第102話 朝日を見つめて願う、だそうです

 3人の少女を連れて家に帰ってくると家の前には、テツ、ホーラ、ポプリの3人がいつもの訓練に出かける準備をしてる状態で立っていた。


 テツ達には何も言わずに出てきたので、いつも通りに訓練の用意をして雄一を待っていたが、台所にも寝室にもいないから帰ってくるのを待っていたのであろう。


 雄一が女の子を3人、しかも1人は雄一の服を着ており、ショートヘアで毛先が跳ねてる子がお姫様抱っこされているのを見てポプリがいきり立って騒ぐ。


「もう、もう! 私というものがありながら、他の女と朝帰りとは良い御身分ですっ!」


 ポプリの反応に雄一は苦笑いをするだけだが、雄一の傍にいる長い栗毛の髪をポニーテールにして腰ぐらいまで伸ばす少女と黒髪を束ねて前に流している少女2人は恐れて雄一の後ろへと逃げ込む。


 いきり立つポプリを押し退けてホーラが前に出てくる。


「確か、アンタらは、アンナ、ガレットと」


 雄一が抱える少女を見つめて、


「ルーニュさんだったかな? なんでユウと一緒にいるさ」


 どうやら、ホーラとは面識がある子達だったようである。


 栗毛の子がアンナで黒髪を前に流す子がガレットのようだ。


 これは助かるとばかりに最初に伝えないといけない事実を伝える。


「ルーニュと言ったか? この子に服を着せてるが如何わしい事をしたという訳じゃないからな?」


 雄一の服を着て、ボォーとした表情を変えない少女を見つめてからホーラに信じてくれ、と目で訴える。


 そんな雄一を見て、嘆息をするホーラと未だに「もう、もう」が収まらないポプリとの間でテツはオロオロしていた。


「まあ、アタイも似たような格好でここに来たから一応は信じてやるさ。事情は聞かせて貰える?」


 そう言われた雄一ではあるが内容が内容なので、どう答えたらと思案し始める。

 だが、悩む雄一を横で見つめていた雄一が最初に助けた子、アンナが代わり説明を始める。


「えっと、ホーラ? 噂は良く耳にしてたけど、直接話すのは初めてだよね? 多分、ユウイチさんは、私達の事を思ってどう答えたらいいか悩んでると思うから私から話すね?」


 アンナの言葉を聞いた時点で、あまり良い話ではないと悟ったホーラの表情は曇るが頷く。


 ポプリもアンナの言葉で不穏な空気を感じたようで話を聞く体勢になる。


「あの~、今の感じだと僕は聞いても大丈夫ですか?」


 遠慮がちにテツが聞いてくるがアンナは苦笑しながら頷く。


「正直、男の子には特に聞かれたくない内容だけど、テツ君だよね? ユウイチさんと一緒に暮らしてるなら、多分、早いか遅いかの違いしかないと思う。だから、他言無用でお願いね?」


