『眠れぬ夜 眠らぬ夜』
様々な闇に包まれた街
空には怖い程の月明かりしかない
満月に顔があるとすれば 微塵も揺るがぬ微笑
乱痴気騒ぎのダンスホールを見下ろす大理石の戦女神
陳腐な妄想と 僕は非常階段のてっぺんで突っ立っている
ゆるゆると月は動いているだろうか
冷えた体と軋む鞄が邪魔だ
左右から押し寄せる雲 黄金色がもったりと染み込むさまに慄く
あいつは折角の光を遮る気だろうか
ナイト気取りもいい加減にして欲しい
ふと
輝きをたっぷり吸った雲のひと塊が
スローモーションめいて落ちてくるではないか
僕は
凍りつき灼け付く渇きを煽られて手を延べる
ああ 視界で動く両腕は凄まじく急からしい
僕は時の中で生きているのに
あいつめ時の呪縛を断ち切った
月の光に感謝しろ
差し出した僕の両掌は真っ赤に火傷して
それどころか跡形もなく蒸発して
それで僕は
両手首の先僅かな停滞もなく過ぎゆく雲塊を見送るしかない
(勿論足で蹴り散らしてやろうなんて気概はなく)
もっと落ちてきはしまいか
そうすればこの体も鞄も溶け去れるだろうに
まだ夜に慣れていない 飢えた目で見上げる空には
空には怖い程の月明かりしかなく
街は様々な闇に包まれている
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