十一日目 午後三時
至るところに雪だるまを作り終えると、なかなか面白い風景が出来た。どこ見ても雪だるまがいる。しかも猫耳、犬耳、狸耳、ウォン風のも揃えて選り取りみどりだ。
シソーラスで買った塩を雪に振りかけながら、ごろごろ転がしたかいがあったというものである。
雲は仕事を終えたとばかりに空は晴天だった。
ふう、と息を吐き、洞窟から少し離れた場所で白色の世界を見ていると、森の奥から白い何かが駆けてきていた。白と黒の模様と、あの巨体。
……ヴァイアスだ!
体調が戻ったヴァイアスは速かった。遠くの白い点が数秒後には私の目の前にいた。あれだ、スポーツカーだ。
『ット、マダ慣レン……』
ととと、と蹈鞴を踏み、速度を落とすヴァイアス。少し頬が膨れているのは気のせいか。
ハルたちは洞窟の中に戻って、火をを焚いているのでまだ気付いていないらしい。
「久しぶりだな、ヴァイアス……それにモナ達も」
ヴァイアスの背中に引っ付いていた兎と虎の兄弟(姉妹?)も手を上げた。モナがいるからかヴァイアスのいる地面から、雪を押し退けて植物が芽を出して揺れている。懐かしいぞ、この草。
『久シブリト言ウホドデモ無イダロウ……ソウダ、大体見ツカッタラシイナ、森ノ噂デ聞イタ』
森にも噂話があるのか……井戸端会議?
「後見つかってないのは『ヨーデル』と『ニィド』だけなんだ」
『アア、ソウダロウナ……ソノ親達ハモウ此ノ世イナイダロウ』
ヴァイアスが目を伏せて静かに言った。
「何故そうわかったんだ……、この森は広いだろう?」
何時だったかハルが言っていた。この森の広さは大陸の中央に位置し、広さは大陸の六分の一を占めている、と。大陸の広さがよくわからないが、小さいということはないだろう。
『元々其ノ二種ハ数ガ少ナイ……縄張リノ数モ高ガ知レテイル。其レ等ヲ全テ見テ回ッタ』
ヴァイアスの手が、爪が、土を抉った。
『全滅ダッタ』
体から血の気が引く。ぜ、全滅……?
私は洞窟の中にいる二匹の魔物を思い浮かべ、蹲りたくなった。
『縄張リノ巣穴カラ出ルノハ死ヲ意味スル……。実際巣ノ近クニ此レガ落チテイタ』
ヴァイアスが頬に含んでいた何かを吐き出す。それは『ヨーデル』の羊毛とそれに包まれた『ニィド』の針だった。
針で口内を切ったのだろう。微かに臭う血が思考を狂わせた。
散らばった針と羊毛に無意識に指が伸びる。
子供の『ニィド』より、随分長く、鋭い針。黄金色の羊毛と針だけがぽつんとあって、中にはやはり、誰もいない。いないのだ。
『魔物ハ死ヌ時、最モ魔力ヲ込メル部位ノミ残シテ消滅スル。……ツマリ、ソウイウコトダ』
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