師匠が気がかりだ。
いずれ、改めてゆっくり話そうと思う。
一緒に住むんだし、幾らでも時間はある。
レジの前では騒がしい理沙たちがあーだこーだ言いながら会計をしていた。しかし、店員は慣れているのか、それとも関心がないだけなのか。ごく普通の対応できちんとレジをこなしていた。
大量のコンビニ袋をみんなで持ち運びながら家についた。
玄関にある時計では既に午後18時を回っていた。
空も暗く、赤い空は青い空へいつの間にか変わっている。
「ふう、疲れたわね」
「まだこれからッスよ、ミカ。どんどん分けていくッス」
「……少しぐらい休ませて欲しいんだけど」
「理沙ちゃん、私も手伝うわ」
へとへとなミカちゃんにやる気抜群なノノ。
疲れた身体を休める暇もなく、理沙を司令塔に片付けが始まる。
ミカちゃん達からすると場所がよくわからないようだが、理沙はそれも丁寧に説明し、購入した物をそれぞれの場所に保管していく。なんだか職場の上司的な感じに見える。
「理沙、私も手伝うよ」
「いや、メイはリュートを見ててあげてくださいッス。ほら、もう瞼が下がってきてるッス。眠くなってるのかも」
「あ、ほんとだ」
リュートを見ると確かにウトウトしてきている。
お腹もいっぱいだし、眠くなってきたのだろう。
よしよしと抱っこして背中を優しく撫でてあげる。
「リュートねむたい? じゃあママの部屋にいきましょ」
「うん……ママのおてて、やさしいね。あんしんしゅる」
と、一言だけ残して完全に瞼を閉じるリュート。
一見するとぬいぐるみのようだが、体重が私の腕にくる。
肌の暖かさが背中を撫でる度に伝わってくる。
この子は紛れもなく生きている。
ぬいぐるみなんかじゃない。
「この子の為にも強くならないと……」
私はそう決意を強めつつ、二階の自分の部屋に向かった。
部屋のベッドで寝かせてあげる。
リュートはすやすやと寝息を立てて眠っている。
私は部屋にあるミニ冷蔵庫からジュースを取り出しコップに入れる。
コップは先程下から取ってきていた。
「ふう……」
オレンジジュースが疲れた心と身体に染み渡る。
下はまだゴタついているようだが、落ち着いたのか静かになった。
そこへ控えめなノック音が響く。
「リュート君はもう寝ちゃったみたいね」
と、入ってきたのは師匠だ。
「あ、はい。ついさっき」
「理沙ちゃんが晩御飯できたら呼ぶからリュート君の傍にいてあげてって」
「了解です。理沙に任せきりっで悪いなぁ。後でお礼言わないと」
「メイ、明日はひとまずこの通りにトレーニングをしてみて。私はトレーニングに使える施設を調べてみるわ」
「あ、はい……!?」
渡された紙にはトレーニングする項目が書かれていたが……それは恐ろしいほどの訓練量だ。え、これマジでやるの?
「ちなみに監督役にノノちゃん付けるから。びでおかめらって奴で録画させるから後でチェックします。なので嘘や言い訳は聞きません。まあ、メイはそんな子じゃないって私は信じてるけど一応ね」
「わ、わかりました……やるしかないんですよね」
嫌な気持ちが押し寄せてくる。
こんな辛い事なんかしたくない。
紙に書かれている項目はほぼ丸一日のスケジュール。
見ただけで目を背けたくなるようなトレーニング量だ。
正直、やりたくないという気持ちが強い。
ぶっちゃけ、投げ出してしまいたくなる。
だが、傍らには優しい寝顔を浮かべる我が子がいる。
階段下には友情を誓った仲間達がいる。
みんなの信頼を裏切りたくない。
みんなの心が離れてしまうのはきっと、もっと辛いから。
そして、リュートを守れるぐらい強くなりたい。
人生、どこかで苦労しなきゃいけない場面がある。
それは今まさにここなのだろう。
ここで努力して壁を越えればきっと他にも活かせるはずだ。
私は決意を固めた。
必ず、やり遂げて強くなってやる……!
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