Middle Phase 5 ~羚羊鬼~
デルゲットは基本的にスカッとすることが好きだ。
酒も麻薬も暴力も破壊も暴行も殺戮も、鬱屈したままでは楽しめない。勿論、任務は複雑なものより単純明快で分かりやすい方を好んだし、インシナレイターも彼に複雑な内容の任務を与えることは稀であった。
だからこそ、今回の任務――実際は、あの
泥でぬかるむ足元も、靴が水を吸って不愉快極まりない。
「ああ……くそ寒ぃ……くそムカつくぜ……」
ガソリンスタンドの廃屋から五百メートル程度。目標の潜伏する山荘は、雨と木々に囲まれた中で、か細くはあったが暖かそうな明かりを暗闇にこぼしている。
その暖かな電球色で照らされた窓枠を眺めながら、デルゲットは暗い熱が下腹部に集まってくるのを感じていた。
廃屋でのブリーフィング。あのタブレット端末に映し出された目標は、絶世の美女という程ではなかったが、まあまあ可愛らしい方だろう。阿婆擦れた商売女を抱くのは楽でいいが、標的のような素人女を傷めつけ、悲鳴を上げさせながら犯す方がデルゲットはより興奮したし、スカッとする。出す量だって格段に違った。
「ヒヒヒ……別にいいよなぁ、ヤッちまったってよぉ……」
インシナレイターは標的がオーヴァードに覚醒した場合を危惧しているようだったが、それは考え過ぎだとデルゲットは思っていた。
たとえ、相手がオーヴァードに覚醒して歯向かってきたとしても、その時は叩きのめせばいい。自分には
「ヒヒッ……」
デルゲットは山荘の玄関前に立つと、右手を変貌させた。荒縄を巻きつけたかのように筋肉量が肥大し、皮膚は墨を流しこんだかのように黒ずむ。指先には鮫の牙めいた鋭利な爪。上腕に生えたトゲのある鱗がパーカーの袖を肩口まで突き破る。まるで子どもが遊び半分で、スケールの違う玩具の怪獣の腕を人形に接合したような、歪な造形。
カルキノスも異形化する怪人であったが、デルゲットは正に異形の怪物と形容するに相応しい変貌を遂げていた。乱杭歯を剥き出しにして、デルゲットは嗤った。
それと同時に、インカムに作戦開始を告げるインシナレイターの声が響いた。
「さあ、楽しくヤろうぜぇ……ヒヒヒ……」
右腕をドアに叩きつける。訪問を知らせるノックなどではなく、破壊と破滅の宣告だ。木製のドアは受けた衝撃を殺しきれず、
「ヒヒヒ……出てこいよぉ、仔ヤギちゃぁぁぁん! 狼さんとイイコトしようぜぇえええッ! ヒヒヒヒッ!」
潰れたドアを踏み越えて、デルゲットは山荘の中へゆっくりと前進し――
玄関裏の死角から翻った銀色の輝きが、デルゲットの喉を刺し貫いていた。
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