普通だと 思う我が家の変なトコ③


◇◇◇


 余程凝った物を作りたいのでなければ、カレーというのは割と誰でも簡単に出来る料理だ。大まかに言えば、鍋に張ったお湯の中にぶつ切りの肉と野菜とカレールーを放り込めば完成するのである。

 鍋にルーを入れたところで、とりあえずの仕事は終わった。後は時折かき混ぜながら、ご飯が炊けるのを待つだけである。その間に、悠馬はふとした疑問を口にした。


「そういや、お袋さんももういなくて親父さんも家にはあまり帰らないんだろ? お前、ガキの頃一体どうやって生活してたんだ?」


 あのセイジが毎日自分で料理を作って食べているとはとても考えられない。大体、料理のりの字さえ知らなさそうだ。

 それを聞いたセイジはジャガイモをつまみ食いしながら事も無げに答えた。


「ああ。家の事は全て使用人達に任せていたのだ」


 ――使用人。


 悠馬は着物を着たお女中がお膳を持ちながら屋敷の中をせかせかと動きまわっているのを想像する。


「さすが、銭形家だ」


 ――使用人。

 

 らん丸はメイド服を着たメイドさん達が入り口にズラッと並んで傅(かしず)いているのを想像する。


「次元が違うね」

「でもその割には全く見かけねーぞ?」

「今は昼間に掃除洗濯をしにくるだけだからな。今この屋敷にいるのは俺さま達だけだ」


 そう言ってから、セイジはポンと手を打った。


「そうか。そういえば、あいつがいたな」

「あいつ?」

「うむ。ちょっと待っていろ」


 セイジは深く一呼吸置いて精神を集中さると、突然カッ! と目を見開き勢い良く天井を振り仰いだ。


「そこだぁぁぁ!!」


 投げ放たれた包丁が鈍い音を立てて天井に突き刺る。そして……、



 ……どさっ。



 天井板と共に、何かが落ちてきた。

 は、全身黒装束を着ていた。忍び装束なのか、というと、それとも微妙に違っている気がする。違和感の正体は顔を隠す黒い布だ。忍び装束の覆面姿というのは知っているが、額から薄い布一枚首元まで垂れ下げた忍びなんて見たことがない。なんというか、目の前にいるこれは忍者というより、黒子クロコのようだった。よく人形劇とかを後ろで操っている、あれである。

 セイジはの襟元をむんずと掴みあげ、二人の目の前に突き出した。


「紹介しよう。うちの使用人だ」

「………え゙え゙え゙え゙え゙!? 使用人なの!?」

「だって使用人天井から降ってきたぞ!!」


 思わず悠馬がその黒子を指差すと、黒子は身体を丸めて手をモジモジと顔の前で動かしだす。黒子なだけに、人の視線が集まる事に慣れていないようだ。


「うむ。少々テレ屋な奴でな。しょっちゅうこうして天井裏や床下に隠れているのだ」

「それ、テレ屋の度を超えてねーか……?」


 セイジと悠馬に挟まれて、黒子は縮こまったまませわしなく首を動かし二人とセイジを見比べている。声を出さないので今ひとつよく分からないが、この状況にずいぶん焦っている様にも見える。


「使用人の中で一日中家にいるのはこいつくらいのものだな。こいつは、まあ簡単に言えば………陰でねずみを退治する仕事をしている」


 ひどくあっさりとした紹介をするセイジ。

 その言葉にらん丸が首を傾げた。この黒子が天井裏でハエタタキを持ってねずみを追い掛け回している光景を目に浮かべる。


 ――リーダぁのうちって、変な仕事があるんだなぁ。


 それなら天井裏から現れたのもなんとなく納得だ。


「こらねこ。いつまでも丸くなってないで挨拶でもしたらどうだ」


 セイジがモジモジしている黒子に呼びかける。そこで、らん丸は改めて、『ねこ』と呼ばれた黒子に笑顔を向けた。


「えっと……おれ、毛利らん丸です」

「あ、悠馬といいます。はじめまして」


 らん丸と悠馬に見つめられたねこはピクリと小さく震え、それから慌てたように両手をぱたぱたと無意味に振りたくる。テレ屋の上にどうも無口らしい彼(?) は、恥ずかしくてどこかに隠れようにもその襟元がセイジに掴まれたままのため、どうすればいいのか判らず焦っているのが傍目にもよく判った。きっと布の下にある顔はユデダコの様に真っ赤なのだろう。


