第3話 保護者になる事を決めました
「で、この子達は何なんだ、少なくとも俺には心当たりはないんだが?」
雄一は子供なんていないと全力で言い切れる理由があるので無責任だとは思わないで貰いたい、と必死である。
何故なら、子作り体験をした事がない綺麗な体な為である。
シホーヌはどう答えたら良いものやらと言った顔して顎下に人差し指当てながら「えーと、えーと!」と連呼して「そうだっ!」と、何やら妙案思い付きました! ニンマリすると掌にポンっと拳を打ちつけると言ってくる。
「この子達は、巫女としての素養があるのですぅ。それをユウイチが立派に育て切る事がチートを得た代償なのですぅ!」
「おい、アホ毛女神、今、『そうだっ!』っとか言っておいて、何事もなかったようにそれっぽい理由言ってくるんじゃねーよ。まるっきり嘘言ってます! て言ってるようなもんだろ?」
雄一はシホーヌのマネをして、ご丁寧に動作込みで説明する。
そう言われたシホーヌは「あ、アホ毛?」と頭を押さえながら空色の瞳をウルウルさせて半泣きになりかけるが踏み止まる。
雄一を引っ張って少し離れると、幼女2人に聞かれないかと距離を確認してから耳に口を寄せようと腕を引っ張って「屈め」と言ってくる。
それに、ややウンザリ気味の雄一ではあったが屈むとシホーヌは雄一の耳に片手を添えて内緒話を始める。。
「実はなのですぅ。あの子達の親は事情があっていないのですぅ。本来、引き取るはずの親族は引き取って育てるところなのですが、育てるどころか、そのまま殺してあげたほうがまだ情けがあるというような事を実行していたのですぅ」
チラッと双子を見るシホーヌの視線に憐憫の情が浮かぶ。
そのシホーヌの悲しげな表情と双子の幼女の様子を見て、だいたいの事は察した、察したと言うかここまで聞かされたら雄一が気付けないはずがない。
何故なら特に雄一は近しい体験をしてきているのだから。
双子を改めて見ると、自分が飽食の世界から来たから、余計にそう見えるだけかと思っていたがどうやら、それだけが理由ではないようだ。
チッ……と舌打ちをする雄一は空を見上げる。
空はあんなに突き抜けるように青いのに、どうしてこうも胸糞が悪い事ばかりあるんだ、と……
肺にある籠った空気を一気に吐き出すと「ユウイチ?」と呼び掛けるシホーヌを無視して双子に近づく。
近づいてくる雄一を警戒するように髪の長いほうの幼女が来てから、たいした反応を見せない幼女を抱き締めて守るように背中を見せる。
雄一はそれに対して何の反応も示さす近づくが脅かさないように、ゆっくりと膝に手を当てて、目線を合わす。
「俺は、雄一、て言うんだ。どうやら、しばらく一緒に生活する事になるらしいからよろしくな?」
雄一は精一杯笑顔を意識して、手を差し出す。
差し出された雄一の手を掴もうと手を差し出してくる髪の長い幼女を見て、シホーヌは目頭に涙を浮かべて、口許を押さえる。
シホーヌは確信する。
伸ばされた手が触れる瞬間に、そこに愛情が生まれると。
そして、伸ばされた手が雄一の手に触れると、両手でガシっと髪の長い幼女は握り締める。
それを見たシホーヌは「んんっ??」と唸るが思ってたより強い愛情が生まれたのだろうと誤差と判断する。
シホーヌの想いを無視するように髪の長い幼女は力一杯、雄一を引き寄せようとするが、力云々以前に体重差があり過ぎた為、自分が寄って行く形になるが気にせず、右足を振り上げる。
狙いは違わず、雄一の脛に直撃する。さすがにこれは堪らなかったようで、脛を両手で押さえて屈む雄一の顔が髪の長い幼女の近くにくると迷いもなく、チョキで目潰しをしてきた。
(良い子は真似してはいけません)
雄一が「目がぁ目がぁ」と、どっかの有名な人みたいにふらつき倒れると髪の長い少女が馬乗りにポジション取りすると高い声を上げて言ってくる。
