第127話 私達の最高で最強の男らしいです

 雄一は巴を突き付けながら移動する。


 家を背にすると避けた時に大惨事な為である。


 目の前にいる男を改めて見つめる。


 格好は修行僧そのものだが、なまぐさ坊主、いや、どちらかというと破壊僧といった趣である。


 剃髪の頭に目力を感じさせる瞳、ワイルドな男前さが髪がなくとも分かる。


 だが、そんな眼で見て分かる情報などどうでも良くなるほど、この男からは未だかつてない力を感じて本物だと理解する。


 腕を組んだ格好のまま動こうとしない男、ホーエンはジッと雄一を見つめる。


 それを睨み返すようにしながら雄一はホーエンに告げる。


「さあ、武器を抜け。俺とやりたくて呼んだんだろうが」

「もう既に武器は抜いてある。いつでもかかってこい」


 雄一はホーエンの言葉に眉を寄せるが、どこを見ても武器などないし、見た目からの判断だが、姑息にも見えない武器や、隠し武器などを使うタイプには見えない。


「そうか、お前の拳が武器ということか」

「そんな訳がないだろう。俺自身が武器だ」


 雄一は、その言葉と同時に飛び出す。


 ホーエンの言う言葉は本当かどうかは仕掛ければ嫌でも分かると判断したからである。


 大上段から巴を振り下ろすと、ホーエンは素手の左手で巴の刃の腹を押すようにして剣戟を反らす。


 雄一はその動きに逆らわずに、その動きを利用して反転させて石突きで強打を狙うが笑みを浮かべたホーエンが右手で受け止める。


 そして、ホーエンは繰り出す。


 只の正拳突きを放ってくる。


 それに雄一は巴の柄で受け止めると巴のしなりを利用して後方に飛ぶ。


 息を吐く雄一を笑みを浮かべて見つめるホーエンが話しかけてくる。


「どうだ、俺の得物が俺自身だと信じて貰えたか?」

「ああ、疑って悪かった」


 それと同時にお互い飛び出す。


 雄一は巴で連続突きを放つとホーエンは軽やかなステップでそれを避けると雄一の懐に飛び込んでくる。


 それを嫌った雄一は巴を旋回させることで阻止しようとするが、廻し始めた、ほんの一瞬でホーエンを見失う。


「どこに行きやがったっ!」と叫ぶと同時に雄一は背中から強い力で押される。


 その強さに抗えずに吹っ飛ばされると遅れて痛みが襲いかかる。


 辛うじて、倒れずには済んだが背中からの痛みで雄一の額から汗が滴る。


 ホーエンは掌を開いたり閉じたりしながら、残念そうな顔をして雄一を見つめる。


「おいおい、同じギフト持ちで胸が躍る勝負ができると思っていたら、お前はこの程度なのか?」


 雄一は、舌打ちすると巴で薙ぎ払うようにして生まれる衝撃波をホーエンに叩きつける。


 だが、右腕一本で振り払われるだけで掻き消される。


「おい、遊んでいるのか? 衝撃波はこうやるんだ」


 左手を神速の動きで空撃ちするとその直線上にいた雄一が見えない力に殴られたように吹っ飛ばされ、地面を舐めるように転がる。


 雄一は震える手を突っ張るようにして身を起こすと堰きこむと血を吐き出す。


 それを見ていた子供達が「ユウイチ父さんっ!」と悲痛の叫びを上げる。


「聞こえるか? お前を父と呼ぶ子らが、泣きながらお前を呼ぶ声を? お前が英雄や勇者なら秘められた力が目覚めるところだな」


 そう言いながら雄一に向かって歩いてきたホーエンがまだ起き上がれてない雄一の腹を蹴り上げ、上空に飛ばす。


「さあ、お前の本気を見せてみろ!!」

「クソッタレがぁ!」


 雄一は体内にある魔力を練り上げて、水で作り上げた巨大な水槍を作り上げると渾身の力を込めてホーエンに放つ。


 ホーエンは逃げる素振りも見せずに腰溜めをして雄叫びをあげて、渾身の正拳突きを水槍に叩きつける。


 直撃と同時に爆発が起きる。


 雄一はホーエンが居た場所をジッと見つめたまま、肩で息している呼吸を整えようするが上手くいかない。


 水蒸気が晴れると拳を突き出したままの格好のホーエンの姿を確認すると雄一は、舌打ちするが舌打ちすら弱々しい。


「久しぶりに血を流したぞ」


 突き出している拳から一筋の血が流れた痕が見えた。


 それを見た雄一が、再び、魔力を練り上げようとするが、膝に力が入らなくなり片膝を着いてしまう。


「だが、それだけだっ! 失望したぞ、水のギフトを持つ者よ」


 雄一の下にやってきたホーエンは雄一の胸倉を掴むと空中に放り投げると全ての骨を折ろうとするかのように絨毯爆撃のように乱打を入れて、最後の一発で上空高くへと吹っ飛ばす。