 ――かわいい人だ……。


 なんだかその仕草が小動物を思わせて、思わず口元を緩ませてしまうらん丸と悠馬。相手が困っていると判っていながらもどうにも視線をはずせない。

 二人に更にじぃっと見つめられ、ねこはいよいよわたわたと慌てふためき混乱し始めたかと思うと、



 ………ぼんっっ。



 一瞬、顔の辺りから蒸気が噴き出し、ぱったりと畳に倒れ付した。


「わっ、倒れた!」

「オレ達の所為か!? まさかオレ達が見てた所為か!?」


 まさかの展開に慌てだすらん丸と悠馬に対し、イタズラっぽく笑うセイジ。どうやら、こうなる事を予想していたらしい。


「こいつはな、慣れない者に長い間見られると恥ずかしさに頭に血が昇ってのぼせてしまうのだ。面白い奴だろう」


 明らかに面白がるような次元の問題ではない。


「放っておけばまたそのうち復活する。あまり気にするな」


 至って軽い口調でそう言いきったセイジだが、すぐにそうも言っていられなくなった。



 …カコ――ン…



 夜の闇に紛れて、澄んだ、竹を打つ音が聞こえてきたのだ。その音はその後も一定の間隔で鳴り続ける。


「何だ今の音?」


 悠馬がいぶかしそうに聞く。先程まではそんな音はしていなかったし、以前泊まりに来た時も同様だった。


「ししおどし……」


 セイジの表情が、きりりと引き締まった。


「どうやら、銭形家にねずみが忍び込んだようだ。全く、こいつが動けない時に現れるとは、間の悪い奴等だ」


 くるりときびすを返して廊下へと歩き出す。


「リーダぁ、どこ行くの?」


 その言葉にセイジは一度歩みを止め、ニィッと不敵に笑った。


「ねずみ退治だ。ついてこい」



◇◇◇


 日が沈み辺りが完全な闇に包まれた時、奴等が動き出した。


「この塀を登るんですか? アッキージョ様」

「そうだよ。この先が中庭に繋がってる事はもう調べがついてるんだ」

「調べといってもシャレコウベエ様からの情報でんねん?」

「は~シャレコウベエ様ってばたまに間違った情報教えますからねぇぇ。それでわたし達が失敗するとお仕置きするんだからも~」

「サッサー、つべこべ言うんじゃないよ。これも全てドクロリング…………じゃない、銭形数斗を倒す為だよ」


 押し殺した声で囁きあう三人。


「ほら早く、気付かれる前に何とかして登るんだよ!」

『あらほらさっさ~』


 二人で答えると、大男のアラホラがサッサーを肩に背負う。


「どうでんねん、登れそうでんねん?」

「ちょっと待ってよねこれ、意外と難しいのよね~。掴まる所がないもんで……」


 アラホラの上で悪戦苦闘するサッサー。そのせいでアラホラの足元もよろよろとおぼつかない。


「早くするでんねん」

「気をつけるんだよサッサー、アラホラ」


 アッキージョが言ったそばから体勢を崩して二人一緒に地面にひっくり返る。


「いたた、たたたた……」

「……痛いでんねん……」

「あ~もう、何をやってるんだよお前達!」

「そうは言いますけどねアッキージョ様。この塀高くって登れませんよ」

「だったら何か他にやりようがあるだろ?そうだ。この竹を使って塀を飛び越えるんだよ」

「いい考えでんねん」

「そ~しましょそ~しましょ」


 早速サッサーが足元に手近な縄を見つける。


「見てくださいよアッキージョ様。これなんかちょうど使えそうじゃないですか」


 なぜかぴんと張り詰めて先がどこかしらに繋がっていたようだが、サッサーが引っ張るとそれは意外にあっさりと外れる。サッサーはその縄を持ってするすると竹を登り、先にくくりつけた。アラホラが竹につけられた縄をたぐり寄せ手頃な場所に結ぶ。


