第15話 倉庫へ行こう
「ミリアからの呼び出しがありました、今回食糧の流通に協力してくれる商人が着いたようです」
デシアーナさんが連絡用の道具である左手首のリボンを見ながら言った。
昨日の今日で用意が早いな、普段から協力してくれている商人なのだろう。
「移動は馬車でしますから、帰りには服飾店へ寄りましょう、2~3日もすれば仕立て上がりますよ」
どうせなら商人とか抜きで、デシアーナさんと二人が良かったのに。
わがままは言ってられないけども。
「そう言えば、僕はまだ市民登録していないんですが大丈夫なんですか?」
市民登録していないとバリアっぽいもの……魔法障壁だったか、があるせいで街の中を歩くのは危ない。
外に出ることだし聞いておかないと。
「私が付いている限り大丈夫ですよ、今コンテナさんで登録すると変更できませんがいいですか? それともお名前思い出せましたか?」
「いえ、思い出せないので大丈夫だったら思い出せるまで待ちたいです」
詰所から外に出ると、左手側に二頭の馬に繋がれた木製の馬車が止まっており、脇には長身の男性が立っていた。
「私はパントセレブル商会で会長を務めておりますバイワートと申します、本日はよろしくお願いいたします」
名前が格好いい、俺の名前になりつつあるコンテナと交換してくれないかな?
バイワートさんは名前に劣らず格好良い容姿をした人で、整えられたあご髭も似合っている、年齢は30代ぐらいだろうか、この世界の人間の年齢なんて区別つかないから適当だけど。
これで商会の会長とかパーフェクト人間過ぎて負けた気分しかしない。
「コンテナです、こちらこそよろしくお願いします」
バイワートさんが差し出した手に握手を返す。
手もでかくてゴツゴツしていて見た目以上に力がありそうだ、商人というよりも格闘家なんかが似合うと思う。
「バイワートさん、本日はご協力いただき感謝します」
デシアーナさんも挨拶を交わすと、バイワートさんが
「では馬車の中へどうぞ」
と言って俺とデシアーナさんをエスコートする。
馬車に乗り込むと奥に俺、隣にデシアーナさん、俺の向かいにバイワートさんが座る。
バイワートさんの座った向きは進行方向とは逆向きになるが、こちらに気を使って楽な方を譲ってくれたのだろう。
馬車の座席は詰めれば3人が座れる程度の幅でソファーのようになっており座り心地は良かった。
バイワートさんの背後は御者席だろう、男性が馬の手綱を握っており、隣にはもう一人女性が座っている。
「御者と作業の手伝いをさせます、妹夫婦です。出してくれ」
御者席からの二人の会釈に、こちらも会釈で返す。
バイワートさんが御者席へ出発の指示を出すと、俺達を乗せた馬車が進み出した。
「今から向かう先は南街区の一番大きな倉庫群で、普段は軍需物資を保管しています、今は遠征で全て持ち出しているのでほぼ空になっているのですよ」
バイワートさんが向かっている場所の説明をしてくれる。
商会の会長という立場にありながら礼儀正しい人だと感じた。
しばらくすると同じ形状の建物が並んだ場所が見えてきた。
「中には麻袋を用意させてありますので、お願いします」
馬車から降りて倉庫の中に入ると、木製で4段の棚が並んでおり、バイワートさんが言った通り棚にはそれぞれ数枚の麻袋が置かれていた。
強烈とまではいかないが、なんとも言えないような臭いが鼻につく。
まあ、倉庫なんてこんなものだろうと臭いを我慢して麻袋を手に取った。
「じゃが芋だけを生産すればいいんでしょうか?」
「今日は芋だけでお願いします、芋は調理もしやすく流通もさせやすいので、その他は後日練習してからにしましょう」
練習もしないといけないが、時間が取れていない。
食糧事情が危ない村もあるということだし、仕方ないだろう。
小麦や米の方がいいんじゃないかとも思ったが、調理のしやすさでは芋の方が有利だ、保存性には欠けるが先に芋を食べればその分だけ他の食べ物を温存しておける、デシアーナさんの考えもこんなところだろう。
「コンテナさん、芋を出す速度は調整できませんか? 昨日出して頂いた芋は潰れているものはほとんどありませんでしたが、傷付いているものがありまして、出来れば傷がつかないように出していただきたいのです」
