第283話 義務と目標を持つ者と権利を与えられただけの者らしいです
この僅かな時間で場を支配したディータはアリア達を優しく見つめ、身構えられているのにも関わらず目を閉じる。
「貴方達は子供と考えれば強いでしょう。ですが、大人と見るならば貴方達は脆過ぎる」
隙だらけで話すディータを見つめるアリア達は先程のスゥがあっさり無力化されたの見て委縮したらしく、レイアなど歯を剥き出しにして怒っているようだが、動けなかった。
せめて、口だけは閉ざしてられないとレイアは吼える。
「アタシ等が脆い? アタシ等より脆くて弱い大人なんてゴロゴロいる!」
吼えるレイアを目を開いて見つめるディータは残るアリア達を順に見ていき、溜息を吐く。
「やはり貴方達はそのように思っているのですね……」
溜息を吐き切って短く息を吸ったディータが一足飛びでアリア達に接近する。
それにかろうじて反応したのは前衛組のレイア、ミュウ、ヒースの三人であった。
レイアの前を特攻してくるディータのタイミングに合わせて正拳突きを入れようとする。
だが、その正拳突きにディータがソッと手を添えようとしてくるのを見たレイアが先程、利用されて上空に飛ばれた事を思い出し、慌てて引っ込める。
そんなレイアにニコッと笑うディータを見たレイアは嵌められたという事を肌で感じる。
目を剥いて驚くレイアが正拳突きで中腰気味になって曲げていた膝を駆け上がるようにしてディータはレイアの後方へと飛ぶ。
「クソッタレ!」
悪態を吐くレイアに薄い笑みを浮かべるディータは空中で一回転すると弟のダンテの背後に立つ。
「ダンテ、貴方にとって大人とはなんですか?」
「えっ?」
即答しなかったダンテは遠慮もない蹴りを背中に入れられて前方に飛ばされるが飛び出したヒースにかろうじて受け止められる。
痛みに顔を顰めるダンテにディータは言う。
「気絶しないように手加減はしてあげました。盾だけでなく、司令塔までいなくなったら終わりそうですからね」
コロコロと笑うディータは髪を掻き上げるような動作でナイフを背後に翳すとガキッをさせる。
受け止めたまま、ダンテ達を眺めるディータは振り返らずに背後にいる者に声をかける。
「私に忍び寄るチャレンジ精神は買います。かかってこい、と言ったのは私なので不意打ちだろうが成功すれば綺麗も汚いもありませんが……」
背後に居る者を廻し蹴りして吹き飛ばすとそちらに顔を向ける。
「アリア、貴方は口で語るより目で語り過ぎです。視線でどこを狙ってるか分かるほどにね。せめて、気配ぐらいは消せるように、とユウイチに言われてませんか?」
ディータに蹴られて咳き込むアリアは口をへの字にして怒りを露わにして睨んでくるが涼しい顔したディータに流される。
そんなアリアにゆっくりと歩いて近寄るディータに反応するレイアとヒース。
「アリアをやらせねぇ!」
「今、行きます!」
2人は飛び出すと二手に分かれ、ディータを挟撃する。
そんな2人を駄目な子ね、と言わんばかりの笑みを浮かべる。
咳き込みが収まってないダンテが2人を止める。
「だから、駄目だって言ってるでしょ! 姉さんは直情的に攻めたら駄目だ!」
叫ぶダンテに視線だけ送るレイアとヒースであったが、その意識は既にディータに向けられる。
ヒースを見つめるディータが微笑む。
「貴方がヒースですか。確かにアリア達と遜色ない、良く鍛錬を詰んだのでしょう……ですが!」
そう言った瞬間、微笑んでいたディータの目が細まるとヒースはディータの姿を見失う。
「えっ? どこに!?」
「ここです。先程の続きですが、貴方は徹底的にソロに慣れ過ぎている」
耳元で囁かれて背筋がピンと伸びた瞬間を狙ったのように背中をドン、と押されるとレイアの方向へと飛ばされるヒースの剣に纏わせてた気でレイアを斬りそうになる。
慌てたヒースがたたら踏みなら、気を解除して剣を逸らしてぶつかる前に止まれて2人が安堵の息を吐いた所をディータがヒースにドロップキックを入れてくる。
「うわぁぁ!」
