はみ☆ミミ ~恋する猫と女子大生~

東雲飛鶴

猫  俺は、猫又になりたい。

「レオきゅん、聞いてよぉ~」

 チッ、またかよ。だからあの男は絶対やめておけと言ったんだ。

 俺はコイツの頬を伝うしずくを舌ですくい取ると、傍らに身を寄せて黙って耳を傾けた。

 目の前で愚痴をたれているコイツ、大学一年の高野唯たかのゆいは、俺がガキの頃から面倒を見てやっている、幼なじみのような奴だ。

 唯は昔っから男運が死ぬほど悪い。遊ばれては捨てられるの繰り返しで、今回で通算十五人にフラれた勘定だ。

 唯を玩具おもちゃにする奴等も腹に据えかねるが、過去の教訓から何も学ばないコイツもたいがいだ。

 そのたびに俺は、延々と愚痴を聞かされる。だが長時間拘束されるのは問題じゃぁない。自分を捨てた男のことを、未練たらたらに語られることが苦痛なんだ。

 かんべんしてくれよ、唯。そんな話を俺に聞かせるな。

 何でお前は俺の言う事を、ちっとも聞いてくれないんだ?

 何でこんなに想っているのに、お前は気づいてくれないんだ?

 ――その理由はわかってる。俺が全力で愛を叫んでも、お前にはこんな風にしか聞こえないんだろう?


『にゃぁ~~ッ!』


 幼かった唯に拾われて以来、俺達は兄妹のように育った。

 何で俺が兄なのかって? そりゃあ……なぁ。

 一人っ子で親が留守がちな唯の話し相手は、常に俺の役目だ。学校での事、友達の事、今日見たテレビの事……まぁ、とにかく色々だ。

 そんな調子だから、俺が人語を解するようになるには、さして時間はかからなかった。気をつけろよ。人に飼われた猫ってのは、案外飼い主の言っている事が分かってるもんなんだ。分からないフリをしているだけでな。

 長年唯と一緒にいた俺は、気がつくと彼女に妹以上の感情を抱いていた。でも猫の俺に出来る事といえば、唯が寂しくないように、そばに寄り添ってやる事ぐらいだった。


 そんなある日、俺は近所の猫集会で驚愕の事実を知った。「年月を経た猫は『猫又ねこまた』というものになれる」と。猫又になれば人語を話し、人間に化けることも可能だという。まるで夢のような話だ。

 俺は、猫又になりたい。そう強く願った。

 ――唯を護るために。


 祈り続けて、一年も経った頃だろうか。朝目覚めると、俺の自慢の尻尾が二本に増えていた。

 俺は一介の猫から、ついに念願の『猫又』に進化クラスチェンジしたんだ! これで、脳味噌お花畑の唯を、思いっきり説教出来る!

 俺は踊りだしたい気分だった。

 ……ここまでは良かった。

 俺は早速、大学から帰ってきた唯に『おかえり!』と声をかけた。

 ところが唯のヤツは何を血迷ったか、『レオきゅんに悪霊が取り憑いた』とか言い出し、除霊と称して俺の首を絞めやがった。

 あくる朝、目を覚ました唯は悪い夢を見たと笑っていたが、俺が猫又じゃなかったら、確実に死んでいたぞ!


 ――結局、この作戦カミングアウトが失敗した俺は、別の方法を考えるハメになった。

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