第446話
だが、彼女の刀剣は衝撃と共に高く空中へと撥ね飛ばされた。
レグスの黒き剣が打ち上げたのである。
空手となった利き腕を一瞥した後カムは言う。
「誘ったのか……」
「思いのほか腕が立つようだったからな。今の俺では芸もなしに打ち合っては崩しきれないと判断した」
「そしてまんまと私はその誘いに乗せられ踊らされたわけだ。……完敗だな」
レグスの剣力を舐めていたわけではない。
壁の民随一の戦士を決闘で負かすほどの剣の使い手だ。万全の状態ならば、カムよりも一枚も二枚も上手であるのは間違いない。
それでも、傷を癒し、ようやく剣を振り始めたばかりの人間にこうも見事に負かされるとは思っていなかった。
驚きと共に自らの力量に失望の色を隠せないカム。
そんな彼女にレグスは言う。
「たった一本取っただけだ。内容的にはほぼ互角だった」
「昨日まで歩くのもやっとだった男とな」
そう答える女の顔には自嘲の笑みが浮かんでいた。
「それで、満足いくだけの動きは出来たか?」
「まだ本調子の半分といったところだ」
「あれだけ動けて半分とは……、恐ろしい男だな」
「カンを取り戻し切るには数をこなすしかない。しばらく相手を頼めるか?」
カムは仲間に実力の違いをみせられたからといって自棄を起こしたり卑屈になって協力を拒み出すような狭量な人間ではない。
剣技における己の未熟さを実感させられる敗北の直後にあっても、レグスのその頼みを彼女は快く了承する。
「ああ、いいだろう。せめて一本ぐらいは取っておきたいしな」
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