「アタシが勝ったんだ。これからはアタシの言う事を聞いて貰うからっ!」
雄一はチラッと幼女の表情を見ると、溜息を零す。
「オーケーだ。ボス」
両手を上げて、降伏する雄一を見て、ホッとしたのも束の間、唇を噛み締めると髪の短い幼女の下へと戻り、距離を取ってくる。
それを見たシホーヌが、モウ、モウ! とお怒りのポーズを取りながら双子に近づこうとするのを見て、手を取って止める。
振り返ったシホーヌが、どうして止めるんですかっと怒ってくるのを首を振って雄一は、
「いいんだ。今はこれで」
そう雄一が言うが、納得できないっとばかりに詰め寄ってくるのを頭を押さえながら、後で説明するから、と言って今は引かせる。
「引き取れ、と言って来てるからには、最初の援助というか住居などはアテにしていいのか?」
雄一は、俺1人ならなんとでもなると自負するが「さすがにあの2人と一緒に段ボールの家スタートは勘弁して欲しいんだが?」とシホーヌに問いかける。
シホーヌの意識を向ける方向を変えるように聞いてくる雄一に溜息を1つ零して言ってくる。
「勿論なのですぅ。ちゃんと住む場所は用意してあるので案内するのですぅ」
こっちなのですぅ、と西に指を差す。
雄一達もその指に釣られるようにして、そちらを見るがだだっ広い草原があるだけで、街や人が住んでいるような気配が感じとれない。
双子も不安そうにしており、チラッと髪の長いほうの幼女が雄一を見るがすぐに視線を反らす。
短いほうの幼女は最初からずっと雄一をジッと見つめ続けていた。
「おい、そこの駄目毛女神。街どころか、街道がありそうな感じがしないんだが、本当に合ってるのか?」
「だ、駄目毛女神!? それって良くなったの? 悪くなったの? どうなのですぅ!」
雄一の質問をガン無視して「これはとっても重要なのですぅ!」と力説するシホーヌに呆れながら答える。
「微増だが、クラスアップだ……悪い方に」
泣き崩れるように座りこむシホーヌに「面倒臭い……」と口に出しながら近づいて、アホ毛を掴む。
「で、俺の質問の答えはいつ貰えるんだ?」
「イタタタ、痛いのですぅ! 分かったから引っ張らないで欲しいのですぅ。ここから西にユウイチなら歩いて2時間ぐらい歩けば見えてくるはずなのです」
必死に涙目でアホ毛を取り戻そうと雄一の腕を押さえて外させよう、としてるのを見て溜息を零す。
アホ毛を離すとシホーヌは嬉しそうにアホ毛の無事を確認すると雄一を睨むように見てくる。
それを無視して、顔を近づけてくるタイミングに合わせたかのようにして頭にチョップを入れる。
痛がるシホーヌを相手にせず、軽石のような頭に染み込ませるようにして言う。
「さっきの焼き回しみたいで、嫌なんだが、俺だけならそれでいいんだが、こいつらにその距離を歩かせるとか何を考えてるんだ?」
人目の事があったのかもしれないが、もう少し配慮できただろうと声を荒らげずに言う雄一の言葉でどうやら今、気付いたようで項垂れる。
雄一は頭をガシガシ、と掻きながら後ろにいる双子を見つめて駄目だろうな、と呟く。
成人男性が1時間に歩く距離は5kと言われている。つまり、2時間となると10kとなる。そんな距離を小学生にすらなってないような幼女に歩かせるのは酷を通り過ぎるだけではなく、いくら、女の子といえ、細すぎる2人にそんな体力があるようには見えなかった。しかも、髪の長いほうの幼女は、雄一とやりあったことで既に息が上がっていた。
シホーヌをこれ以上、責めてもしょうがない、と割り切ったようで、駄目元だ、と呟いて双子に近づく。
近づく雄一に再び、警戒色を見せる髪の長い幼女に声をかける。
「なぁ、ボス……」
そう呼び掛けよう、とする雄一に髪の長い幼女は被せるように言ってくる。