「いっいい!!」
蹴られたヒースはレイアを巻き込むようにして転がる。
慌ててヒースから離れる真っ赤な顔になったレイアがそれを見つめるディータを指差して怒鳴る。
「心臓が止まるかと思っただろうが!!」
「そうです、魔法は使わないといったのに!」
レイアはヒースと揉みくちゃになった事についてだが、ヒースはディータが姿を消した事について文句を付ける。
「違うさ、今のは技術」
離れて見ていたホーラが難癖付けるヒースをくだらないとばかりに見下げる。
ホーラの冷たい視線に背筋に冷たいモノが走る。
「そうね、今のはディータのフェイントを利用したもの。ディータに意識を向け過ぎてたヒースちゃんは僅かな動きでも目で追って先読みするように移動する方向を見てしまってるのを利用されて反対側の死角に入られたから消えたように見えたわけ」
ポプリはちゃん付けして小馬鹿にするように「分かるかな?」と言って勘違いするヒースに説明する。
ダンテは悔しそうに俯き、拳を握るが、アリア、レイア、ヒースは力で捩じ伏せられ、馬鹿にされてるだけだと苛立ちを隠さない視線をホーラ達3人に向けてくる。
それに嘆息するホーラがアリア達の苛立ちを超える苛立ちを見せて口を開く。
「アンタ等ねぇ? いい加減にしないとアタイが相手になるさ? いいかい、この状況をまったく理解できてないのは、気絶してるスゥを除けばアンタ等3人だけなんだよ?」
理不尽をぶつけられているとしか思ってなかった3人は驚いた顔をダンテとミュウに向ける。
「少しは気付いたかしら? 普段なら貴方達と同じ直情的なミュウがスゥを助ける以外では最初に飛び出しただけで、何をした? 何もしてないわよ」
「私達の言葉では信じられないのであれば、仲間の2人に聞いてみるといいでしょう」
ポプリとディータに言われた3人はミュウに視線を向けるとミュウは必死になんて言えばいいか悩みながら言葉を口にする。
「ミュウ、みんなに言った。ディータ、危ない。でもみんな自分の力、過信した。ミュウ達、冒険者になった、ヒース、『試練の洞窟』頑張った。でも、何でも出来る訳じゃない」
ミュウ達はミュウ達のまま、と最後に付け加えられてアリアとヒースの瞳に理解の色が宿る。
レイアはまだ理解には至ってないが大きな勘違いをしてる事に気付き始めた。
「ミュウは最初の段階で、あのまま戦ったら同士討ちになる事に気付いたからスゥを助けてから動かなかったんだ。今の僕達は2年前の僕達より無様だよ。今から思うと僕もミュウより勘違いしてたと思う。僕達は大人になったんじゃない。大人として振る舞うように強要する為に権利を与えられただけなんだ」
震える体で立つダンテは近いアリアの傍に来て話しかける。
「スゥも同じだと思うけど、ユウイチさんと結婚できる年だから何でも1人でできると思い込んでなかった?」
ダンテにそう言われてアリアは目を伏せる。
大人として認められた以上、雄一に結婚を迫って認められるのが当然だと思ってた自分に気付いてアリアはスカートを握り締める。
レイアとヒースに目を向けるダンテが続ける。
「レイア、これから自活をするんだから、注意や叱られる事はない。好きにしてもいいんだ、と思ってなかったかい?」
レイアは悔しげに地面を叩いてみせ、悔しそうにしつつも頷いてくる。
「ヒースもザガンで一人前と認められる『試練の洞窟』をソロ攻略して、何でもできると思ってなかった?」
「……ごめん、天狗になってた」
素直に認めたヒースにダンテは首を振って「僕も似たようなモノだよ」と苦々しい表情を見せる。
「今の僕達は権利を与えられただけの子供。だから、義務を果たして僕達は大人になろう」
「さすがは私の弟です。姉として誇りに思います」
ダンテの言葉に拍手をするディータがみんなを見渡しながら言う。
「ザガンから帰った頃の引き締まった気持ちを思い出して貰う為とその時に戦う理由としたモノ以上の目標を持って貰いたいと今回の茶番をさせて貰いました」
「前の目標じゃ駄目なのかよ?」
