十三日目 正午

「なんかこの洞窟、不思議な感じがするんだよな」


 洞窟前に着くと、優矢は我が家を見上げながら首を傾げた。


ふむ、あまり意識したことがなかったが、確かに不思議だろう。なんせ魔物が産まれる洞窟だ。

 入口は、具体的に例えるならコンビニの自動ドア程度の余裕を持った幅があり、すぐに五畳ほどの私たちが普段暮らしているスペースがある。そこから更に倍近く進めば最奥に行き着くのだ。


 外からの形状は、少し横幅が奥行に比べて狭いごつごつした山だ。山肌に木は生えていないが、ちらほら草花が咲いている。


 大きさは目でざっくりと測っただけでも縦横二十メートルはありそうだ。奥行きは五十メートルあってもおかしくない。ちゃんと測ればもしかしたらもっと大きいのかもしれない。山として考えると小ぶりも小ぶり(正直山とは言えない)だが、我が家として考えると結構広い。


 山、というよりは大きな岩なのだろう。

長い年月を掛けて岩に砂や土、種が引っ付いたに違いない。



 そんな今更なことをぷるぷる震える足に活を入れながら思った。

よし、なんとか一人で立てるようになった。



 すると「キュ!」と楽しそうな声を上げてウォンが私の背後で密かに駆け出した。そして地面を蹴り、私の膝裏に軽やかに飛んで突撃する。


なん、だと。


「ちょ、ぐえ」


 そして私は抵抗する間もなく地面に再び崩れ落ちた。ウォンがなんだか楽しそうだ。

 何となくわかるぞ。多分これはウォンにとって戦隊ごっこみたいなものだ。私は全身黒タイツの敵役なのだろう。

 さっきの身体強化は敵が一段階進化したみたいな、あれだ。そして今の私はフルパワーからパワーダウンし自滅しかかってる某宇宙の帝王(設定)……。全身黒タイツと帝王じゃ戦闘力が違いすぎるか。



「ラ、ライラック……」


 笑いを耐えるように震える声が、頭上から降ってくる。


「今は敵役だから自滅ブラックと呼んでくれ」


「じ、自滅ブラックっ!? ……あっ、戦隊ものか! うわっ、懐かしいな! よし来た俺に任せろ! 」


 きょろきょろと洞窟の周りを探索していた優矢が戻ってくると、殆どヒントなしに戦隊モノと当てた。ハルは戦隊モノの言葉に首を傾げている。


 優矢は指先を回し、小声で呪文を唱えると、ウォンに先を向けた。指先から出た光がウォンに触れると、ウォンの頭に凄まじく厳つい兜が出現した。

 ちょっとまて、あれ私の知ってる戦隊モノじゃないぞ。あのトゲ鋭利すぎないか。


 優矢はそして私にも指先を振り、瞬きした後には全身が西洋の鎧に覆われていた。しかもやたらとゴテゴテしている上に、そのすべてが黒い。やけにトゲトゲした頭の甲冑を取ると赤い文字に黒で縁取られた「自滅」の文字。自分で言ったことだこれはひどい。

 不思議なのがこんなに着飾っているのに全く重さを感じない点だ。ハルの変幻させる魔法に近い、のかもしれない。



 未だ状況を掴めていないハルにも指先を振り、やっと普通の戦隊ヒーローが出てきた。色はピンク。いや、ちょっとまて、腰につけてるあれは……鞭?

 そんな、いやいや。


 優矢を見ると既に着替えていた。渋い侍の格好に。腰には長い日本刀を指している。


これのどこが戦隊モノなんだ! カオスでしかないだろ。


 ちらっと洞窟の中にいたヨーデルとニィドを見ると、ヨーデルは羊用にアレンジされた軍服を着ており、ニィドは手のひらにもふわふわの尻尾にもメリケンサックが付けされていた。背中の針も何故か太くなっている。

 そして体部分には何処と無くチャイナ服をイメージさせる作りと色合いの服が着せられていた。


「……戦隊……モノ?」


「普通じゃ面白くないと思って俺の知ってる戦う人達を集めてみたぜ! 」


 ぐっ、と親指を立てる優矢。遊びでも無駄にクオリティが高い。そしてチャイナ服は戦うイメージなのか。


 結局、その無駄にクオリティの高い茶番は、意外にも途中でニィドが参戦し、昼過ぎ辺りまで白熱した。


 因みに一番敵役が板についていたのはハルだった。

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