八日目 午前五時
苦しくて、暑い……。
顔だけが真夏の熱帯夜のような蒸し暑さを感じる。何が寝ている間に起こったというんだ。
それに目が開けられない。
目を開けても真っ暗だ。嗅ぎなれた獣特有の臭いもする。
私は体を起こしながら、顔に引っ付いたウォンを手で剥がした。
「……おはよう」
「キュ!」
目を擦りながら挨拶すると、ウォンもちいさい前足を片方だけ上げて鳴いた。
あれだ。ポケットに入る
だけど、ウォンは手の平に乗るサイズだし、戦いもさっぱりだ。
……あれ、何処かで聞いたことがあるな。
──……もしかして私に似てないか。
主に戦力外のところが。
私に似てしまったというのか……!
……いや、でも逆に、ウォンが世紀末の覇者並にムキムキで男気溢れるウォナバットだったらどうする? 私は嫌だ。可愛さが半減するじゃないか。
……やっぱり今のウォンが一番だな。
私は頭を振って八頭身大のウォンを脳内から追い払った。
背伸びをし目を擦る。大きな欠伸を二つほどして、私は我に返った。
そうだ、のんびり微睡んでる場合じゃない。
──昨日、ガルドの言葉を聞いてからの意識がなかったから、恐らくそのまま寝たのだろう。体力の限界が来たというよりは、精神的に気張っていたのが大きいに違いない。
今だってヴァイアスのことや街の異常が解決したのではないのだから、気を緩める訳にはいかない……いや、だからこそ、一つ心の重しになっていたものが取れて良かったのだろう。
他のことに気を取られて、後ろから首でも飛ばされたら即死確定だ。異世界こわい。
私は枕元にあった魔法袋から昨夜血まみれになった服を出し、クリーニング代わりの魔法を掛ける。もしかしたら落ちないのでは、と心配していたのだが杞憂に終わった。
手持ちの服は二着しか持ってないのだ。
この街では買えそうにもないから本当に良かった。
私は外出の準備を整え、最後に魔石を幾つかポケットに入れておいた。
扉に手をかけ、出る前にちらりと窓の方を見ると丁度朝日が登り出す瞬間だった。
***
どうやら私が居た部屋は二階だったようで、一階のリビングらしき部屋に降りると、私以外の全員が既に集合していた。
「ライラックおはよう。……ところで傷は大丈夫なの?」
ハルが私の姿を見ると心配そうに聞いてきた。腹部か顔、どちらの怪我か分からないが、両方今は十分完治している。先程着替える時に刺されたお腹を見たが、微かに線が残っている程度でなんの痛みもなかった。少し……怖い程に。
これが高濃度の魔石の威力か……。
科学の医療も進歩したが、魔法の摩訶不思議現象はそれらを吹っ飛ばすようだ。
「もう痛くないし平気だと思う」
腕の中にいたウォンが小さなその手で、私のお腹をぽんぽんと叩いた。うん、痛くない。そんな様子を見たハルは少し頬を綻ばせた。
「……良かったわ」
キュ! とウォンも鳴いた。ヴァイアスとモナが揃ってこちらを見ていて、なんだか少し恥ずかしくなった。怪我したの私だけだ。
……どうやら心配させていたらしい。
そんな様子を見ていた優矢が私の方に来ると、口を開いた。
「
ちょっとだけ言いづらそうに頭を掻きながら一呼吸挟む優矢。
また、『帰ったほうがいい』と言われたら今度こそどうすればいいかわからなくなりそうだ。
足を引っ張っている自覚はある。弱い自覚もある。いてもいなくてもきっと変わらない。顔を強ばらせた私に優矢は言った。
「俺らと手を組まないか?」
──手を、組む?
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