「レイア、アタシの名前」
雄一は虚を突かれたような顔をするが、少し相好を崩し、再度声をかけ直す。
「オーケー、レイア。ついでにそっちの子の名前を聞かせてくれないか?」
そう言って、レイアに抱かれる髪の短い幼女に視線をやると相変わらず、雄一をジッと見るだけで反応を示さない。
その様子に困った顔をした雄一を見つめて、レイアが「アリアよ」と変わりに答えてくれた。
雄一は「ありがとう」と感謝の言葉を返すが、レイアにはプイッと明後日の方向に顔を向けられる。
それに苦笑いする雄一はそれを追求せずに本題から話し始める。
「少し、問題が発生した。ここから向かうべき場所が、どうやら大人が2時間かかる距離を歩かないといけない」
そう言われてピンとこないようで眉を寄せるレイア。アリアは不動でジッと見つめたままである。
大人の歩く速度が時速5kと言われているのは先程触れた。なら保育園児レベルになるとどうなるだろう。諸説色々あるが、1,5~4倍の違いがあると言われている。
レイアを見る限り、愚図ったりはしなさそうだが、空を見上げて太陽の傾きから、お昼を過ぎたところ辺りのようで、4時間もすれば陽が暮れそうである。
理屈上、ギリギリ着きそうに思うが、忘れてはいけない。そんな年の幼女に4時間休みなしで歩ける訳がない事に。
これでも短めに時間を考えての話である。
「つまりな? レイア達が休まず、歩き続けてやっと街に着けるのが夜になりそうって話なんだ」
レイアはどうやら多少理解したようで、そんな長い時間歩けないと自分で分かったようである。
普通の保育園児レベルでその時間だ。
まして、レイアとアリアの姿を見る限り、明らかに通常の子と比べるものではなかった。
はっきり言って、もっとかかるだろう。
レイアはアリアを見つめて不安そうにしているのを見て、雄一は何やら考えがあるようで少し申し訳なさそうな表情を一瞬だけするが、腹を決めたようでレイアに話しかける。
「そこでだ。俺がレイアとアリアを抱えて歩けば、早く着けると思うんだが?」
「イヤだ! なんでアンタに世話にならないといけないんだよっ!」
噛みつくように言ってくるが雄一は一切表情を変えないが、逆に横で見てるシホーヌのほうがハラハラしていた。
雄一は、レイアにアリアをチラッと見たと分かるように視線を一旦移してからレイアを見て話し出す。
「そうだな、レイアなら頑張って歩けるかもしれないな。じゃ、アリアにもそうするように言って聞かせてくれるか? 少しでも遅れたら、こんなだだっ広い草原で野宿して眠れぬ夜を過ごし、食べ物も飲み物も調達できずに大変だけど頑張ろうね! とな」
ほら、良く見てくれ、と手を広げて、俺達は何も持ってないだろう? と大袈裟に仕草で教える。
雄一の言葉に唇を噛み締めるレイアに胸を痛めるが表情には一切出さないように仏頂面を維持する。
どうしたらいいか悩むレイアにトドメを入れるべく、最後の一押しをする。
「俺はな、初めてきた世界で、何も持ってない状態で夜を過ごすのが耐えれないんだ。頼むよ、怖がる俺を助けると思ってな?」
両手を合わせて頼む雄一を見て、先程まで逡巡していたレイアの表情に強気な表情が戻る。
「しょうがないから情けないアンタを助ける為にこっちが折れてやるよっ」
「それは助かる。ありがとうな?」
そういうと2人に背中を向けて屈む雄一は「おんぶしてやる」と言う。
逡巡するような表情を見せるが、飲み込んだようでアリアの手を引いて一緒におぶさってくる。
2人を抱える事に成功した雄一が立ち上がる時、一瞬、顔を歪める。
だが、すぐに何もなかったかのような顔をしてシホーヌに歩み寄る。
「さあ、行こうぜ。案内は頼むぜ?」
「えっ、うん、分かったなのですぅ」
そして、雄一達はシホーヌの案内されて歩き出した。