「良いかいお前達、しっかりと掴まってるんだよ。一、二の、三で縄を切るんだ。行くよ、いち、にぃの、さぁん!!」


 掛け声と共に、三人の体が空中に放り出された。折り重なるようにおんなじ位置に落下したのはお約束だ。

 多少よろけつつも、アッキージョは不敵な笑みを保ちつつ立ち上がった。


「な、なんとか侵入成功だね」


 その下でサッサーもアッキージョの足にしがみつきながら立ち上がる。


「や……やりましたねアッキージョ様」

「どこ触ってるんだいこのスカポンタ~ン!」


 アッキージョのゲンコツがサッサーに振り下ろされた。


「屋敷はあっちでんねん」

「ああ。行くよ、お前達」

『あらほらさっさ~』


 そうして三人、抜き足差し足忍び足で庭を横切っていく。その時、どこからか澄んだししおどしの音が響いてきた。


「いい音でんねん」

「ううん。風流だねぇ」

「はぁ~、いいですねぇ金持ちのお屋敷は」


 そんな事を言い合いながらなおも歩き続ける。

 実は、サッサーが紐を引っ張った拍子に繋がれていた栓が引っこ抜かれ、岩の裂け目から水が溢れ出してししおどしを鳴らしていたのだという事実など、誰も知る由はないのだった。

 庭からこっそりと渡り廊下に入り込んだ所で、三人は目の前の扉から出てきた人物とばったり鉢合わせした。相手はあんまり驚いたのか、目を見開いたままアッキージョ達に呆然と視線を送っている。