 テツが直立して、「ハイッ!」と答えるのを見てアンナは微笑む。


「私達は、パパラッチに拉致、もしくは、騙されて連れられてきたわ。そして、私達は、貴族、もしくは、商人達への商品にする為の調教をね」


 目を伏せながら話し続ける。


「私とガレットは、ギリギリ、ユウイチさんが来てくれて助かった。でも……」

「ああ、俺が遅かったばかりに彼女は心を閉ざして……」


 雄一が悔しそうに言うと隣にいるガレットが申し訳なさそうに言ってくる。


「あのユウイチさん? ルーニュさんは、それが通常です。確かにあの直後は放心されてたようですが、もういくらか落ち着いたようで、いつものルーニュさんです」


 雄一が、「へっ?」と間抜けな声を出して、ガレットからルーニュに視線をやる。


「ありがと、助かった」


 袖からチョコンと出た指を、ぶぃ、と示してドヤ顔してくる。


 雄一は、目を点にしそうになりながら、「結構、逞しいんだな?」と言うとドヤ顔したままのルーニュが言ってくる。


「女の子としての大事なモノは失った。でも、この出会いはモノにしてみせる」


 ルーニュは、「例え、引け目を利用してでも」と呟き、再び、ぶぃ、としてきて顔だけでなく口でも、「どやぁ」と言ってくる。


 雄一はさっぱり状況が理解できなくてテツを見るが、「僕に意見を求めないでください。既に一杯一杯ですっ!」と目を廻し気味でアテにならない。


 仕方がないとばかりにホーラに視線を向けるとそこには鬼がいた。


「ユウ、どうやらルーニュさんはもう大丈夫みたいさ。降ろしてあげるといいさ」


 勿論、今のホーラに逆らうという選択肢などない雄一は、キョドりながら返事を返すと降ろそうとする。


 しかし、ルーニュは雄一の首に手を廻して、「もうちょっと」とぶら下がって降りようしないが近寄ってきたホーラに引きずり下ろされる。


「ルーニュさん、いい加減にするさ。これ以上、ライバルはいらないさ」

「ん、でも、恋はバーニング。ハンバーグじゃない、燃え上がるモノ」


 ホーラは、「この人の言う事は前から意味不明さぁ!」と頭を掻き毟り、ホーラを応援しようと思っていたポプリも目を点にする。


 雄一とテツは置いてけぼりを食らい、遠い人達を見るような目で見つめていた。


 近くに寄ってきたガレットに気付いた雄一は、関係ない質問で心のリセットを計る為に質問を投げかけた。


「さっきから気になってたんだが、なんで、お前達はルーニュの事を『さん』付けで呼んでるんだ?」


 どう見ても一番年長には見えない。正直、ホーラより年下に見えた。


「そのぉ、多分、ここにいる一番の年長がルーニュさんだからです……勿論、ユウイチさんを含めて」


 雄一とテツの時間が止まる。


 ガレットは、「大人ぽいですけど、ユウイチさんは16歳ですよね?」と優しさ溢れる聞き方をすると説明を続ける。


「アンナがホーラと同じ年だったと思います。私が13歳で、ルーニュさんが17歳だったはずです」


 びっくりな事実を突き付けられた雄一とテツは、阿吽の呼吸というべきか、タイミングばっちりで同時にルーニュをガン見する。


「ウチ、合法ロリ」


 再び、ドヤ顔するルーニュがない胸を張って言ってくる。


 ホーラとポプリが、「何語を話してるか分からないっ!」と叫ぶが、雄一は戦慄する。


 久しぶりに異世界知識が仕事する気になったようで伝えてくる。


『トトランタに合法ロリなんて言葉なんて存在しないのですぅ~。何故なら、ロリの年から結婚が出来るからなのですぅ』


 久しぶりのせいか、妙に張りきった感じで説明してきた異世界知識を聞き流し気味で聞く。


 雄一は真実に辿り着く。


「そうか、これが本物の電波系か……」


 世界を股にかけた雄一だから辿りついた真実であった。



 今日の訓練は中止にして、3人をお風呂に連れて行ってくれ、とホーラとポプリに頼み、雄一がお湯を張ると入れ替わりに5人はお風呂に向かった。


 戻ってきた雄一は、訓練を中止にした事により、いつもより長い時間朝食に時間を取れるから少し手を込んだモノをと考えるが、子供が喜びそうで分かりやすいものが良いだろうとアンパンを作る事にする。


 今日のオヤツに使おうかと思っていたアンコを利用して製作を開始する。


 いつも通りに生地を作る。


 発酵待ちをする間にコーヒーでも飲もうとしてるとテツが入ってきた。


「よう、テツも飲むか?」

「えっと、はい、お願いします」


 テツの分はミルクと砂糖を多めに入れて手渡す。


 受け取ったテツは、コップに口をつけるとコップと雄一を交互に見つめ出す。


 その様子を見た雄一は嘆息すると雄一が口を開く。


「いつだったか、お前と一緒にこうやってコーヒー飲んでたな。あの時は冒険者になりたい、だったか? あの時と同じような目をしてるところを見ると言いたい事があるんだろ?」

「はい……どうして、今回、僕達を置いて行ったのですか? 多分、リホウさんは行ったんですよね?」


 雄一は黙ってコーヒーに口をつけるだけで返事はしないが、テツは言葉を紡ぎ続ける。


「僕達がショックを受けて立ち直れないと心配したんじゃないのでしょうか? ユウイチさんの気遣いは嬉しい、でも、見縊らないでください。僕達はショックを受けても立ち上がってみせます」

