第15陣二度目の手合わせ
翌日、今度はノブナガさんに朝から呼ばれていた。またリキュウの所にでも行くのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。
「あのノブナガさん、朝から呼び出して何をするつもりですか?」
「付いてくれば分かりますよ」
「付いてくればって、もう城下町出ますけど大丈夫なんですか?」
「心配しなくて大丈夫ですよ。そんなに遠くには行きませんから」
「いや、俺が言いたいのはですね……」
城の主であるノブナガさんが朝から黙って出かけるのは大丈夫なのかと聞いたいわけで。
「あ、ちなみに今日のことは他の方には秘密にしていてください」
「は、はい」
どうやら本当に黙って出てきたらしく、何故か俺は今からやることについて口止めされた。
一体こんな朝から何をするつもりだろうか?
「うん、ここら辺でいいですね」
城下町を抜けて少し歩いた先で、ノブナガさんは足を止める。たどり着いたのはなにもない平地。雑草がそこらに生えているだけで、本当に何もない場所だった。
「あのノブナガさん、ここ何もないんですけど大丈夫ですか?」
「むしろ何かあったら困るので、ここを選んだんです。ここなら十分に戦えると思います」
「戦える?」
その単語を聞いただけで、すごく嫌な予感がしてしまう。まさかとは思うんだけど、
「もしかしてまた手合わせとか言い出したりしませんよね?」
「その通りです。前回は敵襲で中途半端位終わってしまいましたが、今日はその問題はないですよね」
やはりそうだったか。でも手合わせをするなら、何故こんなところまできる必要があるのか分からない。別に前回と同じ場所で構わないのに、とも思ってしまうけど、それはこだわりでもあるのだろうか。
そもそも手合わせをしたくはなかったんだけど。
「何も考えずに思いっきり戦うなら、こういった広い場所が最適かと思ったんです」
「最適以前に、俺手合わせするなんて一言も言ってないんですけど。ていうか武器持ってきていませんから」
「その辺はこの前と同じ条件ということで」
そう言いながら、この前使用した物と同じものをどこからか取り出し、それを俺に渡す。ここまで用意周到だと、なんかこっちも断りにくい。
「一回だけですからね」
「それは保障できません」
「そこは保障してください」
お互いに竹刀を構える。前回の実力から考えると、普通の魔法では彼女に通用しない。この最強の武将に、どうやって勝つか考えたとき、俺は先日の今川軍との戦いを思い出した。
(そうだ、あの時と同じ感覚で……)
「では参ります!」
そんなこと考えている内に、ノブナガさんはいつの間にか手合わせを開始していて、竹刀を目にも止まらぬ速さで俺に向けて突いてきた。
「そちらが本気なら、俺だって……」
咄嗟に無詠唱で、自分の体感速度をさげる魔法を使う。これであの早い突きを見極めることができるはずだ。
(って、おわっ!)
だがそれすらも凌駕するが如く、ノブナガさんの竹刀は俺目掛けてやってくる。
(この人本当にただの戦国武将なの?)
特攻してくるノブナガさんに動揺をしながらも、それを竹刀を縦にして、何とか受け流すと彼女の背後をとる。よし、絶好のチャンスだ。
「まさか私の突きを流せる人がいるなんて驚きですが、まだ私の攻撃は終わっていませんよ」
「なっ!」
突きが流され、完全に無防備になった背後に一撃を与えようとするが、何と彼女は突きの態勢から竹刀を素早く首の後ろを回し、背後からの一撃を防いだ。
だが彼女の攻撃はそこでは終わらない俺の竹刀をその態勢から弾くと、そこから大きく竹刀を横に一回転振る。弾け飛ばされ次の態勢にうつるのに時間がかかってしまった俺は、その一撃をもろ脇腹に食らってしまい、横に飛ばされてしまう。
威力を弱めるために、先に横転しておいたのが功を奏したのか、大きなダメージとまではいかなかった。
「油断すると、すぐに負けちゃいますよ?」
今の一撃でその場に座り込んでしまった俺を追撃と言わんばかりに俺の頭上に竹刀を振りかざそうとする。
「そちらこそ、油断すると痛い目に合いますよ」
「え?」
俺はそれを避けるために相手の目くらまし用の光属性の魔法を使用。ノブナガさんの目の前にで光が弾け、咄嗟に彼女は目を瞑ってしまう。
「きゃっ!」
可愛い声とともにそこから一歩退くノブナガさん。ちょっと卑怯な手かもしれないけど、彼女が本気を出すというなら俺もそれに答えよう。
「行きますよ」
俺はこの前と同じ原理で竹刀に魔法を宿らせる。流石にこの前みたいに燃やすというわけにはいかないので、今回は氷系統の魔法。これでただの竹刀は氷のように冷たく硬い一つの刃となり、彼女に鋭い痛みを与えられる。
「氷刃・一の太刀」
ただし、今回はあくまで手合わせなので、威力は弱めで。
■□■□■□
「もう、目くらましなんてずるいですよヒスイ様」
前回とは違い、俺の勝利で幕を閉じた今回の手合わせ。その帰り道、ノブナガさんは俺にああだこうだ文句を言ってきた。
「全力でこいって言ったのはノブナガさんじゃないですか。俺だってこれくらいの事はやりますよ」
「そうは言いましたけど、あれは卑怯です」
いつの間に時間が経ってしまっていたのか、朝は静かだった城下町も戻ってくる頃には活気づいていた。時計を確認してみたところ、どうやら城をでてから二時間近く経っていたらしい。
「ヒスイ様。この後ご予定とかありますか?」
「特にはないです。ここでの生活にもう少し慣れたら、出かけたりしたいですが」
「では私とデートしましょう」
「え?」
今何て?
「ですからデートしましょう。私に手合わせに勝ったご褒美です」
「で、で、で」
デートォォォォ。
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