三日目

翌日、私はまたしても石臼と奮闘していた。

赤や青の魔石を入れては、ゴリゴリゴリゴリゴリゴリと無心で左に付いているレバーを回す。


ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ。


…ああ、肩こってきた。


ある程度、魔石が粉になってくると魔法袋からだした器にその粉を移す。

移し終えると、同じく魔法袋から出した水と混ぜ合わせていく。

一気に混ぜるとだまになるので、少しずつ入れるのが、この数日で学んだポイントだ。


そして出来上がったものを哺乳類に移し、軽く振る。

ルーのものには、すり潰したリンカ草を入れてある為念入りに。


「よし、出来た」


藁の中ですやすや寝ているウォンとルー。取り敢えずウォンから起こす。

両方一気に起こすと、私の手が足りなくなるからだ。


「……キュ」


ウォンは寝惚け気味のまま、哺乳類に吸い付いている。

半分ぐらい飲み終えると、目が覚めてきたのかウォンは哺乳類に手を添えて飲み始めた。

効果音をつけるなら、ぐびぐびである。いい飲みっぷりだ。


次はルーを起こす。

昨日まで目が開いてなかったが、ゆっくりと薄眼を開いた。

流石にウォナバット程ではないが、ブラットウルフの成長も大概早い。


「クゥァ……」


ルーは背中を藁に擦り付けながら、大きな欠伸をする。

手乗りサイズの小さなルーは、狼というより黒い小犬だ。


哺乳類を口元に近付けると、勢いよく飲み始めた。

肉食だからか、ルーは日に日に食欲が向上していっている気がする。大きくなれよ。


お腹一杯になったからか、またうつらうつらし始めたウォンとルーを藁を敷いた籠の中に入れる。


今日は川に行くつもりである。


魚が取れれば最高だな!



タイヤのゴムを噛んだ食感がする干し肉を咥えながら、ウォンとルーが入った籠を持ち上げた。




***



太陽が真上に登る時刻。


魔法書の地図を頼りに、私と二匹は川に来ていた。

轟々と唸りを上げ飛沫を散らす、正に激流と言える川が其処にはあった。


「…そういや、此処来た初日に雨降ってたな」


多分、降ってた。

その結果が「コレ」である。


魚どころじゃないな。


ウォンとルーも水浴びさせてやれない。

私も汗を流せない。

悲惨だ。惨すぎる。


「クゥ?」

「キュキュ?」

すると二匹が籠から顔を出して、項垂れる私を見た。


うん、水浴びは諦めよう。


何時か川の流れが落ち着く日が、来る筈である。



予定変更を余儀なくされた私は、魔法書で私が食べられるものを探す事にした。

魚と言う名のパンが無ければ、お菓子を食べれば良いのである。



***



私は洞窟に帰ってきていた。

帰り際に、木に実っていた木の実を幾つか毟りながらではあるが。


ウォンとルーは既に籠から出してある。

ウォンがてくてく歩いては、その後をルーがよたよた付いていく。

あっ、こけそう……立ち直した、えらい! 可愛い!


私は洞窟に広げた赤くて丸い木の実を一つ、魔法書で調べてみた。


「『パラの実』

猛毒。食用ではない」


え、怖っ!


背筋がぞっとした。

パラの実は、万が一にでもウォンやルーが食べないように魔法袋の奥に入れておいた。くわばらくわばら……自然界恐ろしや。


「 『ルルバの実』

渋い。食用向きではない」


うーん、なんとも言えない。

ものは試しと一口かじって見た。


…し、渋い。


口の中にへばりつく、しつこい渋さだった。道理で食用向きでない訳だ。


「『ナハタの実』

かなり甘い。食用の果物」


き、きたぁあああ!!

黄色く、ごつごつした木の実で、五つほど拾ってきてある。

私はそれを二つ程口にした。



そして、



気絶した。

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