それから2時間近く経った頃、気付けば、2人とも雄一の背中で寝息を立てていた。
だいぶ気を張っていたようで、アリアは割とすぐに寝たが、レイアは必死に警戒していたようだが、やはり子供なせいか睡眠欲に抗えなくなって寝てしまっていた。
そんな2人の様子を微笑ましいように見ていたシホーヌだったが、雄一に真面目な顔を向けて聞いてくる。
「そろそろ、教えて欲しいのですぅ。何故、ユウイチに襲いかかったレイアを叱ろうとしたのを止めたのは何故なのですぅ?」
雄一はチラッと眠るレイアを見つめてから口を開く。
「逆に問うが、どうしてレイアは俺を攻撃してきたと思う?」
「そ、それは……分からないのですぅ?」
項垂れるシホーヌはアホ毛をシュン、とさせる。
雄一は、だろうな、分かってたら、俺に噛みついたりしなかっただろうしな、と思い、クスッと笑う。
「レイアはな? 他人の優しさや施しを信じられなくなるほど、追い詰められてるんだよ。自分で勝ち取ったモノじゃないと不安でしょうがないんだ」
雄一は、過去の自分とレイアが重ね、自分で勝ち取らない、と必死になった事を思い出す。
過去の思い出を被り振るようにして溜息を零す雄一の言葉を聞いて、目を見開くシホーヌも徐々に理解が進み始めているようだ。
「しかもだ、そんな事をしてる自分を嫌悪してるんだよ。このガキンチョはな」
自分がやってる事が褒められた事でなく、悪い事だと分かっているが「自分を何よりアリアを守るんだっ!」と言う強い意思が見え隠れしていた。
雄一に降参させた後の表情が罪悪感、嫌悪感を感じている事を物語っていた。
雄一は思う。
自分が闘った時は既に中学生であったし、抵抗する方法も世間の風を借りる事でやれる事が色々あった。何より自分の身だけ守れば良かった。
だが、後ろで寝るこの幼女がどんな事情があるのか知らない。
それでも自分の状況がどれだけ、まだ救いがあったかと思ってしまえるほど、レイア達には救いがなかった事だけは分かる。
「レイア達の年はいくつなんだ?」
「えっと、4歳のはずなのです」
雄一は、歯をギリッと噛み締める。
軽すぎる、そして、小さすぎるっ! と絞り出すように声を洩らす。
確かに雄一は身長が190近くあるし、格闘家か? というような体格をしていることもあるが、4歳児を苦もなく普通に抱えられるほど大きいという訳ではない。それなのに、普通に背中に収まる2人がいた。
そして、思う。
4歳のレイアが大人と話をするのに慣れ過ぎている……と。
自然とそうなったのではない。
明らかにそうならざる得なかったと状況が今のレイアを生んだと理解した。
「絶対に俺が……お前達に年相応の幸せを見つけさせてみせる!」
誓いを口にするように静かに、噛み締めるように言葉にする雄一。
例え、誰がこの子らに幸せになる権利がないと誰が言おうとも、俺は全力で否定して、この子らを俺が肯定してやると。
そんな様子を見ているシホーヌが前方に街が見え始めた事に気付いて、雄一に伝える。
伝えられた雄一は空を見上げて、表情を切り替えて言う。
「どうやら、陽が沈む前に到着できそうだな」
そう言う雄一は少し速度を上げたようで、立ち止まったシホーヌは置いて行かれる。
レイア達をおんぶする雄一の背中を眺めながら、シホーヌは呟く。
「ユウイチ、貴方を選んで、本当に良かったなのですぅ」
「ああぁ? なんか言ったか、シホーヌ?」
まったく聞こえてないと思ってたシホーヌは顔を赤くさせて「何でもないのですぅ!」と声を上げて、駆け寄り「歩くのが速いですぅ」と雄一に文句を言う。
それに、やれやれと溜息を吐き、シホーヌの歩く速度に再び合わせて2人は並んで目に映る街へと向かった。
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