十三日目 午前

 昨日はあれから色々あった。

 地球育ちにしか通じない言葉が他にもないか三人で調べたり、優矢がハルに本格的な米の交渉に入ったり、夜食を作ったり、ハルが携帯電話を持つことになったり、等だ。

 これで寂しかった電話帳は二件に増えた。


 重かった空気を打ち消すようにわいのわいのと騒ぎ、そして朝が来た。



 そもそも我が家こと洞窟には布団なんて素晴らしい文明の力は存在しない。藁のベットだ。慣れないと結構痒いし、背中も何処のかしこも布団より断然痛くなりやすい。(私は流石に慣れたが)


 よって全員雑魚寝だ。因みにウォンやニィドはここ最近の定位置、ヨーデルの羊毛の中である。



「……やべ、ガルドに泊まるとか何も言ってねえ……や……」


 寝ぼけ気味の目を擦りながら優矢が起き上がる。そしてまた後ろにひっくり返った。寝息が聞こえる。


「ううーん……それはぼったくり……ん……半額なら」


 ごろんごろん転がりながらハルが唸っている。夢の中まで値切っていた。……今更だけど女の子なのに一緒に寝てよかったのか。それに昨日どうやって寝たのか全く記憶にないんだが……確かハルだけは洞窟の奥で寝ることになっていたような気が……ハルが良いならいいか。良くないのか? わからん。



 外を見ると陽が昇る直前というところだろうか。そうだ、折角早起き出来たのなら前々から一つ試したいことがあったのだ。




 私は洞窟前で右手に魔石と左手に魔法書を準備した。唱えるのはつい最近使えるようになった何時もよりちょっと高度な二言詠唱だ。

 一言より効果は高いが唱えるのに少し時間がかかるし、魔石の消費も一言より激しい魔法だ。


『我願う 我が肉体に宿れ 力よ』


 唱え終わると身体からミシミシと筋肉の繊維が軋む激しい音がなった。音が凄まじい。鼓膜まで引きちぎれそうだった。


 大丈夫か、これは大丈夫なのか。


 暫らくすると音が収まり、腕や足が元の二倍ほどに膨れ上って腹筋が割れた。それから五秒ほど経つと全身の筋肉という筋肉が引き攣れを起こしたように痙攣する。


「っつ!!! あだだだだ!!」


 そのあまりの痛みに私は地面に転がり、のたうち回った。すぐ様身体に掛かった魔法を解除する。


「はあ、っつ……ふー……」


 痛かった。


幸い五分ほど横になっていると痛みは殆ど消えた。


……全身強化はちょっと無理だな。


 もしこれが成功すればハル達人外ズに付いていけるのではと思ったのだが、なかなか上手く行かないものだ。


 耳元で小さな物音がして、寝転んだ姿勢のまま首だけ横にするとウォンがいた。きらっきらした目をしたウォンがいた。


 たしたしと急かすように私の肩に足を乗せる。


……こ、これはどっちだ……!?


ウォン自身が強化されたいのか、それともさっきのをまた見たいのか。どっちなんだ。

 ひやりと冷や汗が背中を流れた。

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