第6話 気立ての良い受付嬢をお願いします

 冒険者ギルドに入ると、雄一が思っていたような場所ではなく、綺麗で役所みたいな雰囲気の場所であった。


 雄一が思っていた混雑してる雰囲気どころか、人がほとんどいないし、何より酒場がない。倒したモンスターを換金するような場所も見当たらない。


 一瞬、違うとこにきたか、とキョロキョロしていると雄一が困ってる人だと思われたのか、受付にいる金髪の耳の長い人に手招きされる。


 受付は長い金髪のエルフかっ!? とウキウキしながら近づいて行くと、近づけば、近づくほど歩みを遅くなり、受付に到着した時には項垂れた雄一の姿があった。


「冒険者ギルドにようこそ、何かお困りですか? という言いますか、受付に着いて早々に項垂れてどうされましたか?」

「なんで受付が男なんだ? そこは普通は女が出てくるとこだろう?」


 一応、聞くが男だよな? と問う雄一に受付の男は、


「勿論です。なんでしたら、見て確認しますか?」


 そう言って、立ち上がるとおもむろにズボンを脱ごうとする受付の男を必死に止める。

 普段、自分ので見慣れているものを見せられて面白いはずがない。まして、女かと思ってしまえる奴に負けてたら寝込む自信がある。


 残念です……とまったく表情を変えない受付の男は、何事もなかったように雄一に声をかける。


「先程のご様子と、私が受付の中で唯一の男ということを知らない貴方は新規の方ですね?」


 そう言ってくる男を見つめて、雄一は迷わず言葉にする。


「チェンジでお願いします」

「お断りします。今は私の仕事の時間でありますので」


 まったく表情を揺るがさない鉄面皮な受付の男はシレっと答えてくる。


 それで、登録だと思ってお話を続けても? と聞いてくるので頷く雄一。


「説明の前に自己紹介がまだでした。失礼しました。私の名前はフェイクネーム」

「名乗る気がないなら名乗るなよ! それ、絶対に偽名だよな? 本当に失礼しましただよ!」


 そう突っ込む雄一にふむふむ……と頷きながら手元のメモ用紙に何やら書き込み、意思があるのか分からない濁った目を向けてくる。


「突っ込みがお好きのようですが、どうせ、突っ込まれるのなら、女性の……」

「だぁぁぁぁぁっ!!! アンタは何が言いたいんだぁ! いや、続きを求めてる訳じゃないからなっ!!」


 今度はなるほど、なるほど、と言って更にメモを続ける。


「で、フェイクネームさんは何を書いてるんだ?」

「はて、フェイクネーム? そんな人は存在しませんよ? 私はミラーと言います」


 ミラーは自分の胸にある名札を指差して、ミラーと一言づつ区切って雄一に覚えさせるように言ってくる。


「コイツ、もう嫌だぁ――もっと真っ当な人、男でもいいから!!」

「なるほど、男もいける口、と? 先に述べておきますが私はノーマルなので除外対象でお願いしますね?」


 雄一は、仕事をする前から体力をガリガリに削られて、膝を着きそうになっていた。

 そして、雄一は呟く。


 「まさか、シホーヌクラスの男がいる、とは……」


 シホーヌはあれでも美少女であるから、見た目でまだ緩和されてるところがあるが、男でイケメンなんて同性からすれば、スタートラインからマイナススタートである。


 息絶え絶えになっている雄一を、見てるのか見てないのか分からない瞳で見つめて口を開く。


「先程の質問ですが、書いてるのは貴方、そういえば、お名前をまだ聞いてませんでしたね? お名前は?」


 どうでもいいや、とばかりに「雄一だ」と名乗る。


「ユウイチ様ですか。それで先程の続きですが、貴方の書類の備考欄に書く内容を書いておりました」


 どんな事を書いてるんだ? と問うと、返事をして一旦区切ると語り始める。


「この方は突っ込み癖があるのに、未だDT。二つ名を、『ノーヒット』とする事を上申します、と書いてます」


 雄一は何も言わずに書類を奪って丸めると後ろにあるゴミ箱へと投げ入れる。


 あっ、切なげに声をだした、この男に初めて、悲しみがミラーの表情に感情が過った。


