#08:狐族のリーエ
クストスの
そんな彼女の唯一の安らぎは、クロンやユーナン達、同世代の子供達と共にいる時間だった。つい先日までは、みんなで吊り橋に寄り掛かって夢について語り合ったり、他愛のない会話で盛り上がっていた。
……だというのに、ユーナンが死に、状況は一変した。
これまで
しかし、ユーナンの死がその考えを改めさせた。自分の間近にいる人が殺されるという可能性はゼロではなかった、ということだ。
だから、出かけるクロンを見て不安になってしまった。これが最後かもしれない、等と余計で物騒な考えばかりがついて回る。今生の別れみたいで、見送りなんてしたくない、と思うようになった。
実際、クロンは獣に襲われた。本人の口からそのような話を聞いた時、危うく失神しかけたぐらいだ。それでも、生きている事に喜びを感じ、いるかも分からない神に向かって感謝の意を唱えた。
……そのクロンが――あれだけ都行きに否定的だったクロンが、とうとう都へ行くという決断をした。このままだと、最後の幼なじみに置いて行かれる事になる。
この十年間、親切にしてくれたシラや長老を置いて出て行くというのは簡単なことではない。それにリーエ自身、やはりルニの都には両親を失ったというトラウマが亡霊のように付きまとっている。気軽に行くという決断は出来ない。
クロンは恐らく、九割がた都へ行くことを選ぶだろう。何せ、特効薬が付いて来るのだから。
だったら、クロンの代役を自分が引き受けよう。恐らくそれは、きっと耐えがたい孤独と戦う羽目になるだろうが、都に頼れる人がいないクロンとて同じはずだ。少しでもあの子の負担を軽くするのが幼なじみの役目じゃないか。
それとも、シラの面倒は長老に診て貰うとして、自分は一人っきりのクロンに付いて行った方がいいだろうか。一人じゃ無理だけど、二人ならきっとやっていけるに違いない。あいつだって、自分と戦っているのだから。
……やっぱり直接、クロンに気持ちを聞いてみよう。二人でどうしたらいいか、決めるのだ。
――そんな事を考えながら家を訪ねたのに、運悪くあんな場面を見てしまった。
何よりも、クロンとシラが別れを惜しんで抱き合い、泣いているのが、見ていて辛かった。十年前に永遠に別れた両親の事を思い出してしまう。
「リーエ」
吊り橋に寄り掛かって今にも泣きそうだったリーエは、名を呼ばれてはっと我に返り、直ぐに振り返った。
そこには、ちょっぴり目を赤く腫れ上がらせた、情けない顔のクロンが突っ立っている。
「その……母さんが、キミに話があるってさ」
「え? ……あ、うん。行く、ね」
先程、目線が合ってそのまま逃げ出したからだろう。事情を問うに違いない。
(参ったな。クロンに相談するはずが、おばさまが先だなんて)
クロンはどうやら、リーエの考えていることに気付いていないようだ。
相変わらずこういうことには鈍いんだから、と苦笑しながら、リーエはクロンの傍を通りすぎた。
シラの傍まで行くと、彼女は何も言わずにリーエを引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。
「お、おばさま!?」
リーエは思わず耳をピンと尖らせた。
「ごめんなさいね。リーエちゃんが一番寂しい想いをしていたのは良く分かってたのに。……クロンと一緒に行きたいんでしょう?」
リーエは素直に頷いた。気を抜けば、直ぐにでも泣き崩れそうだった。
「……全部、お見通しなのね」
「ええ。だって、クロンと一緒に面倒を見てきたもの。お前は私の娘も同然だよ。だから、遠慮する事はないの」
リーエはとうとう、目にいっぱい貯め込んだ涙を溢れさせた。
「……嬉しい……。その言葉だけで……わたしは、どんなに救われることか……!」
シラは全てを理解していた。彼女はここに残るべきではない。逆に、クロンの助けとなるべく一緒に付いて行って欲しい。それが、
シラはリーエの髪を手で梳かし、微笑みかけた。
「リーエちゃん、クロンのこと、お願いね」
「はい……!」
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