第162話 どうやら面倒な依頼だったようです

 夕暮れ時の炊事に主婦が追われる時間に到着したレイア一行は、道行く人達に依頼主である村長の家の場所を聞いて向かっていた。


 しばらく聞いた通りに馬車を走らせていると周りと比べると大きな家が見えてくる。

 おそらくはあれがそうだと目星を付けたレイア達はその家の隣に馬車を寄せると双子と魂の双子が一緒に降り、その家の扉をノックする。


 ノックをするとアクアと同じ年頃に見えるソバカスが特徴の村娘といった女性が出てくる。


 レイア達を見て首を傾げた村娘は、


「どちら様でしょうか?」


 と問われてシホーヌが胸元から依頼書を出す。


「この依頼書を見て受けてやってきた冒険者ですぅ」

「こちらは村長宅で間違いないでしょうか?」


 それを聞いた村娘はびっくりしたような顔をしてアリアとレイアを凝視して目をパチパチさせる。


 少し不快な顔をするアリアが口を開く。


「子供なのは認めますが、厄介なのが来たと思うのは止めて貰えますか?」

「そ、そんな事、思ってませんよ」


 村娘はアリアの言葉を苦笑するように否定するが、アリアの力を知るレイアが目付きを鋭くさせる。


 レイアの視線を恐れるように一歩下がる村娘は家の中に手を向ける。


「ここが村長宅です。父も在宅しておりますので、ご案内……他にもおられるならお待ちしますが?」

「まだいるので、すぐに呼んでくるのですぅ」


 シホーヌがそう言うと出ていくのを見計らうように、


「では、私も父に来客がきたと伝えてから戻ってまりますので少々お待ちください」


 と言ってこの場を離れていく。


 その後ろ姿を睨むレイアの頭にアクアが軽いチョップを入れる。


「気持ちは分かるけど、それが一般的な感想なのは間違いないのですよ? 本来なら貴方達は依頼を受けれる年ではないのですから」


 ぶぅたれるレイアに珍しくお姉さんのように「分かりましたか?」というアクアは、アリアにも注意する。


「意気込みが過ぎたのは分かりますが、貴方の力は多用して良いものじゃないのを忘れてはいけません。無意識に使ったとしても、本人にぶつけて良い事なんてほとんどないのは貴方が一番知ってるでしょ?」

「ごめんなさい……」


 まったく反論の余地がないアクアの言葉に素直を頭を下げるアリアの頭を優しく撫でてあげる。


「ごめんなさい、は、レイア?」

「悪かったよ! これでいいだろ!」


 そう言うとそっぽ向くレイアにアクアは苦笑する。


 アクアが笑っている後ろから残るメンバーを連れたシホーヌが帰ってくる。


「何かあったのですぅ?」

「いえ、何もないですよ」


 シホーヌに問われたアクアは首を振りながら笑みを浮かべる。


 すると、中に戻っていた村長の娘も返ってくる。


「父がお会いするそうです」


 そう言いながらも増えたスゥ達を見る瞳に蔑みを浮かべたのを見たアクアが嘆息する。


「貴方は学習しない人なんですね?」


 そう言うと湖の底のように冷えた視線を送る。


 アクアの視線に短く悲鳴を上げるが、アクアが、「早く案内しなさい」と促すと逃げるように先導を始めた。




 村長の娘に着いていくと暖炉がある部屋で村長が立って待っていた。


「ようこそ、おいでになられました。依頼を受けて頂いた冒険者と伺いましたが、念の為に冒険者証を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」


