第41話 王都の名前は、キュエレーらしいです
森を抜けてからは特に問題らしい問題はなく、強いて言うならテツが水樽と食糧を入れている木箱の間で三角座りをして、なかなか出てこない事に切れたレイアにガシガシと蹴られた事ぐらいであろうか?
今は、やっと折り合いが着いたようで雄一と一緒に川の近くで夕食の準備に追われていた。
今日の夕飯は鹿肉で肉三昧である。
ここに来た時にいた鹿を発見したミュウがせがむので雄一が捕獲し、解体した。
以前、サバイバル技術に中二してた時に、鹿のさばき方を検索したら写真付きでされていたのを見たのをうろ覚えでやってみたら、意外とできたので驚いた。
料理の魚を下ろしたりなどの基本が出来ている雄一だからなのかもしれない。
テツは、雄一の指示で今日、食べきれない量の鹿肉を塩揉みして塩漬け作業をするとアクアに渡し、保冷して貰うように言われて指示通りに仕事を終えてた。
鹿肉は癖が強いので夕飯に食べる鹿肉のステーキの味付けをコショウを多めに振りかけ味付けをする。
男2人、汗を掻きながら火の前で、せっせと肉を焼く傍ら、女性陣は岩陰でお湯を沸かし、旅の汚れを拭っていた。
「なんとなくなんですが……汗を流す僕達が汗を拭えないのに料理待ちする女の子達は汗を拭えるって何か釈然としないモノがありますよね?」
「いうな、男とは耐え忍ぶから格好いいんだぞ?」
そこを返さないと焦げるぞ、と雄一に言われて慌てて、引っ繰り返すテツは諦めの籠った溜息を吐く。
「それに先に汗を拭ったら、肉を焼いて汗を掻いて、また拭うのが2度手間だぞ? しかもだ、先に汗を拭って待たせたら不機嫌になったあいつ等の機嫌取る方が大変だろ?」
「それはそうですけど、どうして家の女性陣は料理をしようとしないんでしょうね?」
本気でボケてるのか、それとも雄一に真実を口にさせたいのかと一瞬疑うが、テツはマジで気付いてないと確信を持って雄一は口を開く。
「お前は、シホーヌとアクアが作った飯を食いたいのか? 以前、あいつらが台所に立った事があるらしい。俺とホーラは冒険者の仕事でいなかったから詳しくは知らないが……アリアは顔を青くして震えてたし、ミュウは、ガゥガゥ泣いて、俺の頭を噛む。レイアですら、お願いだからあの2人に料理させないでと俺に嘆願してきたぞ?」
「まさか、そんな酷い人いないでしょ? 冗談ですよね?」
そんな事あるはずがないとばかりに苦笑するテツを真顔で見つめる雄一の顔を見て、「本当なんですか?」と聞いてくる。
「そこまで、疑うなら、あいつ等に言っといてやるよ。テツが2人の手料理を食べたいと言っていたって」
「待ってください。念の為に僕は避けておこうと思います。万が一という事がありますし、シホーヌさんとアクアさんを疑う訳ではないんですが……」
「私とアクアがどうしたのですぅ? テツ?」
後ろからいきなり声をかけられたテツは、ビクッと肩を震わせて、ゆっくり振り返ると汗を拭ってスッキリしたようでホッコリしているシホーヌとアクアが先頭に女性陣が帰って来ていた。
「テツ、貴方、凄い汗を掻いてますよ? もう私達は汗を拭い終えたので拭いてきたらどうですか?」
アクアに心配そうにされて、[後で頂きます]と袖で汗を拭う。
テツは、雄一に視線を戻すと色んなものを飲み込んで言ってくる。
「ユウイチさん、僕はグダグダ言わずに肉を焼くので……どうか許してください」
「分かればいい。取り返しの付く無茶はしてもいいが、付かない無茶はするなよ?」
半泣きのテツが、雄一に頭を下げるのを見てシホーヌとアクアが顔を見合わせて首を傾げる。
離れて見ていたホーラが、馬鹿馬鹿しいとばかりに失笑する姿があったと補足しておこう。
鹿肉はクセがあり、味が濃い目にする必要があったので、ちょっと辛そうに食べるシホーヌがいたぐらいで特に問題はなく、みんなで騒ぎながら食事を取った。
後片付けを済ませ、雄一はテツに先に体を拭いて休むように伝える。
雄一にそう言われたテツであったが質問する。
「食事の前に塩漬けにしたものを燻製にするんですよね? やり方を教えて貰えればやりますよ?」
テツに塩漬けにして貰ったのは、燻製にする為の準備の為であった。
「気持ちは有難いが、俺もやるのは初めてなんでな、教えられるほど分かってないから……今回は気持ちだけ貰っておく」
そうテツに伝えると納得したようで、「お先に失礼します」と雄一に伝えると体を拭きに向かった。
テツを見送った雄一は、夕食の時に空けた水を入れていた樽を取りに行き、中が渇いているのを確認するとテツが塩漬けにしてくれた鹿肉を川で洗いに行く。
塩味が薄くなるまで洗い、布巾で水気を拭き取り紐で縛る。ボンレスハムと言われたら想像する絵を思い描くような感じに縛る。