「魔法とはこう使うものだ!」


 ホーエンは雄一を飲み込んでもまだ余るというほどの火球を生み出すと意識があるかも疑わしい雄一に直撃させる。


 大爆発を起こして、そこから弾かれるようにして雄一は地面に叩きつけられる。


 それを眺めるホーエンは、雄一の手が僅かに動いたのを見て、まだ息がある事に気付くと雄一の傍に向かう。


「期待はずれではあったが苦しめる趣味などはない。楽にしてやろう」


 そう言うと拳を振り上げるホーエンと雄一の間に飛び込む影に気付き、振り上げた拳を止める。


「何をしている。男と男の勝負を邪魔するな、水の精霊と女神よ」


 雄一を庇うように腕を広げて立ち塞がったのはシホーヌとアクアであった。


「いいえ、どきません。私達は助け、助けられる関係です。いつも助けられてばかりのお返しをする時なのです」

「そうなのですぅ。だいたい、男と男の勝負とか訳が分からないのですぅ。女の私がそれに遠慮する理由などないのですぅ!」


 ホーエンは「くだらん」と呟くとシホーヌとアクアの首を掴むと明後日の方向へと放り投げる。


 再び、拳を振り上げたホーエンを遮るように2人は飛び出してくる。


 その2人を眉を寄せてどうしたものかと唸るホーエンを援護するように、アグートが2人を馬鹿にする言葉を吐く。


「貴方達は男を見る目がないのね。それに引き換え、私が見初めたホーエンは素晴らしいわ。最強よ」


 鼻で笑うように言われた2人は土で汚れているのを払う事もせずに、迷いのない笑みを浮かべる。


「男を見る目がない? ないのは赤い馬鹿のほうなのですぅ。貴方達の廻りを良く見るのですぅ。誰もいないのですぅ。でも、雄一にはいつも誰かが傍にいる、一緒に居たいと思わせてくれる最高の男なのですぅ」

「その通りです。文句言ったり、折檻してても主様はいつも傍に居てもいいと思わせてくれるのです。主様がいる所が私達の居場所なのです。それと、もう一つ勘違いをしていますよ」


 歯軋りするアグートが、「何をよっ!」と叫ぶ。


「ユウイチが……」

「主様が……」

「「最強の男です!!」」


 ワナワナと震えるアグートがボソボソと呟く。


 聞こえなかったホーエンが問い直すとアグートはキレたように叫ぶ。


「もう目障りよ! 全員消して。アクアを消した罰は受ける覚悟はできたわっ!」


 そう言われたホーエンではあったが、さすがに消すのはどうかと思い、裏拳で2人を吹っ飛ばす。


 2人が戻ってくる前に雄一にトドメを入れようとすると今度は、子供達が雄一を庇うようにホーエンの前に立ち塞がった。


 泣きそう、いや、既に泣いている子もいるし、ほぼ全員の足が震えている。


 ホーエンが自分の命を奪う事など簡単と理解できていて、それでも立ち塞がり睨みつけてくる子供達の目に圧されてホーエンは我知らず、後ずさる。


「お前らを守る事もできん男を守ろうというのかっ!」

「僕達は、ユウイチ父さんがケンカが強いから好きなんじゃないっ! ユウイチ父さんは暖かいんだ、いつも見守ってくれてるユウイチ父さんが好きなんだ」


 幼い子の言葉とその瞳の力にホーエンは、また一歩後ずさる。


「貴方には決して分からないでしょうね。さっきから譲歩してるような対応しているけど、それは優しさじゃないわ。自分の有利が動かないと思ってるから油断してるだけ、男だろうが、人としてだろうが、貴方は先生に勝つ事は無理よ」


 この腹立たしい相手を殴りたくても、自分の拳が届く事ないと分かる自分が悔しくてティファーニアは涙する。


 自分でも気付いていなかったホーエンの腹の内をばらされて、怒り心頭になり、ティファーニアに拳を振り上げると上空を旋回していた黒鳥が急降下して襲いかかってくる。


 それに気付いたホーエンが振り払うと地面に叩きつけられた黒鳥は「ピィィ……」と弱々しく鳴くと急速に体が小さくなっていき、ひよこサイズのクロに戻る。


 近くにいた子供が「クロッ!」と声を上げて抱き抱えると、消え入るように鳴くクロを抱き締めてホーエンを睨む。


「一緒に死にたいなら、死なせてやるっ!」


 激情に駆られたホーエンは全力の魔力を込めた火球を作り始める。


 ホーエンが子供達に意識を奪われている内に、シホーヌとアクアは脳震盪を起こしたせいで立ち上がれなくなってたらしく這いずるようにしてようやく雄一の下にやってくる。


 そして、雄一を守るように覆い被さる。


「ごめんなのですぅ。傷を癒してあげたいけど、さっき結界の強化に全部使ってしまったのですぅ」

「申し訳ありません。いつも御迷惑ばかりかけているから、何か役に立ちたかったですが、やっぱり私達はいつでも役立たずでした」


 覆い被さりながら、雄一に抱きつく2人は雄一の温もりを味わうかのように頬ずりをする。


 愛しさが溢れる柔らかい笑みを浮かべる2人は雄一の背中に顔を伏せる。


「ユウイチ、大好きなのですぅ」

「心からお慕いしておりました、主様」


 その言葉に呼応するかのように雄一の手が握り拳を作った。

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