 おそらく娘から疑わしいと説明を受けていたのであろう村長は娘と違い、やんわりとした言い方と疑ってると気付かせないような目をむけてきた。


 アリアが不機嫌になってるところから親子似たようなモノと分かるがシホーヌとアクアが冒険者証を村長に手渡す。


 受け取った村長が冒険者証を確認すると残念そうに溜息を零す。おそらくランクが5でギリギリの冒険者だと思ったからであろう。


 困った顔を上げようとした時、冒険者証に記入されている一文を見て目を向く。


「貴方がたは北川コミュニティの方達なのですか!」

「その通りなのですぅ」

「ええ、そうですよ。なので、そんなに疑ってかかるだけ疲れますよ? 仮に私達が失敗したとしても他のメンバーがやってきますし……」


 アクアはその場にいるレイア達を見つめて笑みを浮かべる。


「この子達も北川コミュニティに内定してるような子達です。依頼通りの仕事ならこなすのに力不足はありませんよ」


 驚愕な表情でレイア達を見つめる親子は信じられなさそうに見つめていると入ってきたドアが乱暴に開かれる。


 そちらに視線を向けると顔立ちから判断するに15歳ほどの少年だが、体格が雄一並の大男が入ってくる。


「討伐依頼していたのを受けた冒険者が来たって?」


 ズカズカと足を鳴らして入ってくる大男は村長の娘の隣にやってくる。


「そうなの、それがこの子達で……」


 その男に媚びを売るようにする村長の娘にゲンナリしながら大男の顔を見る。顔立ちは悪くはないが軽薄で中身がなさそうな底が知れる男であった。


「似てるのは体格だけで、全てに置いてユウ様と勝負にもならないの」

「スゥ、比べるのは失礼。ユウさんに」


 叱責してきたアリアに「ごめんなさいなの」と素直に謝るスゥ。


 どうやらアリアとスゥのやり取りは聞かれなかったようであるが、見下した視線をレイア達に振り撒き、屈んで威嚇するように覗きこんでくる。


「こんなガキができるなら依頼しなくても俺がサクっと済ませてやるぜ、親父殿?」

「まだ、お前に娘をくれてやると言った覚えはないが、そんなに言うならやってみるか?」


 せっかくやってきたレイア達を無視して話を進める村長達にムッとする。


 調子に乗った大男はレイアの頭をポンポンと叩いて手を置きながら、高笑いをする。


「ああ、任せろよ。この村一番の力持ちの俺がゴブリンなんて始末してきてやるよ」

「いつまで頭を触ってる。気持ち悪い」


 レイアも小さくとも女、心を許してない相手が仕事の関係者とはいえ、我慢の限度が超え、隣で高笑いする大男を見ずに突き出すように出した拳を鳩尾にめり込ませる。


 殴られた大男は1mほど飛ばされると鳩尾を抱えるようにして蹲り、胃の中にあるものを吐き出す。


 フンッと鼻を鳴らすレイアに後ろからアリアがモーニングスターの柄の部分でレイアの頭を強打させる。


 痛みに蹲ったレイアは後ろを振り返り叫ぶ。


「何すんだアリア!」

「何すんだじゃない。ユウさんに口を酸っぱく言われてるでしょ? 弱い人を叩いてはいけませんって!」


 振り返った先には怒れる姉の姿にレイアはコメカミに汗を滴らせる。こうなったアリアに勝つビジョンなどレイアにはなかったので沈黙を守る。


 黙る事でやり過ごそうとするレイアにアリアは嘆息すると大男に近寄り、回復魔法を行使する。


 効果が出てきたようで苦しそうな表情が和らいだのを見て忠告する。


「村一番の力持ちか何か知りませんが、戦いは力だけでは決まりません。レイアのように貴方の身長の半分程度でも鍛えている者とそうでない者でこれほど差があるのです」


 大男は舌打ちをすると視線を反らす。


 どうやら、まだ学習はしてないようだが、レイア達に関わるのは得策ではない程度は理解したようである。


 それを見守ったシホーヌとアクアが村長に話す。


「どうやらこの村は跡取りにも恵まれたようで、私達に用はないようですね」

「私達は、お散歩にきたと思って帰るのですぅ」


 自分達もなんだかんだ言いながらも可愛い子供達と思ってるレイア達が馬鹿にされ、耐えるのも限界があるとばかりに皮肉を混ぜて、この場を辞すると伝える。


 レイア達に帰りましょうと連れて出ようとしたところを村長が呼び止める。


「待って頂きたい。村の者が失礼しました。是非、この依頼を受けて頂きたい」


 この状態で帰られると今回の依頼をもう一度出しても冒険者ギルドで弾かれる事になる。


 レイア達の実力に問題があって帰らせた場合はその限りではないが、今、見た限りでもそれもない。


 しかも北川コミュニティのメンバーである時点でどちらの言葉に冒険者ギルドが重きに置くなど考えずとも村長には理解できた。


 そうなったら、今後、依頼を出しても弾かれ続ける恐れがあるので必死であった。


「村の者と言ってるけど、貴方も失礼したの。ナイファ国にある村の長として見てて情けなくなるの!」


 これでも王女のスゥは国民でそれも村を収める村長が余りに情けなくて憤慨していた。

 村長はスゥが王女と気付いておらず、生意気なガキだと一瞬、顔を顰める。


「しょうがないですぅ。一度だけはこちらが折れてあげるのですぅ」

「そうですね、では、この村の宿を紹介して頂けますか?」

「宿などはありません。家で歓迎致します」


 そう言ってくる村長にレイアが脊髄反射で答える。


「ゴメン被る。ここで寝てたら安心できねぇ―よ! ここで寝るぐらいなら馬車で寝るよ」

「レイア、言葉は選んで? でも、浅慮な行動が目立つ貴方達と同じ屋根の下で眠るのは、お断りです。今回は依頼は受けますが次はお断りしたい村ですね」


 アクアに見限るようなセリフを言われ、まだ何かを言い訳か何かを言おうとするのを無視してアリアはレイアの背中を押して部屋から出ていく。


 つられるようにスゥ達、アクア、シホーヌが続くが最後にダンテが振り返って言葉を送る。


「失敗しちゃいましたね? 北川コミュニティの女性を敵に廻す行為は下策も下策でしたよ。まだ何かしようと思ってるようですが、おとなしくしておいたほうがいいですよ、お兄さん」


 ダンテにそう言われた大男はビクッと肩を揺らす。


「あれ以上、みんなを怒らせると本当に怖い人が来ますからね」


 女の子のように柔らかい笑みを浮かべるダンテは外から自分を呼ぶ声に慌てて村長達に頭を下げると慌てて外へと駆け出した。

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