ちなみに、ボンレスとはボーン(骨)レス(なし)という意味が語源らしい。今ではロースではない部分、主にモモ肉という分け方になってるそうである。
洗った鹿肉におろしニンニクとコショウを多めに味付けをする。
本当なら保冷して自然乾燥をするところだが、時間が惜しいので水魔法で乾燥促す為に水気を飛ばす。
丈夫そうな木を膝ぐらいの高さに調節して飯盒をかけるように作り、そこに鹿肉を吊るす。
その下に桜の木に似た木をナイフでゴボウを、ささがきにするようにして手早く切っていく。
それが出来終え、火を点け、煙が出るのを確認すると樽を上から被せて1時間放置する。
1時間経過して取り出して少し切ってみて味見をしてみると思ったよりまともにできており満足するが、大きな失敗があったことに雄一は気付く。
「しまった、この樽に匂いが付いてしまって飲み水用には使えなくなったな……」
うっかりを発動させてしまった雄一は、頭をガリガリと掻きながら、仕方がないと諦めてできた燻製の鹿肉を馬車の中に吊るすと雄一も体を拭きに向かい、それを済ませ、みんなで早めに就寝する事にした。
▼
そして、出発して3日目。
ここまで、モンスターや獣に多少遭遇する事はあって、森で住んでた時にゴブリンと戦った事があると意気込んだミュウが先陣を切ろうとしたのを必死に雄一が止めた以外では、大きな問題もなく平穏な旅路であった。
昼過ぎに前方にダンガと比べ物にならない大きさの街が見えてくる。
おそらく、アレが王都であろうと思い、見つめるが御者をする雄一は余り気乗りしない表情で見つめるが、子供達とプラス2名はテンションが上がって大変であった。
「ユウイチ、ユウイチ。あれが王都ですぅ? 早く行こうなのですぅ!」
そうだ、そうだ、とアクアとレイアが騒ぐのを苦笑しながら見つめる雄一の肩の上でもミュウが暴れるが、きっと意味は分かってないと思われる。
みんなと一緒に浮かれてない事に疑問に思ったホーラとテツが近くに寄って来て、どうしてなのかと問いかけてきた。
「いや、確かに楽しみにしてる部分もあるんだが、多分、俺、そして、ホーラとテツにとっては面倒に思う事のほうが多そうだな、と思うとウンザリしてな?」
「どうしてさ?」
テツもホーラの言葉に追従して首を傾げてくる。
雄一は、後ろで騒ぐメンバーに聞こえないように意識して答える。
「俺達は、これから冒険者ギルドで特例扱いでランクアップしにいくんだ。色んな意味で目を付けられるだろう」
まだイマイチ、ピンときてない2人に雄一は続ける。
「いつだったか……ホーラに娼婦の斡旋していたダスクだったか? アイツが言ってた言葉には1つだけ思わず、俺も頷ける言葉があったんだ」
眉を寄せるホーラが裏切られたような顔をして、「どういう事さ?」と問いかける。
「4の冒険者の自分から見て出来る訳がない、と騒いでたところだ。あの一言だけに関しては検証というか……証拠を見せない限り、納得させるのが無理な部分であったのは俺も認めるところだ」
だから、雄一はホーラとダスクが対決させる事で証明させる方法を取ったのである。
裏切られた訳ではないと理解して、ホッとするホーラの横でテツが、「あっ!」と声を上げるのを見た雄一は苦笑いをする。
「つまり、手紙に書かれていたテストというのは……」
ホーラもこの時点で気付き、片手で目を覆って天を仰ぐ。
「そう、つまり俺達は、2と3の冒険者として可でも不可でもない結果を弾きだして認めさせないと駄目ってことだ」
出来過ぎてたら目の敵にされるし、出来が悪いと叩かれる。
そのうえ、そつなくやっても面白みがないとか、飛び級させる必要があるのかとか言いたい放題だろうな、とウンザリした顔を見せる雄一に乾いた笑いをする2人。
「俺達は、王都で楽しむ事ができると思うか?」
「できる!……といいな、とは思うさ……」
俺もそう思う、とホーラとテツに苦笑いをする雄一。
「どうなるかは、行ってみないと分かりませんよ、ユウイチさん! 楽しくなると信じて向かいましょう。ここから帰るのは馬鹿馬鹿しいですし?」
悩むのを止めたテツは、短絡的に上手くいくと信じると言い放つ。
その思いっきりの良さに雄一とホーラは顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「じゃ、面倒事はテツに押し付けるという事で問題ないらしいさ?」
「そうなのか? テツ、男前だな?」
押し付けられて慌てるテツを横目に雄一は、笑みを浮かべて笑い声を上げながら馬車を王都へと向けて速度を上げた。
そして、夕方になる前に王都『キュエレー』に北川家一行は到着した。
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