第17陣星空の約束

 ヒデヨシや他の皆(ノブナガさんとネネも加え)と一緒にやって来たのはこの前の戦で使用したあの山の一番上。さほど高くない山なので、十分くらいで到着し、何故か皆そこに寝そべって空を見上げていた。


「うわぁ、綺麗な星空だな」


「流星群はもう少し時間が経った頃に見れるらしいですよ」


「へえ、ノブナガさん詳しいんですね」


「書物に書いてあったんですよ。何年に一度この時期に綺麗な流星群が見れるって」


「書物に書いてあったという事は、昔から見れたって事ですか」


その歴史は今でも引き継がれているのだから、そういう所は素晴らしいと思う。


「そうみたいですよ。あ、流れ星」


 会話の途中でノブナガさんが指差してそう言った。それとほぼ同タイミングで、沢山の流れ星が夜空を駆けていく。どうやら思ったより早く流星群がやって来てくれたようだ。


「うわぁ、すごく綺麗」


 最初にヒデヨシが感想を述べる。確かに彼女の言う通り、夜空を駆ける星達はとても綺麗で、俺は一瞬でその光景に目を奪われてしまった。


「ヒスイ様、これが流星群というやつですよね」


「俺自身も一度も見たことがないですが、これが流星群ですよきっと」


「綺麗ですね」


「そうですね」


 そこからの会話はなく、皆がその光景に集中して眺めていた。こんなもの見せられたら、誰でも黙ってしまう。


(こんな綺麗な星見たの初めてかもな)


今の日本でも滅多に見れない光景だと俺は思う。


「でもそれよりもお姉さまの方がもっと綺麗です」


 折角いい雰囲気になっていたのに、ここでその空気を壊す真打ちの登場。久々に彼女の百合発言を聞いた気がするけど、よくもまあ堂々とこの場で言えるもんだ。


「い、いきなり何を言うのよネネ。き、気持ち悪いじゃない」


 そう思うならヒデヨシも反応しなきゃいいのに、どうしてこうも反応するのかな。


「だって事実じゃないですか。私にはどんな物よりもお姉様が一番綺麗なものだと思っていますから」


「わ、私はいつからあんたのものになったのよ!」


「生まれる前からお姉様は私のものです」


「本当にあんた何者なの……」


 ネネの斜め上の解答に、流石のヒデヨシも呆れてものも言えなくなっている。


(いや、呆れる気持ちは分かるけどさ)


何で今そのやり取りをこの場でするかな……。


「本当楽しそうですね二人共」


「ノブナガさんも感心していないで止めてくださいよ」


「私はヒッシー一筋なんだから、邪魔しないでよ!」


「そしてヒデヨシ、お前も変な事言い出すな。絶対に俺に飛び火する」


「なるほど。やはり私の敵はあなたで間違いなかったようですね」


「だから違うって!」


 結局このふざけたやり取りは、流星群が流れ終わるまで続き、ようやく収まった頃には既に空はいつもの夜空になってしまっていた。


(何の為に来たんだよ今日……)


もっと楽しみたかったな、星空。


■□■□■□

 しかし更なる地獄が待っていたのはその帰り道。何とヒデヨシとネネが疲れてしまったのか、その場で爆睡してしまい、俺とノブナガさんで背負って帰ることに。


「本当世話焼ける二人だな」


「賑やかでいいじゃないですか」


「うるさいだけですよ」


 まあ、その分ノブナガさんと二人きりで話ができるからちょっとラッキーな気分ではあるけど。


「ヒスイ様今日は私の手合わせに付き合ってくれてありがとうございました」


「別にお礼を言われるほどじゃないですよ。むしろデートできた俺の方が幸せだったりしますから」


「え?」


「あ。いや、そういう意味じゃないですよ。こ、コミュニケーションが取れてよかったなって思って」


「私も一緒です。ヒスイ様とああして二人きりで出かけられて幸せでした」


「思いっきり目立っていましたけどね」


 デートの経験が乏しい俺にとっては、ある意味ラッキーイベントだったと今振り返って思う。これで少しでも好感度をあげて、いつかは……。


(って、何を考えているんだ俺)


その先の事について何を考えたのかは、絶対に言葉にはできない。


「今日は沢山思い出できて私幸せです。いつかまた、こういう日があってもいいですよねきっと」


「そうですね。ただ、また手合わせから始めるのは勘弁してください」


「ふふ、それは考えておきます」


 デートの度に手合わせしていたら、こっちの体がもたない。戦場で死ぬよりも先に、肉体疲労で死んでしまいそうだ。


「あ、それで手合わせで思い出したことがあるんですけど、一ついいですか?」


「手合わせで? 俺から出せそうなまともな答えはないと思いますけど」


「ヒスイ様、最初の手合わせの時より動きが大分違ったのですが、もしかして成長しましたか?」


「いや、そんな急に成長なんかできませんよ俺は。ちょっと魔法の使い方を変えてみただけです」


「魔法の使い方を? もしかしてあの竹刀に氷みたいなものが宿っていたのも、そういう事ですか?」


「あれはこの前の戦いの時に試してみてできたので、使ったやつなんです。何かの物質に魔法を宿らせるのは結構難しいんですけど、ぶっつけ本番でやってみたら成功したんです」


「つまりヒスイ様は成長したって事ですね」


「え、いやそうじゃなくて……」


「やっぱりすごい人ですねヒスイ様は」


 満面の笑みでそういうノブナガさんに、俺は思わずドキッとしてしまう。何というかこの笑顔を見ると、言いたかったことも忘れてしまう。


「さ、二人を起こしてしまう前に城に戻りますよ。どっちらが先に到着するか競争です」


「いや、俺は別に競争するつもりは……って早!」


 人一人背負っているとは思えないほど軽々しく走り出すノブナガさん。俺も慌ててそれを追う。


「って重! 絶対甘いもの食べ過ぎただろヒデヨシ」


後で絶対に説教してやる。

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