第184話 友達は欲しいですか?らしいです

 一夜明けて、いつもの訓練場所ではホーラとポプリが対峙していた。


 すり足をしながらお互いを牽制するが、同じ遠距離を主とする2人である。当然のように動き出す前に駆け引きがなされている。


 だが、動かない事には始まらない。


 ホーラは動く事を選択する。


 まずは試しと言わんばかりに投げナイフを投擲するホーラ。


 それを笑みを浮かべたままのポプリが火球を生み出すとぶつけて投げナイフを蒸発させる。


 眉を寄せるホーラと余裕の笑みを浮かべるポプリを見た雄一がホーラに情報をリークする。


「ホーラ、4年のブランクがあると舐めてかかると痛い目に遭うぞ? 何せ、ポプリはアグートから加護を受けただけでなく、指導も受けてるからな」


 勿論、雄一やホーエンのような加護ではなく、ダンテと同じモノである。


 性質ワルと呟くホーラは身構えるが、ポプリは余裕の笑みを浮かべたまま指を鳴らす。


 すると、ホーラの抜ける隙間がないほど全方位を火球で覆われていた。


 舌打ちするホーラにポプリが勝利宣言をする。


「私の勝ちです」

「いや、引き分け……痛み分けかな?」


 そう言う雄一にびっくりしたポプリが見つめてくる。


 雄一が手を振り払うと軽い衝撃波が走り、ポプリを風で煽る。


 一瞬、閉じた目を開くと全方位を囲むように投げナイフが宙に浮いているのに目を剥き出しにして驚く。


「周りに仕込んで隠したのはポプリだけじゃなかった、と言う事だ」


 この2人は本当に考える事が似ていると笑みを浮かべる。


 最初に相手を驚かせようとしたネタまで被らないでもと思うが、本人達は不満のようで額を着き合せながら怒鳴り合っていた。


「ホーラ、私の真似をしないで貰えます?」

「真似したのはアンタだろ、ポプリ!」


 低レベルな争いを繰り広げる2人に、街一周走ってこいと言うと喧嘩状態を維持して走り出す。


「はへぇ、女王があんなに素直に言う事を聞く人がいるとは夢にもおもってませんでした……」

「まあ、相手はユウイチさんですからね」

「なんてレベルの高い戦いをしてるのでしょうか……」


 脂汗なのか、単純な汗なのか見分けのつかない、2人の騎士がだらしない格好をしながら呟く。


 2人も早朝訓練に参加したのだが、初めの走り込みでダウンしてしまっていた。


 レイア達に付いて行かせたのだが、ロットは素直に身軽な格好になったがシャーロットが鎧を脱ぐのを拒否して1周目の途中でダウンしてレイアに抱えられて帰ってきた。


 ロットは周回遅れになりながらも、なんとか自分の足で戻ってきたが動けずにシャーロットと並んで仰向けになっている。


 そんな2人に苦笑するテツは木の板で煽いであげていた。


「レベルが高いか……あれでも2人はだいぶ手を抜いてたぞ?」


 それに驚いてみせる2人にテツが雄一の言葉に頷いて見せる。


 久しぶりに会ったポプリが研鑽を怠ってなかったというのは嬉しい話である。女王業をしながらであの実力を着けたのは並々ならぬ努力があったのだろうと雄一は遠くに離れていくポプリの背中を見つめる。


