第7話 違和感

「はっ、いえあのこれは……こほん、とりあえず大丈夫なのは分かりました、今日はコンテナさんの立場や今後についてなどミリアーナがお話しする予定だったのですが明日に延期させて下さい、事後処理が多く今日は時間が取れなくなりました、不安な思いをさせてしまって申し訳ありません」


 デシアーナさんが取り繕ったように咳ばらいをすると、申し訳なさそうに予定変更を伝えてくる。

 そういや今後についての話があるからとローリアさんに言われていたか、カッシュに拉致されてその後の騒動ですっかり忘れていた。


「かまいません、大丈夫です、あんなことがあったんですから仕方ないですよ、それより体は大丈夫なんですか? カッシュには1日でその……元通りになると……いやその……体に怪我とかありませんか?」


「私は大丈夫です、怪我もありませんから心配無用です、胸はこちらの方が元の状態ですが1日でまたスキルは使えるようになりますね、少し疲れてはいますが私だけ先に帰らせていただくことになったので、この後はゆっくり体を休めようと思います」


 胸は、の辺りでニッコリ微笑むデシアーナさん。

 うん、下心バレバレだわこれ。


「ああ、じゃあ僕なんかに構ってないでもうゆっくり休んで下さい」

「お気遣いありがとうございます、ではお休みなさい」


 デシアーナさんは一礼して振り向くと部屋から出て行ったが。


「なにあれなにあれ、凄く美味しかった、どうしようまた食べたいって頼んでいいかな、うわースキル禁止しといてダメかな、うわー、いやいやそれよりも・・・・・・」


 少しばかり興奮したような独り言が割と長い間聞こえてきた。

 ローリエさんだけじゃなくデシアーナさんにも美味しいものをあげた方が良さそうだ。


 ☆ ☆ ☆


 異世界二日目の夜が来た。


「そんなに美味しかったのかね?」


 残った方のチョコレートバーを見ながら独り言を呟く。

 自分で食べた一円玉大のチョコレートは甘いとは思ったが、そこまで美味しいとは感じなかった。

 パクリ、と一口齧る。


「ありゃ?こりゃ美味い」


 一円玉大のチョコレートよりも、各段に美味しかった。

 原料によって味にも差が出るようだ、と考えつつデシアーナさんの反応を思い出す、あの反応は異常だろう。

 こちらに来てから出された食事はどれも質素で味が薄かった、元世界よりも食糧事情はあまりよろしくないのだろう。

 ある程度は納得できるが、まだ気になることもある、明日はミリアさんから話があるということだしついでに聞いてみよう。


 デシアーナさんには体調は大丈夫だと言ったが、少し気になることはある。

 今の自分の体がアルビノだとすれば、紫外線の影響はどうなんだろう?

 向井さんのウンチクのお陰でアルビノ関連の知識は思い出せている。

 しかし、髪の毛が黒色なのでアルビノであるとも限らないし、そもそも地球じゃないとしたら……うん、いくら考えても答えは出ないだろう、幸い昨日今日と皮膚に炎症お起こしたりといった異常は見られない。

 今後は異常が出ないか気にしつつあまり悩まないようにしよう。


 性欲もコントロールできていない、若い体になっているからなのか、元世界での性格的なものなのか、どちらにしてもちょっと辛いものがある。

 デシアーナさんは大丈夫そうだが、他の女性に対して同じような態度をとってしまったらどうなるのだろうか? 今の自分の顔なら許してもらえたりするのだろうか? 痴漢扱いはされたくないが、どうしても胸に目がいってしまう。


 それにしても体が変わっているとは、だが都合はいいのだろう、空気の組成や何やら元の体のままだったとすれば即死していた可能性すらある、少なくとも今のこの体はこの世界に適応できているのだから……


 そこで恐ろしい考えに辿りつく、今の自分の体の方が本当の自分で、知らない他人の記憶だけが上書きされているという可能性は? だとしたら本当の自分はどちらなのだろうか? 体は今いる世界のもの、記憶はこの世界に来る前にいた世界のもの。

 ……これ以上体の事については考えない方が良いさそうだ、せっかく落ち着いたのにまた不安定になってしまう。

 もう寝よう。


 ☆ ☆ ☆


 翌日、食事をすませた後ローリアさんに連れられてミリアーナさんが待つ部屋に向かう。


「料理の時に使わなかった野菜のへたとかもらえませんか?」

「あら?そんなもの何に使うのかしら?」

「スキルを使って有効利用しようかと」

「あらあら、駄目ですよ、スキルの使用は禁止されているはずですよ」

「そうでした、ごめんなさい」


 錬金術の原料を確保しようとしたがスキル禁止を指摘されたので素直に頭を下げる。

 スキルは禁止されていてもこっそり使っている、生活環境を自分で改善する手段があるのだから使いたい、衛生面と食事の質は譲りたくない、これ以上ストレス溜めたくない。

 まともなトイレを使わせてもらえないか交渉しようかとも思ったが、鉄格子のある部屋に入れられているぐらいだから個室にあるトイレは使わせてもらえないだろう、監視体制は割とガバガバな気もするのだが。


 ミリアーナさんが待つ部屋の前に着くと、ローリアさんがコンコンとドアを軽くノックする。


「ローリアです、コンテナさんをお連れしました」

「どうぞお入りください」

「失礼いたします」「失礼します」


 ローリアさんに続いて入室する。

 ミリアーナさんはちょっと苦手た、顔に迫力があるし、家の件で負い目もある、デシアーナさんと違って胸がないから癒し効果も期待できない。


「おはようございます、コンテナさん」

「ミリアーナさんおはようございます、先日の塩水はご馳走様でした、あれってどれぐらい塩入ってたんですか?」

「1割ぐらいですよ、吹き出すのを狙ったんですけど、反応がイマイチで残念でした」


 挨拶ついでに先日飲まされた塩水の濃度について聞いてみた。

 普通なら吹き出すような濃さの塩水だったのか、これは味覚障害の可能性も高いのかね……自分が食べたチョコレートの味と、デシアーナさんがチョコレートを食べた反応の差があまりにも大きかったから気付いたのだが、アルビノの件もあるし健康診断でも頼んでみようか。


 この世界の医療水準はどの程度だろう? 民間療法的なものしかなかったりしたら困る、医療的なスキルに期待したい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る