「あっ、こいつのエプロン、『数斗』って書いてあるでんねん!」

「落ち着くんだよアラホラ。こいつはどう見たって銭形数斗じゃないだろう?あんた、銭形数斗の息子かい?」


 アッキージョが睨みつけると、相手はやはり呆然としたままふるふると首を振る。


「いや……違います……・・」

「じゃあ残りのどっちが数斗の息子なんだい?」

「……一番髪が短くて、一番気の短そうな方……」

「聞いたかい、お前達。そいつが銭形数斗の息子だよ」

『あらほらさっさ~』


 そんな会話をしてから、三人組はまた抜き足差し足で廊下の向こうに消えていった。



◇◇◇



「リーダぁぁ!! 今なんか変な、変な三人組がいたぁ~~~~!!」


 先程トイレに出て行ったらん丸がそんな事を叫びながら猛ダッシュで駆け戻って来た。セイジと悠馬のいる部屋の前で急ブレーキをかけると早口にまくし立てる。


「なんかいかにも怪しげな、っていうかいっつも三人乗り自転車に乗ってそうなどこか懐かしい感じのタイムボカンな奴等が、トイレの前曲がってったぁぁぁぁ!!」

「何言ってんだ? らん。も~ちょっと判りやすく言えよ」


 混乱しまくっているらん丸に悠馬が呆れて声をかける。


「とにかくこれでもかって程に怪しい人達がいたんだよ!」

「ほう。それほどまでに怪しい連中、どんな奴等か見に行ってみるか」


 セイジがいそいそと立ち上がった。


「やめといた方がいいよ! あの人達、リーダぁの事探してるみたいだったよ!?」


 そんならん丸の言葉には全く耳を貸さないセイジ。更に悠馬までその後ろをついていく。


「オレもそいつらの事、ちょっと見てみたいな」

「あ、待ってよ!」


 仕方なくらん丸も二人の後に続く。


「悠馬~、やめときなよ」

「だいじょぶだいじょぶ」

「そのカッコで出てったら絶対笑われるよ?」

「……っ!」


 一瞬、悠馬の歩みが止まった。咳払いをしながらさりげなくフリルエプロンをはずす。今まで着ていた事をすっかり忘れていたのだから、慣れとは恐ろしい。


「どちらにしろ、今回は自分でどうにかしなければいけないのだ。本来ならこれはねこの仕事だが、今回ばかりはからかって自爆させた責任があるからな」


 前を歩いていきながらセイジが言った。


「そういえば……ほんと~にほっといて大丈夫だったのか? あれ」

「なに、心配せずともそのうち気が付いて、俺さま達が戻るまでにはいつの間にかどこかに消えているだろう。なんせテレ屋だからな、あいつは。なるべく人と顔を合わせたがらないのだ」

「…………あくまでテレ屋で通すわけね。そこは」


 悠馬が諦め混じりにそんなセリフを呟いたその頃、ねこは――まだ床に倒れ伏しているのだった。



◇◇◇



 真っ黒なマントに、腕も足も剥き出しの真っ黒な衣装、更に両端の尖った黒いヘルメットで顔の上半分を隠した女が、同じくヘルメットを被った全身緑と全身青の男達を引き連れて忍び足でこそこそと歩いている。

 これが外で見た光景ならばまず関わり合いになるのを避けて通るところだが、自分の家の中で見かけた日には、どうにもこうにも声を掛けるしかない。


「待て、おぬしら」


 アッキージョ達がその声に振り返ると、そこには目当てにしていた少年達が立っていた。

 声を掛けてきたのはその中でも一番短髪で短気そうな少年だ。『誠司』と書かれたエプロンを身に着けている。

 アッキージョがすかさず忍び足の体制からすっくと姿勢を直す。過剰露出な服装とも相まって、抜群のプロポーションが一際目を引いた。


「あんたが銭形数斗の息子かい?」

「まあな」


 セイジはこうして近くで見てみると、変身前の銭形数斗にとてもよく似ていた。


「なかなか威勢の良さそうな坊やだね。痛い目にあいたくなかったら、大人しくアタシ達について来てもらうよ」


 ややどすを利かせた声でセイジを睨みつけるアッキージョ。その声はどこか艶っぽい独特のものだ。

 しかしセイジはアッキージョの脅しに怖がるでもなく、不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「そういうおぬしらは、一体何者だ?」

「聞いて驚くんじゃないよ。アタシらはシャレコウベエ様の配下、世界にその名を轟かす『アキンスー』一味さ!」

「……ねぇねぇ悠馬、この人達って有名なの?」


 セイジの後ろでらん丸がこそこそと尋ねた。声が小さいのはもちろん彼等に遠慮してのことである。


「さあ? オレも聞いた事ないけど」


 対して悠馬は意図的と思える程普通に答える。


「あんれまあアッキージョ様。あのガキ共ワタシ達のこと知らないらしいですよ? これじゃ脅しになりませんねぇ」

「おだまり! いいかいサッサー。ようは当人さえビビれば問題ないんだよ」


 諭すように言ってアッキージョは再びセイジを睨み付け、


「アタシらの恐ろしさは、あんたも父親から聞いて知っているだろう?」

「……フン。『アキンスー』か……」


 セイジはゆっくりとした動作で、はるか昔の記憶を呼び起こすかのようにどこか遠いところに視線を送って言った。


「知らんな」

『だぁ~~っ!』


 揃ってずっこけるアキンスー一味。その全員一致の絶妙なタイミングはなんだか熟練の技を感じさせる。

 しかしそんな漫画としか思えない反応にもセイジは一切動じない。


「大体の用件はわかった。要はおぬしら、俺さまを使って親父殿をおびき出し、無抵抗のまま打ち負かすつもりなのだな?」

「……その通りだよ」

「フッ。そういうあくどい手段、嫌いではない。しかしひとつだけ賛成できない点があるな」

「あんたを人質にするって事かい?」


 アッキージョが馬鹿にしたような視線を送る。しかしセイジは、ゆっくりとかぶりを振った。


「……いいや」


 その時、なぜかジャストのタイミングで天井からセイジの横にはらりと紐が垂れ下がった。セイジはその紐に手を掛けると、にやぁりと底意地の悪い笑みをアッキージョに向ける。