「ポプリは女王をしながらも自分を鍛えていたんだな」

「ええ、本当に、僕達に任せられる事は全て、任せて自分がしなくてはならない事だけをするという扱き使い方されました」


 騎士団長が碌に家に帰れずに浮気を疑われてるようで、よく部下に愚痴を零すそうだ。


 丸投げぶりには苦笑いを浮かべるしかないが、他人に任せられるところは任せられる王として資質はしっかり示しているようだと雄一は嬉しそうにする。


 ロット曰く、ギリギリではあるが女王が国を出ていても、すぐに困ってしまう国の危機は抜けたそうだ。

 それを知った時の騎士団長は家に帰れると喜んだそうだが、そうと分かるとポプリはこうしてダンガに来てしまった。

 だから、おそらく騎士団長は今頃、ポプリへと届けとばかりに怨嗟の声を洩らしているだろうとロットは苦笑いする。


「僕も婚約者がいて帰りたいんですけどね……」


 ロットはテツと同じ年のようで国には幼染みの婚約者がいるらしい。


「どうせ、ポプリさんは本格的にここに戻るみたいだから、必要最低限しか国に戻らない気がするよね? 思い切って婚約者をこっちに呼んだら?」


 テツにそう勧められて、「それもアリですよね」と呟くロット。


 昨日の夜、寝るまでダンテを含めた3人で話をして意気投合したようであった。


「ここも住み心地の良い街ですし、テツ君の婚約者のティファーニアさんとも僕の彼女も気が合いそうだから、それとなく手紙に書いてみます」


 テツが笑みを弾けさせて「歓迎するよ」と笑う。


 それを見つめる雄一は、友達ができたようで良かったと頷いて見つめる。


 同じように羨ましげに見つめるシャーロットに気付き、声をかける。


「シャーロットも友達を作ればいい。ここにはお前と同じ年頃の女の子も何人かいる。今さっき戦っていた2人もそうだし、テツの婚約者のティファーニアもそうだ」

「でも、私はここでは何もできない足枷のようなモノです……」


 ここにきて、とことん自分の自信を打ち砕かれたシャーロットは目を彷徨わせる。


 シャーロットは間違えている。


 若さが必要とされないと不要なモノと勘違いしがちさせる。


 友達とはそういうものではないだろ、と雄一は教えてやる必要を感じる。


「シャーロット、友達とは能力の有無で作るものじゃない。楽しいから一緒にいるから友達になる訳じゃない。一緒にいるのが自然になるから友達になるんだぞ?」


 雄一にそう言われて目を丸くするシャーロット。


 そんなシャーロットに、顔を突き付けたまま、戻ってくるホーラとポプリを顎で指し示す。


「あの2人、4年前に出会ったが、1年も一緒に居た訳じゃない。ほんの数カ月だけだ。なのに4年経っても不自然じゃないだろ? ありのままの自分をぶつけて受け止めて貰い、受け止め合う者が友達なんだ」


 わかるか? シャーロット、と笑いかけてくる雄一を見て、なんとなくゼクスが雄一を責める自分に怒りを露わにしたか、少し分かったような気がする。


 この人の言葉には温もりがある。それも自然と胸に沁み込んで来て大事に包みこみたくなる。


 飾り気がないのだ。


 こんな人に敬語で話されたら距離を置かれたと誤認してしまう。それは余りに悲し過ぎる。


 思わず、ジッと雄一を見つめていると距離が近くなってる事に気付く。


 気付けば、雄一に抱き抱えられていた。


「あっああ、自分で立って歩きます!」

「嘘こけ、立つ事もできんやつが歩けるか?」


 そう言われて反論できないシャーロットは赤面して俯く。


 やれやれ、と思った雄一がホーラ達、そして遠くに見えるレイア達に声をかける。


「そろそろ、帰って飯にするぞ!」


 そう言うとホーラとポプリは着き合わせてた顔を離すと嬉しそうな顔をして雄一の下に小走りしてくる。


 遠くでは土煙を上げて疾走するミュウがやってくる。


 口許には涎の跡が見える。


 雄一の周りを走りながら、「ご飯、ご飯!」と騒いでいた。


「風呂に入ってからだぞ? ホーラ、シャーロットを風呂に入れてやってくれ」

「あいよ」


 雄一の頼みを快諾してくれたホーラに「有難う」と笑みを浮かべる。


 ロットはテツに肩を借りて立ち上がる。


「男は井戸で体を拭いてこい」


 男の扱いは雑な対応する雄一に2人は苦笑を浮かべる。


 だが、女の子の後に入ると下手すると朝と昼の兼用の食事になりかねない微妙な時間になってしまうのは2人にも理解できていた。


「飯食ったら勉強な?」


 そう言うと一目散に家に走って逃げるレイアとミュウの後ろ姿を眺めて雄一は笑みを浮かべた。

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