第8話 頼もしい仲間


 ゆっくりと鍵と鏡に近づく。

「なぁ、爺さんや。人を勝手に巻き込んどいてそれはないんじゃないか?」

「仕方あるまいて。わしが言いたいのは今のところ(、、、、、)三つというだけだ。そのあと必要になればおぬしが好きに使うがよい。それくらいはさせろ」

「で、その魔石ってのは何個あるんだ?」

「忘れたわい。五個はあったと思っておるが」

「……そうかい。分かった。あと、あんたといつでも通信できるように、この鏡は俺が受け取る」

「えぇぇぇ!?」

 鍵が不服そうに声をあげたが、ワーウルフは楽しそうに笑っていた。

「よかろう。この鏡おぬしが持つがよい。その力にのまれぬようにな」


 この言葉を受け、鏡と魔石の管理は憲治たちがすることになった。



「第一回、不思議の国会議ーー」

 声を張り上げたのは、鍵。誰一人その言葉に拍手しなければ、同意すらしない。

「酷くない!?」

「酷くはないわね。ねぇ、憲治。魔石を使って作る道具は掃除関係がいいと思うの」

 そう言ったのはピンクッションである。

「飯作ってくれるのも必要だろぉ?」

 これは鋏。

「あら、このあばら家を直す必要もあるわよ」

 この言い分はメジャーである。

「お前ら……俺を無視すんなーー!!」

 鍵が叫んだ瞬間、憲治は鍵を掴んだ。

「こここ殺されるーー!!」

 それを聞いた三人(?)が一斉に鍵に対して攻撃を仕掛けた。

 ピンクッションはまた針を飛ばし、鋏は刃先を鍵につき立て、やっと起き上がってきたところでメジャーがぐるぐる巻きにしていた。

「……自分を大事にな」

「はーーい」

 憲治の忠告に三人がすぐさま返事をしたが、憲治が言いたかったのは鍵に対してである。


 己の顔が悪人面なのは憲治とて重々承知している。だからこそ、多少の言われようは納得しているつもりである。

 ……たとえ心が痛もうとも。

 チキンな性格ゆえ「傷ついてます」という自己申告が出来ず、むすっとしていると尚更怖がられるという悪循環。

 泣きじゃくっている子供をあやそうとして、尚更ぎゃん泣きされたくらいならまだまし。そのまま誘拐犯か人身売買犯に間違われた過去もある。


 それはともかく。この状況でどうするかというのを考えなくてはいけない。

 憲治とて、自分の手作り料理など食いたくもない。


「……とりあえず、掃除洗濯料理の出来る人と畑いじりのできる庭師、それから飲める井戸が掘れて色んなものが作れる建築士が欲しい」

 三人の要望をまとめればこうなるのだ。


 その瞬間、三つの魔石が光った。


 そしてその光から現れたのは。


 箒とスコップ、そして金槌だった。



「何がどうしてこうなった」

 結果を見た憲治は思わず呟く。

 勿論、箒たちにも手足がある。それが尚更シュールである。


 呟くことから遡ること少し。

「というわけで、私たちの自己紹介からーー。私は箒でっす。主が健康的に過ごせるように掃除洗濯料理頑張りまーす」

 箒が我先にと挨拶を始めた。

「僕はスコップです。畑と庭を世話します」

「おいどんは金槌。建物とかのことなら任せろ!」

「……オネガイシマス」

 憲治の言葉を聞くなり箒たちはすぐさま持ち場に行った。

「憲治、どうするの?」

 ピンクッションが不安そうに訊ねた。

「どうするもこうするも、お願いするしかないと思ってるよ。俺らが出来ることは……」

「憲治が出来ることはないから! 少し大人しくしてて!!」

 三人がすぐさま憲治を止め、鋏とメジャーが手伝いに向かった。

「メジャー、地面這ったら汚れる……」

「しゃぁねぇな。おい、メジャー。おれっちが連れてってやる」

「仕方ないわね。憲治の頼みだもの」

 宙に浮く鋏に持ち運ばれる形でメジャーは小屋の中へ向かった。


 少しばかり疎外感があるが、仕方ないだろう。


「じゃあ、俺らは食べ物でも探して……」

「憲治、それは止めましょう? こちらの食糧事情は分からないんだから。スコップに任せましょう? それよりも布と糸を探しにいきましょう!」

 ピンクッションの言うことももっともだと思い、憲治は鍵に予定として伝える。

「俺が案内する!」

 そんなわけで鍵の案内のもと、町を出て周囲を見て回ることになった。

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