スキルを使おうとしたら、デシアーナさんが俺の背中に手を当てて聞いてきた。
朝食と昼食にやたらと芋が使われていたのは、傷がついた芋を早く使ってしまいたかったのか。
「やってみます」
ティッシュ箱サイズの錬金コンテナに金貨を一枚入れて、コンテナを閉めて、麻袋をあてがいながらゆっくり芋が出てくる様子をイメージしながらコンテナを開ける。
昨日はポップコーンが弾け飛ぶように出てきたが、今日はモコモコといった感じに湧き出てきた。
袋が一杯になったら、御者をしていた二人が芋で満杯になった麻袋を棚に運ぶ。
後ろではデシアーナさんが紙束になにやら記入している、生産した芋の量を記録しているのだろう。
「お一つ、見せてもらえますか?」
「どうぞ」
バイワートさんが手を差し出してきたので、芋を一つ渡す。
「オセルバチオーネ……良い品質だ、消費期限も一月以上は保ちそうで、見た目もやや大きいぐらいでラストムーロに流通しているものとさほど変わらない」
バイワートさんが何やら唱えると芋がほのかに光る。
スキルによる魔法だろう、内容からするに鑑定みたいだ。
その結果が満足のいくものだったようでバイワートさんの表情は明るい。
ゆっくり出しているせいで、一袋満杯にするのに最初は2分程かかっていたが、少しずつ速度を上げていく。
途中からバイワートさんも芋で満杯の麻袋を運ぶのに加わり、30分ほどで金貨の触媒としての寿命が尽きたのか芋が出るのが止まる、棚は残り3袋程度の空きスペースを残してほぼ満杯になっていた。
御者の二人は大変そうだったが、バイワートさんは余裕そうで、俺はというと自分のペースで作業できるので楽勝だった。
治療師には体がボロボロだと言われたが体力的には問題無いように感じる。
「倉庫は全部で8棟あります、体調はどうでしょう? 続けてお願いできますか?」
「僕は問題ありません、後ろの二人はきつそうですが」
後ろで座り込んでゼーハーしている御者の二人の方が心配だ。
「他にも人手を集めておけばよかった、いやはやここまで凄まじいとは、ですが今回は私がカバーするので大丈夫です」
バイワートさんが楽しそうに腕まくりして答える。
頼りになりそうなのはいいが少々暑苦しい。
「お水お持ちしましたよ」
「ありがとうございます」
デシアーナさんが持ってきてくれた水筒から水を飲む。
「こちらでも試していただけませんか?」
「構いませんよ、やってみます」
4つ目の倉庫が終わったところで慣れてきたと判断されたのか、銅貨、銀貨、銀粒、金粒を渡された。
結果は、銅貨が小さな芋1個、銀貨が麻袋1袋、銀粒が芋10個ほど、金粒が麻袋5袋になった。
何だろう、錬金術の効率基準は人間が取引に使っている価値に近いのだろうか?
バイワートさんに鑑定してもらったが、品質にバラつきは無かった。
「金貨か銀貨が効率良くて他は微妙ですね、含まれる魔力量に左右されているのではないでしょうか?」
デシアーナさんの推測は俺のと違うようだ、隣ではバイワートさんもうなづいている。
錬金術を使った芋の生産は当初と同じく金貨で続けられることになった。
☆ ☆ ☆
途中で短い休憩を取りながら同じ作業を繰り返し、夕暮れ時には8つの倉庫へ芋を供給し終わる事ができた。
「やっと終わったー」「疲れたー」
「お疲れさん」
「「お疲れさまです」」
御者の二人はやはりゼーハーしながら座り込んでいる。
バイワートさんは一番働いていたと思うが全く疲れている様子は無い、本当に人間なのかと疑ってしまう、まあ魔法かアーティファクトの効果なんだろうけど。
お互いをねぎらっていると、パタパタパタという音とともに足元を黒い小さな人影が通り過ぎるのが見えた。
その黒い小さな人影は口が開いたままになっていた麻袋から芋を掴むと出入り口へ駆け出すが、
「待て!」
バイワートさんが掛け声とともに手を伸ばし捕まえる。
捕まった小さな人影は、ネコミミとシッポが生えた幼い女の子だった。
幼女はバタバタと暴れるが逃げられないようで。
バイワートさんがネコミミ幼女の首筋を掴み少し持ち上げると、抵抗を諦めたように手足をブランとさせる。
「みゃ~」
ネコミミ幼女が悲しそうに鳴いた。
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