若干、不貞腐れ気味なレイアが噛みつくように言ってくる。
これは照れ隠しだとホーラ達も気付いているので鼻で笑うようにして流す。
「いいえ、構いませんよ。ただ、そのままではいけないと言ってるのです。そのままだと子供の目標ですから」
まるで謎かけのような事を言われたレイアが怪訝な顔をするがディータは笑うだけであった。
ディータはレイアから視線を外して左側を目を向ける。
向けた先にいる短剣で二刀流する少女が身構える。
「どういうつもりですか、ミュウ?」
ディータに身構えるミュウの前傾姿勢になり、犬歯を見せる。
「ミュウ、難しい事分からない。でも、ミュウはユーイと最強のツガイになる。パパ、ママに誓った。絶対に押し通す。だから、今日、ディータに勝つ!!」
「うふふ、とてもミュウらしい。それでいいと思いますよ。ですが……」
ディータが話してる間に気合い一発叫んだ後、ミュウが飛び出してくるが、難なく背後に廻り込んだディータの細い腕がミュウの首に纏わりつく。
すると、一瞬でミュウは白目を剥いて気絶する。
「まだミュウに負けてあげる訳にはいけませんね?」
気絶するミュウを地面に優しく寝かすとダンテ達に話しかけながら近いヒースの方へと歩いて行く。
「貴方達がダンガに帰るまでにその答えに行き着く事を祈ってますよ」
笑みを浮かべながらヒースの横を通り過ぎると、ハゥという声と共にヒースも白目を剥いて倒れる。
それを見たアリア達がギョッとしてディータを見つめる。
「ディータ! ヒースに何やったんだぁ……ぁぁ」
続いて、コトリとヒースと同じように地面に転がされるレイア。
背中越しで何をしてるのか全く分からないアリアとダンテは恐怖を覚える。
動かない表情のままアリアの傍にやってくるディータに両手を突き出して後ろ歩きで逃げようとするアリア。
「ディータ、待って。話せば……」
後ろに歩いてた為か、アリアが仰向けに倒れていくのを見るダンテが震え出す。
「ね、姉さん、何してるの? 今、いい感じに話が纏まってたよね!?」
「その通りです。ですが、良く考えてみてください。仲間のスゥとミュウが気絶してるのにみんなにもしないと仲間外れみたいになるでしょ?」
ダンテは姉の笑顔を見つめながら、姉の駄目なスイッチが入ってる事を確信する。
経験上、言っても無駄だとは分かっているが叫ぶ。
「そんな仲間外れとかないからっ!」
「いいえ、苦楽を共にすると友情が芽生える、とユウイチが言ってました」
やっぱり駄目だった、と自覚したダンテは踵を返すと脱兎の如く逃げようとするがその時点で記憶が飛んでしまう。
顔面から地面に突っ込んで情けない弟に慈愛の籠った眼差しで見つめ、抱き抱えると見てるホーラ達にお願いする。
「みんなを馬車に運ぶので手伝ってください」
ディータの願いを快く受けたホーラとポプリはアリア達が乗ってきた馬車の荷台に並べて寝かしていく。
最後にディータがシーツをかける。
本当に仲が良い子達がお昼寝をしてるように見える。
勿論、見えるだけで気絶してるのだが……
「それで、アリア達はいつ頃に起きるのですか?」
「そうですね、遅くとも朝には目を覚ますでしょう」
ポプリとディータの会話を聞いていたホーラが空にある太陽を見つめる。
「じゃ、仕事には影響ないさ。そろそろ昼飯を食べに行くさ」
ホーラにそう言われたポプリとディータは頷くとテツが押さえているはずの『マッチョの集い亭』を目指して、この場を後にした。
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次の日の早朝、目を覚ましたアリア達が雁首揃えて暗い瞳で頷き合う。
「当面の私達の目標は『打倒、ディータ』なの!」
「「「「「異議なし!!」」」」」
王都観光をキャンセルさせられ、苦楽を共にして一致団結したアリア達はまた一段と仲が深まったようである。
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