第42陣人を惹きつける力

「あなたの言葉は確かに正しいかもしれませんわ。しかしそれを教えたところで、何か変わるとでも?」


 ネネは俺の言葉に対してそう答えた。


「何者変わらないかもしれないな。だけど、お前もいつまでも隠す理由があるのか?」


「勿論ありますわよ」


「じゃあ何だよ、その理由って」


今日の俺はそう簡単に引こうとはしなかった。彼女にとっては鬱陶しいかもしれないが、このままって訳にもいかない。


「もしこの秘密がお姉様に知られたら、私はお姉様のお側どころか、この城にもいられなくなってしまう。それだけは嫌なの」


「だったら尚更話しておくべきじゃないのか?」


「何故?」


「いつまでも黙っている方が、逆に不信を与えて、かえって居づらくなるだろ? いられるとかいられないとかお前だけで決めないで、もっと周りを信じてみるのもいいんじゃないかと思うよ俺は」


「周りを信じる……私が……」


「話す気がないなら、俺は寝るぞ。お前もさっさと城に戻らないと、ノブナガさんにまた怒られるから、早く戻れよ」


 長く外にいた影響もあって、すっかり眠くなってしまった俺は、一旦諦めることにして部屋へと戻ろうとする。


「待ってください」


 そんな俺をネネは、何かを決意したかのように俺を呼び止めた。


「ん? どうかしたか?」


「あなたにはこの前の戦での借りもありますし、その、信じられるか試してみたいから、特別に話しますわ。ただし、お姉様達には私自身が話すという条件付きですわ」


 素直に分かったと言えないのか、色々理由をつけたものの話してくれるらしい。俺はようやくネネが、心を開いてくれたことに一安心した。


「べ、別に心を開いてなんかいませんわ!」


おっと、口に出してしまっていたようだ。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 その日彼女から語られたのは、俺の予想を越えたものだった。


「つまりお前は、ボクっ娘と同じ忍だって事か?」


「そうですわよ。それも元徳川の」


「徳川のって、何で今はここにいるんだ? まさかスパイとか?」


「違いますわよ。私は徳川から逃げ出してきた忍、先日の件は私を無理矢理連れ戻そうとしたんですわ」


 それなら確かに辻づまが合う。だが、あそこまでして彼女を連れ戻そうとした理由は、もしかしたら他にもあるのかもしれない。


「お姉様には脱走した際に、森を一人さまよっていた時に助けてもらったの。だからその辺りの事情は知らなくて」


「隠し続けていたって事か」


「そういうことですわ」


「だそうですよ、ノブナガさん、ヒデヨシ」


「え?」


 俺の言葉とともに、後ろから慌てた音が聞こえる。ノブナガさんがまだ起きているのは何となく分かっていたが、どうやらヒデヨシも起きていたらしい。


「もう、分かってて話してたんですか?」


「バレてないと思いましたか? 俺人の気配を感じ取ったりするの、得意なんですよ?」


「だから言ったじゃないですかノブナガ様。ヒッシーならすぐバレるって」


 部屋から出てくる二人。ネネはというと、驚きを隠せないでいた。


「お、お姉様と、の、ノブナガさん、もしかして今の話全部……」


「勿論聞いていました」


「もしかして二人が聞いているのを知っててあなた」


「それはあくまで偶然だよ。まあ、これで話す手間が省けたんだし、お前の口からノブナガさんにちゃんと話しなよ」


「で、でも私は……」


「もう一度話してくれませんか? ネネさん。私はあなたの口からちゃんと聞きたいです」


 優しく語りかけるノブナガさん。ヒデヨシもちゃんと聞きたいのか、先程から黙っている。

俺はネネがもう一度話をできるように、一度その場を離れた。


(これで、一件落着かな)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 十分くらい軽く散歩した後再び戻ると、もう話は終わったのか、いつもの雰囲気に戻っていた。


「あ、おかえりヒッシー」


「もうどこに行っていたんですか。明日も朝早いんですよ?」


「すいません。少しばかり散歩していました」


 色々言われながら寝室に戻る。時間も時間なので、ネネも今日は泊まっていくらしい。


(さてと、今度こそ寝るか)


 皆布団に入り、俺も静かに目を閉じる。何だかんだで色々あった一日だったけど、よく眠れそうな気がする(空腹なのは変わりないけど)。


「ねえヒッシー、起きてる?」


 いよいよ眠りにつこうとした時、ヒデヨシが小声で俺に話しかけてきた。


「もう寝るけど、どうかしたか?」


「ヒッシーはどうしてネネの話を聞こうと思ったの?」


「特に理由なんてないよ。ただ、いつまでもモヤモヤしているのは、お前だって嫌だっただろ?」


「それはそうだけど。まさか本当に聞き出せるなんて思ってなかったから私」


「俺も朝の時点ではそう思っていたよ。お前が言っていた通り、そんな簡単には話してくれるような人間だって分かってたからさ」


下手したら最後まで聞けないのではないかと思っていたくらいだった。


「でも夜に俺の元に自分から来た時に思ったんだよ。もしかしたら話してくれるんじゃないかって」


「それってもしかして、勘?」


「まあそんな所だよ」


 勘というよりは、偶然に近いかもしれない。ただ俺は、ネネの背中を押しただけに過ぎないし。


「何かヒッシーって、不思議な力を持っているよね」


「不思議な力? 魔法じゃなくて?」


「うん。何というか人を引き付ける力みたいなもの」


「人を引き付ける、ねえ」


 俺自身はそんな事思ったことないんだけどな……。


「まあいいや。明日も早いし寝るね。おやすみ」


「うん、おやすみ」


 こうして色々あった休暇初日は、幕を閉じたのであった。


ーーヒデヨシとヒスイが完全に眠った後。


「どうやらヒスイ様は、無理矢理ではなく本当に自然な形で聞こうとしていたみたいですね」


「本当変わった男ですわ」


「でもそこが彼の魅力なんですよ、きっと」


「だからお姉様は惹かれたのでしょうか」


「それは私には分かりません。恋というのは複雑なものですから」


「……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る