第73話
「とにかく中を調べるぞ」
「ああ、そうだな……」
レグスに促がされ、ようやく老魔術師は立ち上がるものの、その表情は暗いまま。
「大丈夫かよ爺さん」
ファバの問い掛けにも魔術師は黙って頷き返すだけ。
そんな彼を連れ、レグス達は古代人の神殿内へと歩を進める。
内部にはいくつかの石像や壁画らしきものがあるものの、大部屋が一つと、いくつか小部屋が存在するだけの、比較的簡素な構造となっていて道に迷うような恐れはなさそうであった。
長く使用されていない為か床も壁もひびわれが目立ち、崩れかかってしまっている部分も散見される。それでも、建造から数百年では済まないであろう年月を考えれば、これだけの姿を残しているだけでも奇跡的だと言える。
だが、魔術師ボルマンが望む物はなかった。
神殿内を探してもフェスタ・アウラを見つける事は出来なかったのだ。
その代わりに三人は、古代人が残した石碑と消えかかった魔法陣を発見する。
風化が進み解読が困難になった石碑を、魔術師は必死の思いで読み上げる。
かろうじて読み取れた一部分、そこに記された古代文字。
――我らの『よ』は過ぎた。古き友よ、せめて約束の日をここに。
「どういう意味だ?」
ファバがボルマンに尋ねるが彼は首を振る。
「わからん。だが、確かな事はここが、エルド・ダナテーラの神殿であり、フェスタ・アウラがもはや存在しておらぬという事……」
最後の希望が潰え、ボルマンの失望は明らかであった。
ファバもどんな言葉を老人にかけるべきか迷う。
「まぁ、元気だせよ爺さん。村が無くなるかもたって、皆死んじまうわけじゃねぇんだ。俺だってこんな面でひでぇ目にあってきたが、こうやって生きてんだ。人間なんとかなるもんだぜ、ほんと」
「……下手な慰めはよしてくれ」
気まずい空気が流れる中、レグスが口を開く。
「約束の日を、ここにか……。見ろ」
己の左手を上げるレグス。その小指であの指輪が光っていた。
ボウル村のフェスタ・アウラに反応していた時と同じように、何かに反応したのか、青白い光りを放つ指輪。
「また指輪が!!」
「お前さんの指輪が何故!?」
驚く二人にレグスは言う。
「俺の指輪がこのような反応を見せる事はそうない事だ。皆無と言ってもいいほどにな。それほどにボウル村での一件は珍しい出来事だった。……それが今、再びこの場所で起こっている。ただの偶然はありえない」
「偶然じゃないったって、どうすんだよ」
「村では指輪は明らかにフェスタ・アウラに反応していた。残されていた霊力に反応したと考えるのが自然だろう」
「でもここには、そんなもんないぜ。なのになんで指輪が」
「そこが重要な点だ。もはやこの神殿からは何の霊力も感じられない。それでも指輪が反応する理由。恐らくその石碑の一言と、この魔法陣に関係があるのだろう」
床に描かれた巨大な魔法陣。石碑同様に床の風化も進み、消えかかっているが、こんなものにレグスの指輪は本当に反応しているのだろうか。
「関係があるのだろうって、どうやって調べるつもりだよ」
「それは……」
レグスとファバの会話、その途中、遮るように彼らの頭の中で声が響く。
――サレ、ココヲ、サレ、ノゾマレヌモノタチヨ。
それはひどく不快で不気味な声。
「なんだ!?」
突然、脳内に響く声に動揺するファバ。
そして同じくその声を聞いた老魔術師ボルマンが叫ぶ。
「念話だ!!」
「念話!?」
「音ではなく、思念によって、意思疎通を可能とする方法だ」
「思念?」
ファバが質問する間にも、不快な声は脳裏で繰り返される。
「ええい、質問は後だ!! 念話を扱う者は、魔術師でもそうはおらぬ。よほど強い力を持つ者しか扱えん。人でなければ神か悪魔ぐらいであろうよ」
ボルマンの言葉にレグスは緊張感をもった笑みで返す。
「どうやら、悪魔の方みたいだな」
「えっ!?」
慌ててレグスの視線の先を見るファバ。
そこには禍々しい何かが立っていた。
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