「私、頑張って書いたんですよっ!」


 裏声で話しながら胸の前で両拳を握るこの馬鹿エルフの頭を遠慮せずに叩く。


「それは女の子がやるから許されるポーズだ。男がやって誰が喜ぶよぉ?」

「そうですね、やってて自分でも気持ち悪かったです。止めてくださって有難うございます」


 ただでさえ、やさぐれた顔をした雄一がミラーに怒力して、精一杯ガンを飛ばすが暖簾に腕押しのようで、何事もないように説明を始める。


「まずは、我がギルドにおいてのランク付けについて、ご説明させて頂きます。1から6までのランクがありまして、1が一番良くて6が最低ということです。ユウイチ様はこの6からスタートになります。そういえば、最低と最低をかけ合わせたら、プラスになるのでしょうか? それとも大きなマイナスになるのでしょうか? 他意はありませんよ? 説明を続けます」


 雄一の瞳に剣呑な光が宿っても自分を貫き通すこの男は大物であった。


「6までとはいいましたが、6はまだ冒険者を名乗る事が許されてません。仮の冒険者ということです。時にユウイチ様は、包○ですか? それとも仮性○茎ですか?」

「お前はイチイチ、茶々入れないと話が進められない奴なのか? 俺はお前みたいに暇じゃないんだが?」


 雄一はミラーの胸倉を掴んでカウンターに引きずり寄せる。


 ネクタイで首が締まって、酸欠に陥っているようだが、目が笑ってない笑顔を浮かべたままのミラーを見て、コイツには何をやっても無駄……と悟った雄一は、


「お願いだから、簡潔に説明をしてくれ……」

「ふっ、私の勝ちのようですね。分かりました、説明を続けます。正式な冒険者と呼称できるのは5からとなります」


 一度、泣きの入ってる雄一をチラッと見て「話に着いてきてますか?」と問われた雄一は頷く。


「次は依頼はここで受ける事ができます。一度にいくつまでという決まりはありませんが、達成できなかったり、マイナス評価が規定に届くとランクダウン、最悪除名処分を受けるので、自分に見合った仕事をしましょう! という事です」

「さっきから気になってたんだが、討伐部位や換金などをする場所がここにないように見えて、疑問に思ってたんだが?」


 ミラーは頷き、最初に登録した人の大半の方が思われる疑問ですね……と雄一に言うと、説明するようだ。


「先程も言いましたが、こちらは依頼を受ける場所、後、今のユウイチ様のように登録に来られる方、後は依頼に来られる方達の為の場所になっています」


 こっちは完全な事務方になりますね、という。


「ここと反対側の入り口から依頼の達成受理や、素材関係の買い取りをする場所と隣接するようにちょっとした酒場もあります」


 どっちも同じ場所でやると混み合う原因になり、最悪、混んでる事で冒険者同士で喧嘩になる事もあるのだろう……と思うと、上手い事やってるな、と雄一は思う。

 そして、雄一がイメージする冒険者ギルドはおそらく裏手にある場所がそうなのだろう、と思った。


「後は、悪い事はしないようにしましょう、という事でしょうか? 内容次第では冒険者ギルドがその者に賞金をかける事になりますので覚えておいてください」


 雄一はせっかく来た異世界なのに賞金首なんかなったら楽しめないじゃないか……と思い、力強く頷き返した。


「説明が前後してしまいましたが、6から5になる為の方法なのですが、2つあります。1つはおそらく、お気付きかと思いますが、いくつかのお使い、清掃、力仕事関係のモノをいくつかやって貰い、それなりの評価が得れると分かり次第、5になって一人前と認められて、自分で好きな依頼を受けれるようになります。そして、お勧めはしませんが、もう1つの方法ですが……」

「それは、アタイが説明してやるさ。既に冒険者として認められた者と一緒に討伐依頼を完了させる事さ」


 その言葉を聞いて、振り返ると薄汚い格好をした頭に着けているカチューシャが印象に残る少女が声をかけてきた。

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