「それが体験する価値のないものでもか?」


 そう言ってくる雄一の言葉を被り振る。


「価値はあります。ユウイチさんにとって可愛い娘という事は、僕達にとって可愛い妹であることを忘れないでください。これはミュウの家族の為にしてるんですよね!」


 雄一に必死に訴えるテツは、絶対に引き下がりません、という意思を込めて見つめる。


 テツに見つめられた雄一は頭をガシガシと掻いて苦笑を浮かべる。


「これは一本取られたな。ああ、分かった。今度はお前達にも声をかけよう。だが、忘れるな? 今回以上の事もあるかもしれない、いや、きっとあると思っておけ」


 雄一にそう言われたテツは、嬉しそうに返事を返して歯を見せて笑う。


 そんなテツから勝手口に視線を切り替える雄一に気付いたテツが振り返る。


「いやぁ~、テツ君、助かるよぉ。これで俺の負担が減るだろうから」

「心配するな。テツ達に廻しても他の仕事を押しつける」


 勝手口の扉が開き、入ってきたのはリホウであった。


 雄一の言葉に、「マジですか? ちょっとは加減してくださいな」と泣き事を言ってくる。


 突然にリホウが登場して驚いてるテツを放置して雄一が「どうだった?」と聞き返す。


「はい、パパラッチのボスは捉えました。まだ触りしか取り調べはしてませんが、黒幕は確定ですね。引き続き、情報の吸い出しはします」

「そうか、なら王都の準備も必要だな。昨日、入団試験を受けに来ていたストリートチルドレンのパーティに配達を頼むか」


 雄一は、以前、ホーラ達と一緒に冒険者ギルドに行った時にすれ違った少年達を思い出す。


「ああ、いましたね」

「無事にお勤めを済ませたら入団を許可する、と言ってやるといい。どうせ、毎日の生活で精一杯だろうから旅の資金も出してやれ」


 昼までには手紙を用意しておくとリホウに伝えると「手配しておきます」と会釈と同時に勝手口から出ていった。


「さあ、テツ、これから忙しくなるぞ、しっかり着いてこい」

「はい、どこまでも!」


 雄一はテツに口の端を上げる。


「だが、その前にパンを作ろうか」


 雄一とテツは微笑み合うとアンパン製作に取り掛かる。


 すると、風呂から上がってきた5人が台所にやってくる。


 パン作りをする2人を見たアンナが劇的な反応を示す。


「えっ? ユウイチさんって料理が出来る人なんですか?」

「おいおい、馬鹿にするなよ? これでも俺は主夫が本職だ」


 胸を張っていう雄一をアンナとガレットは目を点にさせ、テツ達は苦笑する。


 ルーニュは手を叩いて「おおっ、これは更に欲しい旦那だ。ウチは食べる人として頑張る」という言葉を聞いて駄目っ子が追加された予感がヒシヒシしてきた。


 雄一の手際の良さに目を奪われながらアンナは語る。


「私、料理人になって店を開くのが夢なんです。色んな店に行って頭を下げて働けるところを捜して見つけた場所で1年、薄給で頑張ったのですが、一度も作ってる現場を見せて貰えなくて、こっそり覗こうとして見つかって気を失わされたらあんな目に遭いました……」


 雄一はアンナの話を聞きながらも手を動かし続ける。


 アンナは目をキラキラさせながら雄一を見てくる。


「師匠と呼んでいいですか?」


 雄一は、笑いを堪えようとするが失敗し、苦笑を浮かべる。


「別に構わないし、いくらでも知ってる事は教えるさ、ただな? その働いてた店の名前と店主の名前を教えるのが条件だ」


 首を傾げるアンナであったが「そんな条件でいいなら」と笑顔を弾けさせる。


 その日の夜にその店が瓦礫の山になり、店主が行方不明になるのは別の話。


「さあ、早速、俺達と一緒にパンを作ろうか。俺達の真似からするといい」


 アンナは、「やったー」と喜んで雄一の隣にやってくる。


 アンナに生地を渡してやり、ゆっくりと隣で実践してやる。


 気付くとガレットも反対側で真似をしてるのに気付き、目をやるとビクッとさせて手を離す。


「興味を覚えたら何でもやってみろ。失敗して取り返せるミスはいくらでもな?」


 雄一は、歯を見せてニッコリと微笑むと頬を朱に染めたガレットが隣に戻るとゆっくりと手を動かして捏ね出す。


「師匠っ! 次はどうするの!」


 したかった料理をできているのが嬉しくて堪らないアンナは騒ぎたてる。


「次はな?……」


 雄一達は、楽しげな声を上げて、アンパン作りに精を出す。


 ティファーニアがしばらくして合流して、朝食作りが進み、匂いに釣られたお馬鹿さん2人が子供達を引き連れてやってくる。


「なんですか? この上品な甘い匂いは、主様、私、我慢ができません!」

「もう、これ食べても私は悪くないのですぅ? もう限界なのですぅ!」


 そんな馬鹿な事を言ってくるので子供の教育に悪いと判断して2人に拳骨をプレゼントする。


「さあ、もうすぐできるが、少しでも早く食べたいなら食器を運んだりするお手伝いをするんだな」


 雄一がそう言うと、子供達が我先とばかりに手を上げて手伝いを立候補してくる。


「ユウさん、これを運んでいい?」


 クロを頭に載せたアリアが牛乳が入った瓶をミュウと一緒に持ちながら言ってくる。


「ああ、持って行っていいぞ? 気を付けてな」

「がぅ、頑張る」


 レイアは、サラダに乗ってるトマトを凝視してサラダの大皿に触ろうとしてるのを見た雄一が呟く。


「まさか、運んで自分の皿にはトマトを入れずに済ませようとか考えてないよな、レイア?」


 雄一の言葉にビクッと肩を弾けさせるレイアを半眼で見つめるとうろたえるレイアが可愛くて口の端が上がる。


「ば、馬鹿野郎っ! そんな事しねぇ!」


 そう言うとサラダの大皿を持とうとするが失敗して上げられずに地団駄を踏んでいるとホーラが手伝いを買って出る。


「ほら、一緒に持って行くさ」


 仲良く運ぶ姿に癒されながら廻りを見渡す。


 更ににぎやかになる台所を見つめ、このような笑顔を増やし、守っていってみせると子供逹を見て笑みを浮かべる。


 頷きながら見つめる雄一の隣で金色と青いのと跳ね返り頭の3人が同じように頷いてドヤ顔をしている。


 とりあえず、後ろから頭を叩き、折檻を加えておいた。


 涙目で睨んでくる3人を無視して窓の外を見つめる。朝日の光に目を細めて微笑んで願う。


 子供達に幸あれ




 3章  了

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