「親父殿を倒すのは、俺さまだ……!!」



 がっこん。



 セイジが紐を引っ張った途端、『アキンスー』一味とセイジ達の間に巨大な鉄球が落ちてきた。

 セイジ以外の全員が驚愕に目を見張る中、その巨大な塊は『アキンスー』一味の方に転がり始める。



ごろごろごろごろごろごろっ



『にょひぃぃぃぃぃぃ!!』


 『アキンスー』一味が猛ダッシュで廊下を逃げ出した。


「な、なんだいありゃぁ!」

「聞いてな~いよ~っ!」

「押しつぶされるでんねん――!」


 徐々にスピードを上げながら侵入者達に迫っていく鉄球。


「うわ~っ、すご~い! 忍者屋敷みた~い!」


 らん丸が興奮して叫ぶ。


「いや違うだろこれ! どっちかっつーとインディジョーンズ的なもんだろ! ってかどっから降って来たこの鉄球!」

「なぁ~っはっはっは! うかうかと銭形家に入り込んだのが運のツキ! 恐怖に恐れおののきながら己の軽率さを後悔するがいい!! にゃ~っはっはっはっはぁ!」


 顔に怪しい影を作ってまんま悪の手先なセリフを吐くセイジ。これがあの数斗の息子だといっても誰も信じてはくれまい。


「でもセイジ。このままじゃ逃げ切られるんじゃないか?」

「フッ。任せておけ!」


 自信満々にセイジが答えるとなぜかまた丁度良いタイミングで紐がもう一本垂れ下がる。その紐をがっこん、と引っ張ると、『アキンスー』一味の目の前の床から分厚い壁が音を立ててせり上がってきた。


『おおっ!』


 らん丸と悠馬が驚きの声を挙げ、


『とぉ―――う!』


 アキンスー一味が間一髪でその壁を飛び越えた。

 後ろから迫ってきていた鉄球は現れた壁にはばまれ跳ね返る。


「……って、逃がしてど~すんだ!」


 そうこう言っているうちに跳ね返った鉄球は、今度はセイジ達に突撃を開始した。



 ごろごろごろごろごろごろごろっ



『だあああああああああっ!!』


 大慌てで反対方向に駆け出す三人。


「なっはっはっは……間違えた!」

「間違えたですますなぁぁ!!」

「ひぃぃぃ! リーダぁのどじ~~~っ!!」

「フッ。安心しろおぬし達!」

「この状況で何をどう安心するんだ!?」

「こんな事もあろうかと、この先の床に鉄球を落とす仕組みがある!」


 やはりピッタリのタイミングで進路上に現れた紐を、セイジが通り抜け様に引っ張った。がっこん、という音と共に床が下に開き、暗い穴を作る。


『ぎゃああああああああっ!!!』


 落下しながらセイジが引きつった笑顔で言った。


「間違えたぁぁっ!!」

「だから間違えるなぁぁぁっ!! とっとりあえず、変身だ!」

「うむ!」

「らじゃぁ~っ」


 めまぐるしく流れる視界の中、三人は細かい段取りを一切省略し叫んだ。


『変身バッジ起動!』


 頭上で開いた床が元に戻り、体が光に包まれる中、鉄球が通り過ぎる音が響く。どうやらこの上降ってきた鉄球に押し潰されるという最悪の事態は免れたようだ。

 逆さまに落ちるヤマトが、腕を組んでポツリと呟いた。


「……結果オーライだな」

『どこがぁぁぁぁぁ!!?』


 そんなヒュウガとカズサの絶叫は、ただ暗闇の中に溶けていくばかりであった。

 三人が落とし穴を自由落下しているその頃、ねこは――まだ床に倒れ伏しているのだった。




◆六番勝負 終         ~小悪党に栄光あれ~

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